質問主意書

第171回国会(常会)

質問主意書


質問第二三七号

独立行政法人国際協力機構による海外投融資の再開に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十一年七月十三日

近藤 正道   


       参議院議長 江田 五月 殿



   独立行政法人国際協力機構による海外投融資の再開に関する質問主意書

 六月二日、第二十二回海外経済協力会議において、独立行政法人国際協力機構(JICA)の投融資機能について「再開に向けて検討する」ことが決定した。そして、六月二十三日にはいわゆる「骨太の方針二〇〇九」において、JICAの海外投融資機能を「実施する」ことが決定している。JICAの投融資機能の再開に関し、以下質問する。

一 現在の我が国の財政状況は、国民一人あたり約四百三十三万円の財政赤字を抱え、非常に深刻な状況にある。このような我が国の状況に鑑みれば、過去の行政改革において一度廃止された経済的に高リスクな事業への政府開発援助(ODA)による支援の正当性には疑問を持たざるを得ない。海外投融資機能の再開を議論するにあたっても、ODAの担当各省は大原則の前提として、行政のスリム化、無駄な行政コストの削減を徹底的に追求するべきであると考えるが、いかがか。

二 民間セクターの海外事業展開の促進の必要性は認める。しかしながら、民間セクターの活動とODAとの連携(官民連携)の推進については、日本政府は、平成二十年四月に「成長加速化のための官民パートナーシップ」を発表している。これは、JICAまたは日本政府が民間企業からの案件の提案を広く受け付け、検討する枠組みを整えるものである。このような制度の整備が既に最近なされたのならば、このような枠組みをまずは活用し、その枠組みでは援助効果あるいは官民連携推進の観点から不十分であったと判断した後、初めて、別の官民連携の形態である海外投融資の再開も含め官民連携の改善策が取られるべきである。つまり、現状では、JICA内部における行政コストを削減するためにも、まずは既に設置されている「成長加速化のための官民パートナーシップ」の活用にJICAは注力すべきである。従って、投融資機能の再開は時期尚早ではないか。

三 六月二日の第二十二回海外経済協力会議では、JICAの投融資機能の再開に向けた「検討の前提」あるいは「検討の一環」として、「民間との意見交換を踏まえ」ること及び「関係省にて、新しい制度・チェック体制を構築すべく、過去の実施案件の成功例・失敗例や問題点を十分研究・評価する」ことが決定された。そして、六月二十三日にはその実施が決定された。六月二日から三週間程度で、十分な民間との意見交換、また過去の実施案件に関する十分な研究・評価が実施できるとは考えられない。このような意思決定はあまりにも拙速であると考えるが、いかがか。

四 六月二日から二十三日の間に、民間との意見交換を実施しているのであれば、意見交換を実施した日時、意見交換をした人あるいはその人物が属する団体名、各意見交換の具体的な内容について示されたい。

五 六月二日から二十三日の間に関係省の間で研究・評価を実施したのであれば、その内容を具体的に示されたい。

六 経済産業省、国際協力銀行(JBIC)、日本貿易保険(NEXI)、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)、日本貿易振興機構(JETRO)等、政府あるいはJICA以外の政府系機関にも民間企業の海外進出の支援スキームがあり、民間企業の海外進出の支援のための制度が既に乱立している。このような中、新たなスキームの導入を検討する前に、各スキームの包括的なレビューを行うべきではないか。あるいは、このようなレビューは、「六月二日から二十三日の間に関係省にて実施された、研究・評価」において実施したのか。実施したのであれば、具体的な研究・評価内容を示されたい。実施していないのであれば、今後の研究・評価において実施すべきではないか。

七 三で述べたように、そもそも過去の成功例・失敗例の研究及び評価は、JICAの投融資機能の再開に向けた「検討の前提」あるいは「検討の一環」として実施されることになっていた。しかし、「骨太の方針二〇〇九」からは、過去の成功例、失敗例の研究・評価が「再開の決定後」に実施されることになっているように理解できるが、いかがか。またたとえ実施したとしても、わずか三週間という短い期間では検討が十分であったとは考えられないが、いかがか。

八 「骨太の方針二〇〇九」においては、「本年秋を目処にJICA・関係省を中心に協議」をするとしている。しかしながら、過去国会等において指摘されてきた問題を繰り返さないため、また議論が形骸化したものにならぬよう、政府関係者のみならず民間の再開に慎重な者も含めた形で徹底的に協議がなされるべきであると考えるが、いかがか。

九 再開が検討されているJICAの投融資機能は、ODAの有償資金協力に位置づけられているものである。従って、再開に向けた「民間」との意見交換の場には、直接的な再開による受益者である企業関係者のみならず、ODAに関する経験・知見をもつ第三者も含めるべきであると考えるが、いかがか。

十 過去の実施案件の成功例・失敗例や問題点の研究・評価にあたって、また前述の意見交換の場を設けるにあたっては透明性が確保されるべきだが、政府はどのように考えるか。

十一 以上の点も含め、海外投融資の再開の検討にあたっての議論が不十分・不適当であった場合には、当然、再開の是非という根本的な問題から再度議論されるべきであると考えるが、これについて、政府はどのように考えるか。

  右質問する。