質問主意書

第173回国会(臨時会)

質問主意書


質問第二六号

日本原燃(株)六ヶ所再処理工場の高レベル放射性廃液の安全管理に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十一年十一月十日

川田 龍平   


       参議院議長 江田 五月 殿



   日本原燃(株)六ヶ所再処理工場の高レベル放射性廃液の安全管理に関する質問主意書

 日本原燃(株)六ヶ所再処理工場には高レベル放射性廃液(以下「高レベル廃液」という。)が大量に(約二百四十立方メートル)貯蔵されている。高レベル廃液はあまりに放射線が強く危険なため、ガラス固化し安定化させなければならないが、うまくいかず、アクティブ試験は止まったままである。高レベル廃液は崩壊熱が発生するため絶えず冷却し、また放射線分解で発生する水素を排出しなければ沸騰し水素爆発や場合により硝酸塩爆発の危険がある。したがって大地震などによって起こる停電や配管の破損などで、高レベル廃液貯槽の冷却機能等が喪失すれば大事故につながる。高レベル廃液が環境に漏れだせば北東北や北海道が大惨事の様相を呈することも予想される。
 本年一月に再処理施設の高レベル廃液ガラス固化建屋固化セル内で高レベル廃液が約百五十リットル漏れたが、約十六リットルが回収されただけで、未回収の放射能の行方は明らかになっていない。加えて、十月二十二日にも三回目の高レベル廃液漏えいが同じ箇所で発生している。
 本年三月、ノルウェー放射線防護局(Norwegian Radiation Protection Authority)は英国セラフィールド再処理工場での事故によって高レベル廃液が放出された場合についてのノルウェーへの影響を評価し公表した。英国のような地震がない国の再処理工場について海を隔てた隣国がその事故による高レベル廃液放出を心配している。世界有数の地震大国の我が国では地震による事故の確率が高い。現実問題として事故評価を行い大災害の未然防止に努めるのが当然ではないか。
 民主党マニフェストでは「原子力利用については安全第一とし、国民の理解と信頼を得ながら進める」とある。また、国民が未来永劫この国で幸せに住めることを保障するのが国の役目であり、国はその責任と義務がある。なお、文中の「放射能」は「放射性物質」と同義で使用している。
 以下、質問する。

一 高レベル廃液ガラス固化建屋固化セル内における高レベル廃液の漏えい事故に関して

 本年一月二十一日に発覚した標記高レベル廃液の漏えい事故では、約百五十リットルの廃液が漏えいし、約十六リットルが回収されたと報告されている。しかし、未回収の放射性核種は工場のどこにどのような形で存在しているのか、環境放出はなかったのかが明らかにされていない。
1 未回収放射能について
 日本原燃(株)の公表したデータを元に未回収になっている放射能は広島原爆核分裂生成物の約二・五倍(セシウム137換算)との市民団体の試算もあるが、国として確認している未回収セシウム137の放射能量を具体的に示した上で、それは広島原爆で放出された放射能の(セシウム137換算で)何倍になるのか、政府の見解を示されたい。
2 日本原燃(株)発表の物質収支について
 日本原燃(株)が本年二月十日に公開した「高レベル廃液ガラス固化建屋固化セルにおける高レベル廃液の再滴下について(報告)」の添付資料-8、同報告の二月二十四日改正版の添付資料-10のいずれにも「滴下した高レベル廃液の物質収支について」の報告があるが、いずれも単に漏えい廃液の体積をまとめたものに過ぎず、科学的物質収支と言えるものではない。各核種毎の質量もしくはベクレル単位の漏えい量と回収量、未回収量(内訳)の収支を表すものが物質収支と考えるが、政府の見解を示されたい。
3 詳細な物質収支の報告を求めることについて
 漏えいした各放射性核種について固化セル内のどこにどれだけ溜まり、環境にはどれだけ放出されたのか、明確にすることが周辺で作業をする従業員の安全対策においても、また周辺の人々から安心と信頼を得るためにも必要な科学的なやり方と考える。あいまいなままに済ますことは従業員や周辺住民の被ばくの機会を増すことになる。政府は、日本原燃(株)へ科学的な物質収支の報告を今後求めるのか、報告を求めないのならばその理由を明らかにした上で、政府の見解を示されたい。
4 本年二月に大気放出された「その他α線を放出しない核種」の内訳について
 日本原燃(株)の公表した安全協定に基づく定期報告書(三月分)に今まで放出されたことがない「その他α線を放出しない核種」が2.6×105ベクレル大気へ放出されたと記載されているが、正確な放出日時、核種、放出の理由を示し、本件についての政府の認識を示されたい。
5 日本原燃(株)の海洋放出モニタの異常について
 セル内漏えいによる汚染の洗浄作業が始まった本年二月二十日と三月二日に、日本原燃(株)HPのモニタリング欄、海洋排出モニタに異常波形が現れた。高レベル廃液の環境放出を疑うが、日本原燃(株)は二〇〇七年十二月二十七日に国の許可を得た「海洋放出管切り離しの本工事に先立ち実施している工事」が今年二月二十日から三月十三日に実施されその時の溶接作業のノイズを拾ったと説明している。このような作業が実際に行われていたのか、事実関係を具体的に示し、政府の認識を明らかにされたい。
6 排水放出日時の事前公表について
 麻生前総理は本年三月二十七日の参議院予算委員会にて、「六ヶ所再処理事業は公共事業ではない。民間事業である」と答弁している。その民間事業である日本原燃(株)は、放射性廃液を公共の場である海洋へ放出しながら放出日時を事前に公表しないが、これは秘密事項として許されることなのか、政府の見解を示されたい。

二 高レベル廃液の安全管理に関して

1 大地震に際しての高レベル廃液の安全管理について
 本年三月二十三日ノルウェー政府、放射線防護局は英国セラフィールド再処理工場から高レベル廃液が漏出した場合を想定し、ノルウェーへの環境影響評価を実施し公表した。その評価によれば最悪の場合、ノルウェーの広範な地が放射能で汚染される結果になった。そのためノルウェーは英国に、高レベル廃液の貯蔵量を減らし、不安定な液体ではなくガラス固化して貯蔵するように提言している。英国と異なり、わが国では地震の心配があるが、六ヶ所再処理工場直下で中越沖地震クラス以上の地震(渡辺満久東洋大教授はM八を指摘)が発生した場合でも、高レベル廃液が絶対に環境に漏出することなく、安全に管理できると断言できるのか。断言できるとするならば、その根拠と判断を下した審議会名を明らかにした上で、政府の見解を示されたい。
2 本格操業時の常時高レベル廃液貯蔵量について
 六ヶ所再処理工場が本格操業になった場合、常時どれほどの高レベル廃液が貯蔵されることになるのか、その数値を示されたい。この地震大国で高レベル廃液を常時貯蔵することは非常に危険なことであり、液体状態で貯蔵してはならないと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。
3 高レベル廃液漏えいの環境影響評価について
 事業者や周辺住民の防災意識を高めるためにも、六ヶ所再処理工場で高レベル廃液が漏えいした場合、周辺環境に与える影響について国は評価を実施し公表すべきではないか、政府の見解を明らかにされたい。なお、公表すべきではないとするならば、その理由を明らかにされたい。
4 高レベル廃液の安全管理を検討する審議委員会の設置について
 市民団体の計算によると現在貯蔵されている高レベル廃液約二百四十立方メートルはチェルノブイリ事故で放出された量の約九倍(セシウム137換算)とのことである。これが爆発的に漏れだした場合、北半球を広く汚染させることが予想される。この地震大国で絶対的な安全管理が求められる所以である。最悪の事故を考えるとき国の存亡にかかわるとも言えるのではないか。内閣府などにこの問題に関する審議委員会を設置して、厳重に審議し安全を確保しなければならないと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

三 日本原燃(株)の事業者としての適格性に関して

1 日本原燃(株)の技術について
 アクティブ試験開始後高レベル廃液ガラス溶融炉に関わるトラブルが続発し、今年八月末には再処理施設の竣工を来年十月まで延期すると発表された。アクティブ試験後八回目しかも今までで最長の延期である。政府は、下田敦子議員提出「日本原燃(株)六ヶ所再処理工場の安全に関する質問主意書」に対する答弁書(内閣参質一七〇第一二三号平成二十年十二月十六日)三の1及び2において、「日本原燃の採用したガラス固化技術は、外部専門家により技術の成立性が実証された、核燃料サイクル開発機構(当時)が開発した技術であると承知しており、従業員による設備の操作方法の習熟の問題や設備の不具合等から、日本原燃が当初予定していた計画に比べると試験運転に時間を要してはいるものの、当該運転を通じて問題点の解決が図られるものと認識している。」と答弁している。高レベル廃液がセル内とはいえ再三漏えいし、回収状況が明確に公表されていないとともに、竣工は見通しがつかず延期が繰り返されているが、現在も「ガラス固化技術は技術の成立性が実証された」という認識なのか、政府の見解を明らかにされたい。
2 日本原燃(株)の取扱資格について
 本年一月二十一日に発覚した高レベル廃液漏えい事故に関し、原子力安全・保安院は四月二日、日本原燃(株)に対し五項目に亘る保安規定違反を指摘し対策を問い、月末に報告を得ている。違反要因として「保安規定の理解不足、高レベル廃液の情報の共有や教育不足」などがあげられているが、この世の中で最も危険といわれる高レベル廃液を取り扱う現場での学習不足とは、恐ろしいことである。一月九日から漏えいが始まり、異常信号があったにもかかわらず十二日間も放置されてきたこと、また再三の漏えいは日本原燃(株)のあまりにも未熟な技術を露呈している。さらには付着した高レベル廃液の洗浄作業により、人が立ち入る隣室(固化セル保守第一室)までも汚染が広がっており、日本原燃(株)にはもはや特別な配慮を要する危険な放射能を扱う資格はないのではないかと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。
3 事業指定の取消しについて
 巨額の公共資金が投入されて進められてきた六ヶ所再処理工場であるが、高レベル廃液のガラス固化の展望が全く見出されていない。このまま国民に負担をかけ資金を投入し続けることについて、如何に考えるか、また原子炉等規制法第十条(事業指定の取消し等)第一項「・・定める期間内にその事業を開始せず・・」の発動を検討する時期ではないか、さらに同条第二項第五号「保安規定違反」による事業指定の取消しについても検討されるべきではないかと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

  右質問する。