質問主意書

第171回国会(常会)

質問主意書


質問第二四八号

イレッサ問題と市販直後調査に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十一年七月十七日

川田 龍平   


       参議院議長 江田 五月 殿



   イレッサ問題と市販直後調査に関する質問主意書

 日本の大手製薬会社が海外で提携や買収、拠点開発を積極化していると報じられている。その理由として、日本の製薬会社が基礎研究で発見した新薬候補が最終的に薬として承認された確率が低く、各社とも研究開発費に売上高の二十%前後を投じているものの、巨額の投資が収益に結び付かないリスクがあるとされている。製薬大手が収益を維持し続けるためには海外企業と手を組んででも新薬となる物質を確保しないとますます厳しくなる経営環境の中、海外勢との開発競争に活路を見いだそうとしていると考える。
 日本の製薬企業が海外企業とも連携し有効性の高い新薬を開発しようとすることが、「いのち」をつなぐことに結び付くことが求められるが、その大前提は「安全性」である。
 患者は、いのちをつなぐために効果の高い新薬が開発されれば一刻も早く使用したいと考えるが、同時に画期的新薬は病態や病因に直結したするどい切れ味で、その使い方が難しく、医者といえども、十分に熟知しているとは言えない性質を持つ新薬を使うためには、新薬の性質や使い方を一番よく知っている製薬企業の安全対策は非常に重要であると考える。
 薬害エイズ問題、肝炎問題など依然として薬害問題が後を絶たない。二〇〇一年には、市販直後に注意深い使用を促し、重篤な副作用などが発生した場合の情報収集体制を強化するために、市販直後調査制度が施行されている。施行直後に、抗がん剤イレッサの問題が生じているが、このイレッサ問題に対する認識と対応を踏まえて、医薬品の安全性に関する政府の認識を確認したい。
 以下、質問する。

一 市販直後調査実施計画について

 イレッサ錠二五〇に係る市販直後調査実施計画書では、調査を予定していた医療機関の数、医療機関への適正使用情報の提供や協力依頼及び注意喚起の方法やそれらを実施する頻度などを示すことになっている。画期的といわれる新薬であればあるほど、患者や医者の期待も大きく、新薬の販売を待ち望む声にこたえたいと、市販後の経過を見る前に、急速に投与患者数を拡大すれば、万一副作用等の被害が生じた場合、甚大な被害がもたらされることも考えられる。この点について、イレッサに係る市販直後調査実施計画書の具体的な内容を示しながら、政府の認識を明らかにされたい。

二 市販直後調査について

 市販直後調査は、新医薬品の販売開始直後において、医療機関に対し確実な情報提供、注意喚起を行い、適正使用に関する医療機関の理解を促すとともに、重篤な副作用及び感染症の情報を迅速に収集し、必要な安全対策を実施し、副作用等の被害を最小限にすることを主な目的としている。
1 このように、市販直後調査が、「被害を最小限にすること」を目的としているという場合、そこには、限られた患者による臨床試験では把握できなかった新たな副作用とともに、既に認められていた副作用であっても想定より高率で発現しているかどうか、即ち、副作用の発現頻度についても市販後に可及的速やかな把握を行って対処することが含まれていると理解するが、そのような理解で良いか、政府の見解を明らかにされたい。
2 市販直後調査が、「被害を最小限にすること」を目的としているとするならば、市販直後調査実施報告書において厚生労働省に報告された推定患者数は新薬を投与された患者数に裏付けられた数値であると考える。新薬の場合、病態や病因に直結したするどい切れ味のために使い方が難しく、新薬の性質や使用方法については医者以上に製薬会社が情報を持っているために、医薬情報提供者(MR)が果たす役割が大きいと考える。一方で、製薬企業は基本的に利益を目指すため売上至上戦略により、都合の悪い情報への対応が遅くなる懸念もある。この点について、イレッサ問題において、イレッサの市販直後調査実施報告書で示された調査対象医療機関数(種類別・規模別)、また、推定患者数及び推定方法などについての報告内容を示しながら、医療情報提供者などを含めた当該企業の安全対策に対する取組の妥当性についての政府の認識を明らかにされたい。
3 当該製薬会社は、二〇〇二年八月から二〇〇四年までのイレッサ推定患者数を八万六千八百人と厚生労働省のゲフィチニブ検討会に報告した。しかし、その後、二〇〇四年末までの推定投与患者数を約四万二千人と修正している。被害を最小限にするためには、医療情報提供者が市販直後調査実施計画において示した医療機関数等に従い医療機関等に協力を求め、当該新医薬品を慎重に使用させると同時に重篤な副作用情報を収集するために、密接な連携を取る必要があると考える。そのために、報告される推定患者数は、実際に新薬を投与された患者数に裏打ちされていると考える。事後的に推定患者数を修正することは、新薬の投与実態を把握していなかったとも推察されるが、八万六千八百人と四万二千人のどちらの推定値が実態に即した推定患者数という認識なのか、その理由を示し政府の見解を明らかにされたい。

三 立入調査について

 イレッサについては、二〇〇二年七月十六日の販売開始から同年十月十一日まで(推定使用患者数およそ七千人以上)に、二十二例(うち関連性を否定できない死亡十一例)の間質性肺炎を含む肺障害が報告されたのを受けて、当該製薬会社が緊急安全性情報を同年十月十五日に発出した。
1 同時期、イレッサの副作用問題では、大阪府が当該製薬会社に立入調査を実施しているが、当該企業による緊急安全情報の発出と大阪府の立入検査の実施について、厚生労働省から大阪府への立入検査への依頼や実施の時期を明らかにした上で、その経過及び立入検査の実施に至った理由を明らかにする中で、当該企業を含めどのように安全対策が講じられてきたのか、政府の認識を明らかにされたい。
2 立入調査の報告次第では、販売中止も含めその後の対応の選択肢が考えられた。市販直後調査制度の導入のきっかけとなったソリブジン事件では一九九三年九月に発売し、発売後四十日間に十五名が死亡したことから、同年十二月には発売が中止されている。立入調査実施後もイレッサは、発売が中止されることなく、販売されたが、立入調査の結果報告を踏まえて、当該製薬会社の安全対策に何らかの問題が認められたかどうか、認められたのであれば、それに対する当該製薬会社への指導など何らかの対処をしたかどうかを明らかにされたい。加えて、立入調査結果報告を踏まえて検討しても販売中止にまで至らないと判断した政府の根拠を明らかにされたい。

  右質問する。