質問主意書

第171回国会(常会)

質問主意書


質問第一八六号

供用開始遅延ダムおよび八ッ場ダム等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十一年五月二十九日

大河原 雅子   


       参議院議長 江田 五月 殿



   供用開始遅延ダムおよび八ッ場ダム等に関する質問主意書

 奈良県の大滝ダムや埼玉県の滝沢ダムはダム本体が完成したものの、試験湛水後に大規模な地割れが起き、いまだに供用開始ができない状態になっている。これらは、地質が脆弱なところにダムをつくってはならないという鉄則を守らなかったことによるものであり、八ッ場ダムはまさしくダム本体が完成しても大滝ダムのような経過を辿る可能性が高いダムである。そして、この八ッ場ダムについては新しい費用便益比の計算結果が今年二月に発表されたが、その計算方法は先に結論ありきのきわめて恣意的なものである。今回は、このような供用開始遅延ダムの問題や、八ッ場ダム事業の費用便益比計算など、ダムの諸問題について以下質問するので、真摯に答えられたい。なお、回答は誰もが分かる平易かつ明解な言葉で説明されたい。

一 供用開始遅延ダムについて

1 奈良県の大滝ダム(直轄ダム)について
(一) 大滝ダムは平成一四年八月にダム本体が完成したが、その後の試験湛水で地割れを起こし、白屋地区の住民は全戸移転を余儀なくされた。その後、対策工事が行われてきているものの、いまだに供用開始になっていない。大滝ダムの供用開始予定年月を明らかにされたい。
(二) 大滝ダムにおいて供用開始までに行われる予定の地すべり対策工事の内容とその対策工事の全事業費およびその負担割合(国、県、受水予定者)を明らかにされたい。なお、対策工事の内容は白屋地区、大滝地区、迫地区などの地区別に示されたい。
(三) 今後、大滝ダムの供用開始が現在の予定時期よりもさらに延長されることはないのか、その可能性を明らかにされたい。
(四) 大滝ダムは貯水池周辺の地質の見通しが甘かったため、完成時期が大幅に延び、対策工事に多額の費用が必要となったのであるが、このことについて当時のダム計画担当者がどのような責任を取ったのかを明らかにされたい。
2 埼玉県の滝沢ダム(水資源機構ダム)について
(一) 滝沢ダムは平成一七年一〇月にダム本体が完成したが、その後の試験湛水で地割れを起こし、対策工事が行われてきているものの、いまだに供用開始になっていない。滝沢ダムの供用開始予定年月を明らかにされたい。
(二) 滝沢ダムにおいて供用開始までに行われる予定の地すべり対策工事の内容とその対策工事の全事業費およびその負担割合(国、県、受水予定者)を明らかにされたい。
(三) 今後、滝沢ダムの供用開始が現在の予定時期よりもさらに延長されることはないのか、その可能性を明らかにされたい。
(四) 滝沢ダムは貯水池周辺の地質の見通しが甘かったため、完成時期が大幅に延び、対策工事に多額の費用が必要となったのであるが、このことについて当時のダム計画担当者がどのような責任を取ったのかを明らかにされたい。
3 全国の供用開始遅延ダムについて
(一) 大滝ダムや滝沢ダムのようにダム本体は完成したが、地割れ等の問題で供用開始が遅れているダムは他にもあるのではないかと推測される。平成二〇年度末の段階でダム本体が完成したが、供用開始に至らず、その期間が二年間以上に及んでいるダムがあれば、そのダム名、ダム本体完成年月、供用開始予定年月、供用開始の遅延理由を明らかにされたい。なお、対象ダムは直轄ダム、水資源機構ダム、補助ダムとする。
(二) 右記(一)の供用開始遅延ダムにおいて遅延の理由が地割れ等の地質上の問題にある場合はその対策工事の内容とその対策工事の全事業費およびダムの総事業費を明らかにされたい。
(三) 平成元年度以降、ダム本体が完成したダムで、ダム本体完成から供用開始まで二ヵ年以上かかったダムがあれば、そのダム名、ダム本体完成年月、供用開始年月、供用開始の遅延理由を明らかにされたい。なお、対象ダムは直轄ダム、水資源機構ダム、補助ダムとする。
(四) 右記(三)の供用開始遅延ダムにおいて遅延の理由が地割れ等の地質上の問題にある場合はその対策工事の内容とその対策工事の全事業費およびダムの総事業費を明らかにされたい。
4 八ッ場ダムの貯水池周辺の地すべりの可能性について
 八ッ場ダム工事事務所のホームページには貯水池周辺で地すべりの可能性のある箇所として二二箇所が抽出されたものの、対策工事が実施されるのは三箇所だけと記されている。残りの箇所について大滝ダムのように試験湛水開始後に地割れ、地すべりが起きた場合の責任をどう考えるのかについて見解を示されたい。

二 八ッ場ダム事業の工事進捗状況と今後の見通しについて

1 八ッ場ダムの関連事業である付替国道、付替県道、付替鉄道、代替地造成について
(一) 付替国道、付替県道、付替鉄道、代替地造成の工事進捗状況について
(1) 付替国道について平成二〇年度末で既に完成した区間、工事に着手している区間、契約済みの区間の延長とその全体に対する割合を各々について示されたい。
(2) 付替県道の林岩下線、林長野原線、川原畑大戸線のそれぞれについて平成二〇年度末で既に完成した区間、工事に着手している区間、契約済みの区間の延長とその全体に対する割合を各々について示されたい。
(3) 付替鉄道について平成二〇年度末で既に完成した区間、工事に着手している区間、契約済みの区間の延長とその全体に対する割合を各々について示されたい。また、新川原湯温泉駅の工事進捗率も明らかにされたい。
(4) 代替地について各地区ごとに平成二〇年度末で分譲を開始している面積とその分譲を予定している全体の面積に対する割合および完成済み家屋数と居住済み家屋数を示されたい。
(二) 付替国道、付替県道、付替鉄道の未買収地について
 付替国道、付替県道、付替鉄道のそれぞれについて平成二〇年度末における未買収地の距離数とその買収見込み時期を明らかにされたい。なお、付替県道は林岩下線、林長野原線、川原畑大戸線のそれぞれについて示されたい。
(三) 付替国道、付替県道、付替鉄道、代替地造成の完成予定時期について
 付替国道、付替県道、付替鉄道、代替地造成のそれぞれについて完成予定時期を示されたい。なお、付替県道は林岩下線、林長野原線、川原畑大戸線のそれぞれについて、代替地は地区別に示されたい。また、付替国道、付替県道について暫定供用開始がある場合はその時期と区間を明らかにされたい。
(四) 水没予定地住民の移転終了予定時期について
 水没予定地住民の移転終了予定時期を明らかにされたい。
(五) 現国道および現鉄道の廃止予定時期について
 現国道および現鉄道の廃止予定時期を明らかにされたい。
2 八ッ場ダムの本体工事について
(一) 平成二一年度に行う予定の本体工事の内容について
 今年度後半から本体工事に着手する予定と聞く。今年度の本体工事として予定している工事の内容を詳しく示されたい。
(二) 平成二二年度以降の毎年度の本体工事の内容について
 平成二二年度以降に予定している毎年度の本体工事の内容を詳しく示されたい。

三 八ッ場ダム建設事業の費用便益比計算について

 今年二月二四日の関東地方整備局の事業評価監視委員会において八ッ場ダム建設事業の費用便益比の新しい計算結果が示された。この便益計算に関して以下の事項を質問する。
1 洪水調節に係る便益計算について
(一) 洪水氾濫シミュレーションについて
(1) 洪水調節に係る便益は洪水氾濫のシミュレーションの計算結果から求められている。このシミュレーションは利根川の上流部(河口距離約二〇〇キロメートル付近)から河口までの本川(江戸川を含む)の周辺を一二ブロックに分けて行われている。昭和二二年のカスリーン台風の後の実際の洪水で、この一二ブロックのそれぞれにおいて本川からの氾濫が起きたことがあるならば、その氾濫浸水面積を洪水ごとに示されたい。
(2) 今回の計算結果の一例(平成一〇年九月型洪水)をみると、三年に一回の洪水では一二ブロックのうちの一ブロックで破堤・氾濫が起き、そして、五年に一回の洪水では四ブロックで、一〇年に一回の洪水では五ブロック、三〇年に一回の洪水では一一ブロックで破堤・氾濫が起きているが、実際にはそのように頻繁な氾濫はまったく起きていない。実際には起きていない破堤・氾濫が計算される理由を詳しく説明されたい。
(3) 今回の洪水氾濫シミュレーションの結果が実際と大きく異なった第一の理由として考えられるのは、想定洪水流量が大きすぎることである。利根川の八斗島地点で昭和二五年以降の最大の洪水は平成一〇年九月洪水の毎秒九二二二立方メートルであり、実績流量の推移から見て、これが五〇年に一回程度の洪水であると考えられる。今回の計算でも平成一〇年九月型洪水が計算対象となっているが、実績の毎秒九二二二立方メートル程度の洪水が今回の計算では何年に一回の洪水と想定されているのかを明らかにされたい。
(4) 第二の理由として考えられるのは、利根川の河道の流下能力の過小評価である。今回の計算でたとえば八斗島地点から栗橋地点までの区間において氾濫開始流量が毎秒何立方メートルとされたのかを明らかにされたい。また、堤防の天端まで洪水が流れる場合の流下能力を考えた場合、この区間における最小の流下能力が毎秒何立方メートルであるかも明らかにされたい。
(5) 第三の理由として考えられるのは、各ブロックの氾濫が同時に進行することがあるという前提で計算していることである。しかし、実際には、上流ブロックで氾濫すれば、河川内の洪水の一部が外に逃げて洪水位が下がるため、下流ブロックでの氾濫は起きにくくなる。今回の計算において上流ブロックで氾濫しても、それとは無関係に下流ブロックでも氾濫するという現実離れした計算を行った理由を明らかにされたい。
(二) 八ッ場ダムの洪水調節効果について
(1) 今回の計算では八斗島地点における八ッ場ダムの洪水調節効果をどのようなデータと手順で求めたのかを明らかにされたい。
(2) 八ッ場ダム予定地の直下では岩島地点で毎時の流量観測が行われている。岩島地点の毎時の観測流量で見て、今回の八ッ場ダムの洪水調節効果はあまりにも大きすぎると考えられる。今回の計算による八ッ場ダムの洪水調節効果が妥当であるかどうかを岩島地点の毎時の観測流量で検証した結果を示されたい。
(三) 八ッ場ダムの年平均被害軽減期待額の計算での不可解な操作について
(1) 八ッ場ダムの年平均被害軽減期待額の最終値を出すに当たって、計画高水流量(八斗島地点で毎秒一六五〇〇立方メートル)の確率規模を超える部分のみを八ッ場ダムに係る分としているが、そのように計画高水流量の確率規模を超える部分を取り出す理由を説明されたい。
(2) 計画高水流量の確率規模を超えない部分も含めた場合は八ッ場ダムの費用便益比がいくつになるのか、その計算値を示されたい。
(3) 利根川において計画高水流量に対応できる河道改修の完了時期の見通しを明らかにされたい。また、今後三〇年間の河川整備の内容を定める現在策定中の利根川水系河川整備計画では河道で対応する八斗島地点の目標流量を毎秒何立方メートルにする予定なのか、およその数字の範囲を示されたい。
(4) 計画高水流量に対応できる河道改修の完了時期は遠い将来のことであり、一方、八ッ場ダムの完成予定年度は現時点では平成二七年度とされているから、遠い将来に達成される予定の計画高水流量で八ッ場ダムに係る分を取り出すのはまったく不合理である。それにもかかわらず、そのような取り出しを国土交通省がわざわざ行ったのは、そうでもしないと、八ッ場ダムの費用便益比が一四~一五倍という異様に大きな値になってしまうからに他ならない。すなわち、前回の計算による費用便益比が二・九であったから、今回の計算でもそれに近い値が得られるように数字の操作を行ったものと推測される。となると、八ッ場ダムの費用便益比の計算は最初からおよその数字がきまっていて、それに近い値が得られるように行ったものに過ぎず、(一)と(二)で述べた問題、および後述の2で述べる問題も含めて科学的な計算とは程遠いものである。そのようにきわめて恣意的な計算で八ッ場ダム建設事業の費用便益比が求められ、それによって事業継続が妥当という判断がされていることは由々しき問題である。この点に関する見解を明らかにされたい。
2 景観改善に係る便益計算について
(一) 八ッ場ダム建設のマイナス面に何も触れないアンケートについて
 景観改善については吾妻渓谷の観光客を対象としたアンケート調査を行い、その結果から便益計算が行われているが、そのアンケート用紙は、八ッ場ダムが吾妻渓谷に与えるマイナス面にはまったく触れないものになっている。八ッ場ダムが建設されれば、①「渓谷の上流部は破壊され、水没する」、②「渓谷の前面に大きなダムが聳え立って渓谷の視野が遮られる」、③「残る渓谷の中下流部も八ッ場ダムで洪水調節を行うようになると、下久保ダム直下にある三波石峡のように洪水が渓谷の岩肌を洗うことがなくなり、岩肌に草木やコケが生えて景観がひどく悪化する」ことが確実に予想されるのであって、そのことにまったく触れないアンケート用紙を配布するのはあまりにも不誠実である。八ッ場ダムが吾妻渓谷に与えるマイナス面にまったく触れないアンケートを行った理由を明らかにされたい。
(二) 吾妻渓谷の観光客数を大きく水増しした景観の便益計算について
 今回の計算では、右記のアンケートの結果から得た数字(景観改善に観光客が一人当たり年間一五六〇円払う)に観光客数をかけて、八ッ場ダムの景観改善の便益を計算している。そこで使われた観光客数は約五七万人であるが、これも実際よりもかなり大きな数字である。吾妻渓谷の散策を楽しめる日数は、雨天、厳寒、酷暑の日を除くと、せいぜい年間の半分、一八〇日程度であるから、五七万人を一八〇日で割ると、一日平均で三〇〇〇人になるが、そんなに大勢の人が吾妻渓谷に来ているはずがない。国土交通省が一一月初旬の最もよい季節で延べ五日間、アンケート調査を行った対象が六七七人にとどまっていることから見ても、一日平均で三〇〇〇人、五日間で一五〇〇〇人という観光客数が現実離れした数字であることは明らかである。この点について見解を示されたい。
(三) 八ッ場ダムがなくても、発電の水利権更新で解消される吾妻渓谷の流量減少について
 吾妻渓谷の晴天日の流量は多くはなく、渇水時の冬期には毎秒一立方メートル前後まで流量が落ち込むことがある。この原因は東京電力の水力発電所の大量取水にある。吾妻川には多くの水力発電所が設置されていて、川に流れるべき水の大半が発電所への送水管の中を流れている。吾妻渓谷と並行して走っている松谷発電所の送水管には最大で毎秒二五・六立方メートルの水が流れている。しかし、これらの発電所は水利権の更新時期を近々迎えることになっており、そのときに下流放流が義務付けられるので、吾妻渓谷の減水状態は解消されることになる。このことに関して次の三点の質問に答えられたい。
(1) 松谷発電所の水利権の更新時期はいつか。
(2) その水利権更新によっておよそ毎秒何立方メートルの下流放流が義務付けられると予想されるのか。
(3) このように発電所の水利権更新で解決する吾妻渓谷の減水状態の解消を八ッ場ダムの便益とすることに問題はないのか。

四 特定多目的ダム法のかんがい用水の受益者負担金について

 特定多目的ダム法第一〇条に「多目的ダムによる流水の貯留を利用して流水をかんがいの用に供する者は、多目的ダムの建設に要する費用につき・・・十分の一以内で政令で定める割合の額及びその額に対応する建設期間中の利息の額を合算した額の負担金を負担しなければならない。」と記され、同条第三項で都道府県が条例を定めてかんがい用水の受益者に負担させることになっている。ところが、実際にかんがい用水の受益者負担金を徴収した例がないと聞く。このことはダムの建設目的にかんがい用水の確保を安易に加え、不要なダム建設の推進理由になりかねないので、このことに関して次の三点を質問する。
1 かんがい用水の開発を建設目的に含む全国の多目的ダム(直轄ダム)で、今までかんがい用水の受益者負担金を徴収した例があれば、そのダム名、ダムの完成時期、都道府県名、条例の名称、かんがい用水の受益地名を明らかにされたい。
2 多目的ダムの建設費の一部についてかんがい用水の受益者負担金を徴収するのは本来いつの時点となっているのか、ダムの建設中か、ダム完成後か、あるいはそのかんがい用水を供給する事業が完成した後かを明らかにされたい。
3 特定多目的ダム法第一〇条により、かんがい用水の受益者は建設費の一部を負担しなければならないとされているにもかかわらず、都道府県がその受益者負担金を肩代わりすることがあれば、特定多目的ダム法に抵触することになるが、このことについて見解を示されたい。

  右質問する。