質問主意書

第171回国会(常会)

質問主意書


質問第二一三号

臓器移植関連施策に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十一年六月二十二日

川上 義博   


       参議院議長 江田 五月 殿



   臓器移植関連施策に関する質問主意書

 世界保健機関(WHO)の執行理事会は、平成二十一年一月二十六日に人の臓器と組織の移植に関し、総会で決議すべき案文を勧告した。また、平成十六年五月二十二日の総会決議を受け、人の臓器移植に関する指導指針の改訂作業が進められている。平成二十二年五月の総会では、決議案の採択と、指導指針の改訂が承認される見通しであると承知している。
 そこで、このような国際的な動向に関連した国内施策の状況について、以下のとおり質問する。

一 ドナー数の増加に向け現在採用されている施策及び予算の概要について

 移植に提供される臓器の不足は国際的な問題であり、平成二十年五月二日の国際移植学会のイスタンブール宣言においても各国が臓器を提供するドナー数の増加に向けた努力を行うことが奨励されていると承知している。我が国では現在、臓器提供意思表示カードの配付や臓器移植に関する普及啓発のための一般的な広報等がなされていることは承知しているが、実際にドナー数を増加させるためには現場の医療機関の努力が不可欠であり、スペインや米国などでは、医療機関を対象としたドナー・アクション・プログラムと呼ばれるドナー数の増加策が効果を上げていると側聞している。この点、関係医療機関の理解・協力を得てドナー数を増加させるために、我が国ではどのような施策が講じられているのか。一部医療機関では心停止後も含めた腎臓提供についてドナー・アクション・プログラムも試みられていると聞くが、現在講じられているドナー増加のための施策の概要、予算額、ドナー・アクション・プログラムの導入の実績及び成果についてもそれぞれ示されたい。

二 臓器提供施設の増加策等について

 臓器提供を行えるものとされている施設は平成二十年九月三十日現在で大学附属病院、救命救急センター等、いわゆる四類型の四百七十四施設とされているところ、脳死状態に陥った際に脳死下臓器提供をする旨の記載のある臓器提供意思表示カードを保持していた者の約半数が四類型以外の施設に搬送されたため、脳死下提供に結びつかなかったと承知している。提供可能な施設数が増加する、あるいは提供可能な施設への迅速な連絡体制が完備することにより、提供数は大幅に増えることが見込まれると考える。現在の臓器提供施設の基準の検討状況について示されたい。基準を維持する場合は、その理由を明らかにされたい。また、臓器提供施設への連絡体制について、諸外国の例も含め、検討状況を示されたい。検討していない場合はその理由を明らかにされたい。

三 我が国における脳死の実態について

 WHOの一連の方針では、国際的な臓器不足を反映し、特に死体ドナーからの臓器提供を最大化することが求められていると承知しているが、我が国における臨床的脳死者の発生数は年間何人程度と把握されているのか。把握されていないとすれば、脳死下臓器提供を推進する前提として、早急に把握する必要があるのではないか。また、脳死に陥る原因疾患にはどのようなものがあり、それぞれどの程度発生していると把握されているのか。年間発生総数、それぞれの原因疾患別の件数について示されたい。

四 脳死判定基準の検討状況について

 参議院臓器の移植に関する特別委員会「臓器の移植に関する法律案に対する附帯決議」(平成九年六月十六日)では、政府に対し、「臓器摘出に係る法第六条第四項の厚生省令で定める判定基準については、臓器移植の実施状況を踏まえ、医学の進歩に応じて、常時検討を行うこと。」を求めているところであるが、判定基準の検証・検討状況について示されたい。検証が行われていない場合は、その理由を回答されたい。

五 脳死判定の補助検査について

 臓器の移植に関する法律施行規則及びガイドラインにおいて、脳死判定の際には補助検査として聴性脳幹誘発反応をできるだけ実施することが奨励されていると承知しているが、実際の実施状況について、臓器の移植に関する法律施行後の脳死下移植事例を示されたい。また、それぞれの事例について実施された、他の補助検査(脳血流検査等)についても、検査の概要及び実施状況を示されたい。把握していない場合は、その理由を回答されたい。また、実態としてほとんどの脳死判定において一定の補助検査が実施されているのであれば、当該補助検査を義務化することも考えてもよいのではないか。検査内容が追加されることにより、判定への信頼性が高まり、提供者の増加にもつながるのではないかと考えるが、政府の見解を問う。

六 生体移植の規制について

 我が国では国際的に比較しても生体移植に対する依存度が高いという実態があるところ、WHOの一連の方針では、生体ドナーの保護の観点から、ドナーとなりうる場合が成年の血縁者等に限定され、かつ、健康と福祉の保護が強調され、さらに諸手続の透明化、監視の観点が強調されていると側聞している。我が国における現在の生体移植の公的な規制は罰則のない厚生労働省ガイドラインによっていると承知しているが、ガイドラインによる規制でWHOの方針等に対応できると考えているのか。特にドナー保護を担保する施策も含め、今後の基本的な方向性について、考え方を示されたい。

七 いわゆる病気腎移植問題について

 宇和島徳州会病院の事件を契機としていわゆる病気腎移植が社会問題化したが、いわゆる病気腎移植に対する政府の見解、対応策を示されたい。また、現在の同病院に対する保険適用の状況、病気腎を移植する場合の保険適用の状況について示されたい。

八 レシピエントのQOL(生活の質)について

 移植を受けた者のその後の治療、生活の実態はほとんど知られていないところであるが、移植医療を推進し理解を深めるためにはその実態を明らかにする必要がある。移植を受けた後の健康状態、副作用の状況、就業状況、医療費の負担の実態について、移植された臓器別に実態を示されたい。把握していない場合は、その理由について回答されたい。

九 移植医療の透明性の確保について

 移植の過程における透明性を高めることは、いわゆる移植ツーリズムや臓器売買等による臓器移植等の不正を根絶するためにも極めて重要かつ有効な手段である。WHOの一連の方針においても、透明性について、各国当局の連携、特に国際的な統一管理のために臓器等にコード番号を付与する方向であると承知している。我が国においては、透明性を確保するために従来どのような施策が講じられてきたのか、具体的に示されたい。また、今後は国際的な動きに対応してどのような対策を講じるのか、コード番号を付与することを含め、検討状況を回答されたい。検討していない場合はその理由について回答されたい。

十 臓器提供にかかる意思表示の要件について

 臓器提供にかかる意思表示については、生前に臓器の摘出について承認する旨を述べていた場合、あるいは言明はないが拒否する理由もない場合に家族が代わりに承認するというオプト・イン(明示の同意)と呼ばれる仕組みと、生前に拒否の意思表示をしていない限りは同意が推定されるが家族に拒否権が認められうるオプト・アウト(推定同意)と呼ばれる仕組みがあり、拒否の意思を登録できるシステム等も整備されていると承知している。臓器移植医療が一般的である欧米諸国とは異なり、我が国では自らの死後の臓器提供について生前に何らかの形で意思を表示することはなお期待できず、家族等が本人の意思を忖度して判断する前提に欠けていることを懸念する。今後我が国における意思表示の仕組みが変更された場合、政府としては本人の生前の意思を可及的に尊重するよう、どのような施策を講じる用意があるのか。

十一 小児臓器提供に向けた環境整備について

 十五歳未満の小児からの臓器提供の実現に向けては、救える命は確実に救う小児救急体制の整備、小児の脳の可塑性に配慮した確実な脳死判定基準の設定、虐待児童からの臓器摘出の阻止、提供した後の家族の心理的なケア等、検討すべき課題が山積しているところである。それぞれの課題に対して、政府の見解を示されたい。

  右質問する。