質問主意書

第173回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一七号

自傷行為の防止に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十一年十一月九日

浜田 昌良   


       参議院議長 江田 五月 殿



   自傷行為の防止に関する質問主意書

 平成十九年の自傷行為に対する救急隊員の緊急出場件数は七万一千八百六十六件、搬送人員は、五万二千八百七十一人と、ともに平成十年の一・五倍以上になっている。その詳細について調査結果のあるさいたま市の平成十九年の搬送人員の報告例(五百六十四名)によれば、その内訳は、薬物服用が五十一%、リストカットが十五%、これらの併用が五%と、薬物服用とリストカットが内訳の三分の二以上を占めており、かつ、そのような行為を繰り返す行為者が多いことが報告されている(ある行為者の場合、薬物服用又はリストカットでの救急要請が二年間で延べ六十四回あり、うち五十一回は医療機関へ搬送されたという)。また、ある医療機関に一年間に緊急搬送され、死亡した自殺企図者九名のうち、二名は過去一年以内に薬物服用又はリストカットで当該医療機関を受診していたという報告例もある(EMERGENCY CARE 二〇〇九 vol.二十二 no.六掲載)。自傷行為のほとんどが夜間、特に深夜になされていることから、自傷行為の繰り返しを予防できていない現状は、自傷行為者本人のみならず、救急搬送を要する他の人員の生命をも脅かす事態となっているとも言え、早急に救急機関、医療機関、保健福祉機関、教育機関等の諸機関が連携して、その繰り返しの防止を図る必要がある。
 そこで、以下のとおり質問する。

一 薬物服用やリストカットのように、重症・死亡の比率が低く(さいたま市の例の場合、それぞれ二%及び一%)、かつ、繰り返しが予想される自傷行為に対しては、搬送先医療機関として、中毒や外傷の治療が行えるだけでなく、メンタルケアまでできる医療機関への搬送を原則とすべきではないか。また、今まではそのような考慮は行われていたか。

二 自傷行為者の治療に当たる医療機関は、中毒や外傷の治療を行うとともに、積極的にそのメンタルケアに当たるべきである。このような観点から、平成二十一年度から救急医療施設における自傷行為者への精神科診療に新たな診療報酬が設定された。しかしながら、従来は自傷自体が軽症であった場合、自傷行為者の約八割はメンタルケアを受けていないという報告がある(前出の医療機関で平成十八年八月から十九年三月までの八ヶ月間に受診した自傷行為者百二十七名を対象とした調査(出典同じ))。このような状況はどのように改善されたのか。また、今後どのように改善する方針か。特に、自傷行為者の医療機関受診がほとんど夜間であるにもかかわらず、夜間でのメンタルケアの受診率が昼間に比して著しく低いという実態(同調査によれば七十五%が準夜・深夜帯に受診している一方、メンタルケアの受診率は昼間では五割以上に対し、深夜帯は約一割)は、どのように改善されているのか。また、今後さらに、救急医療部門におけるソーシャルワーカーや臨床心理士等の配置を含め、どのように改善する方針か。

三 薬物服用やリストカットは特に青少年層において顕著であることに鑑み、このような自傷行為者の治療に当たった医療機関は、その家族はもとより、地域の児童相談所、保健所、精神保健福祉センター、学校等との積極的連携を図るべきではないか。また、今まではどのように連携は行われてきたのか。

四 薬物服用やリストカット等の自傷行為者の場合、救急搬送時においても適切なメンタルケアが必要と考えられることから、救急隊員や救急救命士のカリキュラムにおいて、カウンセリング技法や実習を考慮すべきではないか。

五 学校における自傷防止教育はどのように行われているのか。救急機関、医療機関、家族等から、児童、生徒又は学生が自傷行為を行った旨の連絡があった場合の学校としての対応について、どのように徹底されているのか。また、その繰り返しを予防するためにどのように対応すべきと考えているのか。

六 さいたま市は、平成十九年の緊急出場した自傷行為について、①その行為の内訳、②傷病程度、③年齢区分、④繰り返しの有無等の調査を行っているが、自傷行為の防止を総合的に図るため、その他、⑤搬送先医療機関でのメンタルヘルス面での対応、⑥地域の保健福祉行政との連携の現状等も含め、全国的な実態調査を行うべきと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

七 自殺死亡者の一定の者に自傷行為での治療経験があったということは、逆に言えば、自傷行為の繰り返しの予防が効果的な自殺対策になりうるということである。自殺総合対策大綱に基づく「自殺対策加速化プラン」(平成二十年十月三十一日自殺総合対策会議決定)において、「思春期・青年期において精神的問題を抱える者や自傷行為を繰り返す者について、救急医療機関、精神保健福祉センター、保健所、教育機関等を含めた連携体制の構築により適切な医療機関や相談機関を支援する等、精神疾患の早期発見、早期介入のための取組を促進する」旨が規定されたが、その実施状況はどのようになっているか。今後、六の全国実態調査も踏まえ、自傷行為の繰り返し防止対策をより具体的に強化した自殺総合対策大綱の再改定を検討すべきと考えるが政府の見解を明らかにされたい。

  右質問する。