質問主意書

第172回国会(特別会)

質問主意書


質問第四号

「原子力の平和的利用における協力のための日本国政府とロシア連邦政府との間の協定」に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十一年九月十八日

近藤 正道   


       参議院議長 江田 五月 殿



   「原子力の平和的利用における協力のための日本国政府とロシア連邦政府との間の協定」に関する質問主意書

 この五月に日露政府間で「原子力の平和的利用における協力のための日本国政府とロシア連邦政府との間の協定」(以下、「本協定」という。)が署名された。これまでに成立している二国間(及び共同体との)原子力協定が、日中間のそれを除き、相手国からの受領を前提としていたのに対し、本協定は日本からの供給が多くなると見込んでいる。つまり本協定は、日本が原子力受領国(者)から本格的な原子力供給国(者)になるために締結される実質的に最初の協定と位置づけられ、その内容は日露間だけでなく、今後の他の国々との原子力協力のあり方にも影響してくるだろう。
 原子力協定を締結する目的は、移転された核物質等の軍事的利用を相互に禁止することにあり、それを担保し確証するために保障措置が用いられる。この六月に外務省から衆議院外務委員会理事会に提出された本協定を見ると、日本から移転された核物質、設備、資材、技術、並びにそれらが係る施設のすべてに保障措置が適用される取極めとはなっていない。日本の原子力基本法は「原子力の研究、開発及び利用は、平和の目的に限り」認めている。日本が海外と原子力協力を行うにあたっては、その相手国が「核兵器国」であると「非核兵器国」であるとを問わず、協力の対象がすべて保障措置下に置かれるよう、原子力協定において規定されるべきで、さもなければ協定は批准されるべきではない。
 これは新たに締結されうる他の原子力協定や既存の協定の改正ともかかわることから、きわめて重要である。とくに相手国が「核兵器国」である場合、核拡散防止条約(NPT)では「核兵器国」による保障措置の受け入れは「自発的」とされているからこそ、二国間協定において同措置の適用を確保すべきである。
 日本国政府は日本の原子力産業の国際展開を後押ししている。今後、原子力協力が増大すると見込むのであれば、輸出入や協力を許可するうえでの普遍的な条件を規定した法令を制定すべきだろう。
 本協定は両国間の原子力協力だけでなく、日本の原子力行政や原子力産業、さらには世界の核軍縮や核拡散防止の今後のあり方とも関係し、多方面からの慎重な審議が求められる。検討を深めるために、本協定に対する疑問点並びに関連事項について、以下、質問する。

一 日本の原子力基本法は、その総則において、「原子力の研究、開発及び利用は、平和の目的に限り」行うものと定めている。日本国政府は同法にのっとり、他国との原子力協力にあたり、日本から移転されたすべての核物質、資材、設備、技術、ならびにそれらに係るすべての施設が平和的目的のために使用されることを担保し確証するための措置を講じる責務を負うとの理解でよいか。

二 本協定の批准・発効について

1 第三条は協力の要件として、『ロシア連邦に関する保障措置協定に規定する保障措置の適用上国際原子力機関が選択している一又は二以上の施設が存在すること』と定めている。しかし現状ではロシア連邦内にIAEAの保障措置が適用されている施設はないと聞いている。したがって、そうした施設が附属書BのA部に掲げられるまでは、本協定は批准・発効されないとの理解でよいか。そうした施設が存在しなくとも、本協定の批准・発効は可能なのか。
2 本協定が批准・発効するまでは、「原子力の平和的利用の分野における協力に関する日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の協定」(一九九一年締結)の枠組みを超える協力は、日本国政府の所轄官庁によって許可されないし、実施されないとの理解でよいか。
3 現在の本協定が、外交防衛委員会など国会で審議されることになるのか。それとも本協定に修正が加えられた案や、この五月以降に交わされた交換公文(案)が上程されることもありうるのか。

三 本協定第二条と第四条について

1 第二条が定める日露間の協力は、ウラン探査・採掘から廃棄物処分まで多肢にわたる。第四条は『この協定に基づいて移転された核物質、資材、設備及び技術、技術に基づく設備並びに回収され又は副産物として生産された核物質は、いかなる核爆発装置のためにも、いかなる核爆発装置の研究又は開発のためにも、またいかなる軍事的目的のためにも使用されない』と定めている。
(一) 第四条を確証するには、協力の対象となったすべての核物質、資材、設備及び技術、技術に基づく設備並びに回収され又は副産物として生産された核物質、それらが係わる施設が保障措置下になければならないと考えるがいかがか。
(二) 保障措置が適用されていることが確認できている核物質と資機材等と、それらが係わる施設だけが、協力の対象となるのか。
2 第二条2(6)は、同(1)から(5)に規定する分野以外での協力は、『別個の書面による取極において合意する』と定めている。
(一) 他の条項にも共通するが、『書面による取極』でいう『書面』とは交換公文によってか、あるいは別の何かか。
(二) こうした『書面による取極』は、外交防衛委員会など国会での審議を経ることなく、閣議決定により承認されるのか。
(三) 現状では、当面の協力のひとつは、ロシアによるウラン濃縮役務の提供と考えられる。ウラン濃縮役務の提供について取極めた『書面』(案)はあるのか。ある場合、その件名と概要を示されたい。

四 本協定第三条と第五条、並びに交換公文(案)について

1 第三条(2)は、ロシア連邦が受領者となる場合、『ロシア連邦に関する保障措置協定に規定する保障措置の適用上国際原子力機関が選択している一又は二以上の施設が存在すること』とし、第五条(2)は、この協定に基づいて移転された核物質及び回収され又は副産物として生産された核物質は、ロシア連邦においては『原則として、ロシア連邦に関する保障措置協定に規定する保障措置の適用上国際原子力機関が選択している施設に置くものとする』とし、そうした施設を附属書BのA部に掲げるとしている。そして補助的措置として、両国政府が『書面により合意するものが適用されることを条件として、当該保障措置の適用上適格性を有するが国際原子力機関が選択していない施設に置くことができる』とし、そうした施設を付属書BのB部に掲げるとしている。しかし付属書BのA部に記載された施設はなく、同B部には「アンガルスク国際ウラン濃縮センター」しか掲げられていない。ここでいう、「適格性を有する施設」とはロシアが保障措置を受け入れる用意がある施設としてIAEAに自発的にオファーした「適格施設」、「国際機関が選択している施設」とは「選択施設」であると理解している。
(一) 「適格施設」は本協定のなかで重要な意味をもつことから、日本国政府はこれまでのロシア連邦政府との交渉のなかで、ロシア側が既にIAEAにオファーしている施設を把握していて当然である。それらの施設名を、すべてあげられたい。
(二) 保障措置が適用されることになった施設で、本協定の対象となる施設は、今後、付属書BのA部に記載されていくとの理解でよいか。それは交換公文によってか、あるいは毎年、ロシア側から提供される報告書によってか、あるいはどのような手続きによってなされるのか。
(三) 日本から移転された技術と核物質、あるいは第三国を経由して移転された核物質を扱えるのは、付属書Bの施設一覧表に記載された「選択施設」と「適格施設」だけとの理解でよいか。
(四) 本協定に基づき移転が実施されるのは、附属書BのA部に当該施設が記載されて以降であり、その前は実施されないとの理解でよいか。
(五) 「適格施設」とは、要するに保障措置が適用されていない施設である。第三条と第五条によれば、「選択施設」が一施設でもあれば、あとは補助的措置を適用できることになる。これでは半ば「ザル」のようなものであり、平和的な利用を確証できないと考えるがいかがか。
2 交換公文(案)3(2)は、補助的措置について『核物質が協定の適用を受けることとなり、かつ国際原子力機関による保障措置の適用上適格性を有するが国際原子力機関が選択していない施設に置かれることとなる場合』には、『双方が満足する措置(保障措置の適用上国際原子力機関が選択している施設にある同量の核物質であって核分裂性同位元素の含有量が同等以上のものによる代替を含む。)につき書面により合意する』と定めている。
(一) 「選択施設」にある『核分裂性同位元素の含有量が同等以上のものによる代替』とは、「適格施設」に置かれている核物質の代替として、「選択施設」に置かれている核物質に保障措置を適用するとの理解でよいか。その場合、日本に製品として輸入される核物質は、「選択施設」で作業されたものか、それとも「適格施設」で作業されたものか。
(二) 補助的措置によって当該核物質を「適格施設」に置くことについて、日本国政府が合意する場合の基準を明らかにされたい。
3 現行の米国との原子力協定は、第二条2(b)において、米国の領域内で米国の『管理の下で行われるすべての非軍事的原子力活動に係るすべての核物質について機関(IAEA)による保障措置が適用されること』と定め、そうでない場合についての補助的措置を、同協定第九条1(b)(ⅱ)ならびに2、実施取極9ならびに10において定めている。
(一) ロシア連邦政府はIAEAと追加議定書を含む保証措置協定を締結しているが、現在、同連邦の『管理の下で行われるすべての非軍事的原子力活動に係るすべての核物質について機関(IAEA)による保障措置が適用』されているのか。
(二) 日米原子力協定をはじめ、日中原子力協定、日仏原子力協定、日英原子力協定も、それぞれ等価の核物質による代替を含む補助的措置を定めている。日本国政府は、米国、中国、フランス、英国に日本から移転された核物質に対し、過去、こうした補助的措置の実施に合意したことはあるのか。ある場合、そのすべてについて、合意文書の件名と概要を示されたい。
4 現行の米国との原子力協定(一九八七年締結)は、第九条2ならびに実施取極10において、IAEAによる保障措置が適用されないとき又は適用しないであろうことを知った場合には、措置が適用されない施設の審査、操作記録などの報告書の提出、IAEA又は他方の当事国政府による査察等を含む保障措置と同等の効果と適用範囲による是正措置をとると定めている。また日本とユーラトムとの間の原子力協定の第八条3においても是正措置をとることが定められている。本協定においても、保障措置が適用されない場合の暫定措置が定められて然るべきであると考えるがいかがか。また本協定に、是正措置が盛り込まれなかったのは、いかなる事由によるものか。

五 本協定第八条について

1 日本から移転された核物質、資材、設備及び技術、技術に基づく設備並びに回収され又は副産物として生産された核物質が、IAEAの保障措置が適用されない「適格施設」に置かれた場合、第三国(たとえばロシアが原子力協力を行っているインドやイランなど)に移転されないことを、どのように担保し、それを確証するのか、具体的に述べられたい。
2 日本から移転された核物質、資材、設備及び技術、技術に基づく設備並びに回収され又は副産物として生産された核物質が再移転される場合、当該受領国が保障措置を適用していること、あるいは日本との間で原子力協定が発効していることなど、少なくとも日本とユーラトムの間の原子力協定第九条と同付属書Bに掲げられている諸条件が、本協定のなかでも定められる必要があると考えるがいかがか。

六 本協定第九条並びに第十条について

1 英仏に保管されている日本の電力会社所有の回収ウランを、ロシア連邦領域内の施設に再移転するにあたっては、日米原子力協定、日加原子力協定、日豪原子力協定、日本とユーラトムの間の原子力協定に基づき、当該締約国(者)の事前同意が必要となるとの理解でよいか。回収ウランの再移転に対し、事前同意が必要ではない場合、それを規定した協定の条項、文書等の件名と概要を、当該締約国(者)すべてについて示されたい。
2 日米両国政府で合意された協定の実施取極めは、日本から移転された使用済み核燃料が再処理された当該第三国においては回収ウランが再濃縮できることを確認している。回収ウランをロシア連邦内の施設で再濃縮する場合、新たな合意が米国と日本の間で必要となるとの理解でよいか。
3 回収ウランの再移転に対し、すでに事前同意(包括的同意を含む)が得られている場合、すべての締約国(者)との間で交わされた同意のための文書の件名と概要を示されたい。
4 日本とユーラトムの間の原子力協定はその附属書B(ⅲ)において、『核物質が再移転される場合には、受領国である第三国において当該核物質について国際原子力機関による保障措置の適用があること』と定めている。したがって本協定ならびに交換公文(案)に定められている条件のもとで、英仏からロシア連邦へ回収ウランを再移転できるのは、ロシア連邦内の「選択施設」だけとの理解でよいか。『書面』での合意があれば、「適格施設」へも再移転できるのか。

七 本協定第十一条2は『転換、燃料加工、濃縮又は再処理の工程において他の核物質と混合されることにより、この協定の適用を受ける核物質の特定性が失われた場合又は失われたと認める場合』の取極を定めている。

1 日本からロシア連邦領域内の「選択施設」以外に移転された核物質が、他の核物質と混合された場合、それが軍事的目的に使用されないこと、ならびに第三国に移転されないことを、日本国政府はどのように確証するのか明らかにされたい。
2 混合は核物質の特定性が失われることから、本来、発生してはならないものである。日本から移転された核物質が他の核物質と混合され、それが軍事的目的に使用された場合、日本の原子力基本法が定めるところに抵触すると考えるがいかがか。本条項で定める『代替可能性の原則及び構成比率の原則』による特定は、日本から移転された核物質が混合した核物質が「平和的目的のために」使用される場合においてのみ適用が認められるものとし、それを確証する方法(保障措置)がない場合は、混合の発生を禁止する条項が必要であると考えるがいかがか。

八 原子力基本法や原子炉等規制法においては、原子力資材、設備、技術、核物質の輸出(移転)や他国との原子力協力について、具体的な規定がない。

1 規定がないのは、これらの法が成立した当時、日本からの原子力輸出が想定されていなかったことによるものか。そうでない場合、いかなる事由によるものか明らかにされたい。
2 日本国政府は原子力輸出の推進を国の方針として掲げている。他国との原子力協力、とくに日本からの原子力輸出にあたっては、相手国が「核兵器国」であると「非核兵器国」であるとを問わず、「3S」――保障措置、原子力安全および核セキュリティ――が確証されること、少なくとも核拡散防止条約(NPT)、包括的核実験禁止条約(CTBT)、国際原子力機関(IAEA)との追加議定書を発効させていること、そして日本から移転されるすべての核物質、資材、設備、技術、並びにそれらが係るすべての施設が保障措置下にあることを条件とすべきで、それを規定する法令を制定する必要があると考えるがいかがか。
3 原子力関連品目の輸出入に必要な届出、申請、許認可等の手続きは何か。その際、「3S」については、どのように審査されるのか。
4 日本の電力会社や商社等は、少なくとも過去十年にわたり、ロシア連邦内の保障措置下にない軍事施設(または軍民両用の施設)で濃縮されたウランを購入している。日本国政府が、保障措置による担保のない、特殊核分裂性物質の商取引を許可している根拠は何か。
5 4に関連し、現行のロシア(ソヴィエト)連邦政府との原子力協定(一九九一年締結)では、濃縮ウランの商取引は、その第一条で規定される『両国政府が合意するその他の分野』にあたる。両国政府の合意を示す文書の件名と概要を示されたい。
6 4に関連し、日本が調達したウランをロシア連邦内の施設で濃縮した結果、劣化ウランが貯まっているはずである。現状では、この劣化ウランは保障措置下にないとの理解でよいか。また、この劣化ウランは、日本の電力会社からロシアに譲渡されたのか。劣化ウランの譲渡にあたっては、日本の所轄官庁による許認可のための届出や申請が必要なのか。同じく譲渡にあたっては、日本国政府とロシア連邦政府との間で合意が必要となるのか。
7 日本の電力会社などが原料ウランを購入している産出国のうち、日本と原子力協定が発効していない国があるが、それが必要とされない理由を述べられたい。
8 濃縮ウランの供給は、長期契約の場合、供給先の事業者を管轄する相手国と原子力協定が締結されていることが必要で、スポット契約では必要ではないとされるのは、いかなる理由によるものか。
9 日本の事業者が海外の事業者と濃縮ウランの長期供給を契約するとき、日本と当該事業者を管轄する相手国との間で原子力協定が発効している必要はないのか。必要がない場合、それはいかなる理由によるものか。
10 日本の事業者が海外の事業者と濃縮ウランの供給を契約するにあたっては、日本国政府に許認可のための申請と届出が義務づけられているのか。義務付けられている場合、所轄官庁はどこか。

  右質問する。