質問主意書

第171回国会(常会)

質問主意書


質問第二四三号

歯科医療に係わる先進医療技術の適正評価に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十一年七月十五日

円 より子   


       参議院議長 江田 五月 殿



   歯科医療に係わる先進医療技術の適正評価に関する質問主意書

 近年、糖尿病や高血圧、動脈硬化など全身疾患と歯科疾患との関わりが注目されるようになり、歯科医療への国民のニーズは高まっている。ところが、「歯が痛い」「歯ぐきの腫れ・出血」「噛みにくい」など歯科疾患の自覚症状があってもその三分の一は歯科医療を受けていないというのが実情である(厚生労働省「平成十九年国民生活基礎調査」)。また、総務省の二〇〇八年「家計調査年報」は、医科診療代は年収の多寡によってそれほど大きな差はないが、歯科診療代は低収入層と高収入層との間には四倍もの開きがあると報告し、NPO法人日本医療政策機構の「日本の医療に関する二〇〇七年世論調査」では、「費用的理由で歯科受診を控えたことがある」と答えた人が低所得・低資産層の四十%に達している。その一方で、歯科医療費は、長年にわたって二兆五千億円程度で推移し、国民医療費に占める歯科医療費の割合は、いま八%を切るところまで減少し続けている。このような状況の中で、経営的に困窮している歯科医療機関が多くなっている。
 この背景としては、まず構造改革政策の下で国民の間に広がった所得格差があり、歯科固有の問題としては労働安全衛生法による定期健診や二〇〇八年から始まった特定健診・特定保健指導から歯科健診が除外されていること、二十年以上も歯科診療報酬点数(以下「保険点数」という。)が変わっていない項目が六十三もあるなど、保険点数が長い間低く抑えられたままになっていること、多くの歯科医院に普及している歯列矯正やメタルボンド冠、レーザー治療、インプラントなど新しい治療方法がなかなか保険導入されず、歯科医療の高度化に対応していないこと等が指摘されてきたところである。
 こうした中、平成二十年度診療報酬改定においては、医療の高度化に対応するための取り組みとして歯科では先進医療から三つの技術(「歯周組織再生誘導手術」、「接着ブリッジによる欠損補綴」、「レーザー応用による齲蝕除去(無痛的窩洞形成加算)」)が保険導入された。
 ところが、医療現場ではこれらの技術が適正に評価されていないとの理由で算定が進んでいない。例えば、「レーザー応用による齲蝕除去(無痛的窩洞形成加算)」の場合、治療に必要なレーザー機器が六百万円以上と高額であるにもかかわらず、当該技術に係る加算がわずか二十点であるため、齲蝕歯即時充填形成の所定点数百二十点と合わせても百四十点にしか過ぎず、設定された点数ではとうてい機器導入の費用を賄えない。「歯周組織再生誘導手術」においても、先進医療等の時には一件当たりの費用が五万八千円から五万五千円程度であったものが、保険収載後には一万五千三百円(吸収性膜使用、手術料・材料料合算後の金額)になり、不採算に陥っている。
 この「歯周組織再生誘導法」と「レーザー応用による齲蝕除去(無痛的窩洞形成加算)」の保険導入に当たっては、「有効性」「安全性」「普及性」「技術的成熟度」「倫理性・社会的妥当性」が検討されたと考える。とくに「普及性」は、保険診療における重要な評価項目であるにもかかわらず、保険導入後の保険診療の点数が低ければ、かえって「普及性」を阻害する結果となってしまう。せっかく新規技術が保険導入されても、低い保険点数の評価では、実施する歯科医療機関は拡大せず、その結果、患者はこうした有効な治療へのアクセスが制限され、大きな不利益を被ることとなる。
 そこで、以下の点を質問する。

一 平成二十年度において、新規技術として先進医療から保険導入された「歯周組織再生誘導手術」「レーザー応用による齲蝕除去(無痛的窩洞形成加算)」について、当該技術の施設基準の届出医療機関数と実施件数を明らかにされたい。

二 関東信越厚生局に確認したところ、東京では、「歯周組織再生誘導手術」の届出件数は七百八十四件、「レーザー応用による齲蝕除去(無痛的窩洞形成加算)」の届出件数は百十二件であるという。東京の歯科医療機関数は一万を超えており、期待したようには普及していないのが実態である。これらの技術を普及する上での課題等を政府はどのように把握しているのか、明らかにされたい。

三 これらの技術は、患者にとって有用な医療技術であり、広く普及させていくことがもとめられる。そのためには、当該技術に係る歯科医療機関の人的及び費用負担等を考慮した上で、適正に評価することが重要であると考えるが、この点について、政府の見解を明らかにされたい。

  右質問する。