質問主意書

第171回国会(常会)

答弁書


答弁書第二一三号

内閣参質一七一第二一三号
  平成二十一年六月三十日
内閣総理大臣 麻生 太郎   


       参議院議長 江田 五月 殿

参議院議員川上義博君提出臓器移植関連施策に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員川上義博君提出臓器移植関連施策に関する質問に対する答弁書

一について

 現在、社団法人日本臓器移植ネットワーク(以下「ネットワーク」という。)及び都道府県において、医療従事者も対象として、適正な移植医療を推進するための普及啓発活動を行っているところであるが、政府としては、これらの活動に対して助成を行っているところである。平成二十一年度においては、ネットワークに対する助成に要する経費として、四千二百三十三万五千円を予算に計上するとともに、都道府県に対しては、二億二千二百七十九万七千円の地方交付税措置を講じているところである。
 また、お尋ねのドナー・アクション・プログラムについては、「臓器移植の社会的基盤に関する研究」(平成二十年度厚生労働科学研究費補助金免疫アレルギー疾患等予防・治療研究事業)において、二十四の医療機関で導入され、現在、臓器提供希望者の意思を尊重できるシステムの構築等に係る研究が行われているところである。

二について

 御指摘の臓器提供施設の基準については、現在、国会において、議員立法として提案された臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案が審議されているところであり、その結果も踏まえ、必要に応じ、検討してまいりたい。
 また、お尋ねの「臓器提供施設への連絡体制」の意味するところが必ずしも明らかでないが、それが臓器提供施設への搬送を意味するのであれば、患者の安全性を確保する観点から、「臓器提供施設マニュアル」において、原則として、脳死状態に陥った患者を臓器提供施設へ搬送することは、控えるべきであるとされている。これについては、平成十六年に、臓器提供施設の在り方についての検討を行う際の参考として、関係者の意見を聞いたところ、日本脳神経外科学会から、「患者の呼吸及び循環状態が極度に悪化しているため、搬送途中での管理は困難であり、脳死状態に陥った患者の提供施設への搬送は不可能に近い」という趣旨の意見が提出されたこともあり、厚生労働省としては、当該マニュアルの考え方を維持することとしたところである。なお、お尋ねの「臓器提供施設への連絡体制」に係る諸外国の例については、把握していない。

三について

 お尋ねの臨床的脳死者の年間発生件数については、脳死の発生率を全死亡の約〇・四パーセントとする報告があり、また、「平成二十年人口動態統計月報年計(概数)」によると、平成二十年の全死亡者数は約百十四万人となっていることから、これらを基に推計すると四千六百件程度となる。
 また、お尋ねの原因疾患別の件数については、「脳死に関する研究班」(昭和五十九年度厚生科学研究費特別研究事業)の報告書によれば、主な脳死の原因疾患別の割合は、脳血管障害が六十四・九パーセント、頭部外傷が十八・一パーセント、脳腫瘍が六・一パーセントとなっており、これと臨床的脳死者の推計年間発生件数の約四千六百件を掛け合わせて算出すると、脳血管障害が二千九百八十件程度、頭部外傷が八百三十件程度、脳腫瘍が二百八十件程度となる。

四について

 お尋ねの脳死判定基準については、これまでに開催された「脳死下での臓器提供事例に係る検証会議」(以下「検証会議」という。)においても、その医学的妥当性について特段の指摘はなされていない。

五について

 検証会議における検証結果については、臓器提供者の家族の同意が得られた場合に公表しているところであり、お尋ねの聴性脳幹誘発反応を確認する検査の実施状況についても当該公表に係るもののみについてお答えすることとしたいが、検証結果が公表されている三十四件のうち、当該検査が実施されたのは三十二件である。補助検査については、「「臓器の移植に関する法律」の運用に関する指針(ガイドライン)の制定について」(平成九年十月八日付け健医発第一三二九号厚生省保健医療局長通知)(以下「ガイドライン」という。)において、聴性脳幹誘発反応を確認する検査のみが記載されているところ、その他の補助検査の実施状況については、特段把握していない。
 また、補助検査については、ガイドライン上は、脳死判定結果についての家族等の理解促進を図る手段としての意義が認められるとしており、脳死判定の医学的妥当性を補完することを目的として、これを義務化することは考えていない。

六について

 厚生労働省としては、適正な臓器移植の実施を図るため、平成十九年七月にガイドラインを改正し、生体からの臓器移植はやむを得ない場合に例外として実施されるものであること、臓器提供の任意性を確保するため、提供者の自由意思を適切に確認することなど生体移植に関する事項を定めたところである。また、「日本移植学会倫理指針」においても、臓器提供者については、六親等内の血族、配偶者と三親等内の姻族に限定すること、これらの親族に該当しない場合においては、医療機関の倫理委員会において、症例ごとに個別に認証を受けること等が定められており、これらに基づいて、生体からの臓器移植が適切に実施されているものと認識している。生体移植に関する規制の在り方については、世界保健機関における「ヒト臓器移植に関する指針」の見直しの議論など、今後の国際的な動向も踏まえつつ、必要に応じ、検討してまいりたい。

七について

 いわゆる病腎移植については、平成十九年七月にガイドラインを改正し、医学・医療の専門家において一般的に受け入れられた科学的原則に従い、有効性及び安全性が予測されるときの臨床研究として行う場合を除き、これを行ってはならないこととしている。
 また、現在、宇和島徳洲会病院は、保険医療機関として指定されているが、いわゆる病腎移植については、医療保険の適用対象とはなっていない。

八について

 厚生労働省としては、お尋ねの実態については、「臓器の移植に関する法律案に対する附帯決議」(平成九年六月十六日参議院臓器の移植に関する特別委員会)において「移植医療について国民の理解を深めるため、臓器移植の実施状況、移植結果等(臓器配分の公平性の状況を把握するための調査の結果を含む。)について、毎年、国会に報告書を提出すること」とされていることを踏まえ、臓器移植の実施状況、移植結果等について、ネットワークの協力を得つつ、把握に努めているところである。平成二十年の報告では、例えば、五年後の生存率及び生着率は、それぞれ、心臓移植が九十二・八パーセント及び九十二・八パーセント、肺移植が六十・〇パーセント及び六十・〇パーセント、肝臓移植が七十二・六パーセント及び七十二・六パーセント、腎臓移植が八十九・一パーセント及び七十一・九パーセント、膵臓移植が九十七・三パーセント及び七十九・九パーセントとなっている。その他のお尋ねの点については、ネットワークにおいても、その詳細を把握しておらず、お答えすることは困難である。

九について

 厚生労働省としては、移植医療の透明性を確保するため、検証会議において、脳死下での臓器提供事例について、臓器提供に係る手続等を検証し、その検証結果については、臓器提供者の家族の同意が得られた場合に公表しているところである。
 また、移植医療の透明性の確保については、「臓器移植の社会的基盤に関する研究」(平成二十年度厚生労働科学研究費補助金免疫アレルギー疾患等予防・治療研究事業)において、組織移植におけるコード番号の付与についての研究が行われているほか、「腎臓移植の成績向上をめざした臨床データ解析を目的とした症例登録と追跡制度の確立並びにドナー及びレシピエントの安全性確保とQOL向上に関する研究」(平成二十年度厚生労働科学研究費補助金免疫アレルギー疾患等予防・治療事業)において、臓器移植におけるドナー及びレシピエントの追跡調査等が行われているところであり、今後、これらの研究結果等や国際的な動向を踏まえ、移植医療の透明性の確保のための施策について、検討してまいりたい。

十及び十一について

 お尋ねの点については、現在、国会において、議員立法で提案された臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案が審議されているところであり、その結果も踏まえ、必要に応じ、検討してまいりたい。