質問主意書

第171回国会(常会)

質問主意書


質問第一八一号

チッソに対する抜本的金融支援措置に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十一年五月二十八日

松野 信夫   


       参議院議長 江田 五月 殿



   チッソに対する抜本的金融支援措置に関する質問主意書

 水俣病発生の原因者、汚染者であるチッソ株式会社(以下、「チッソ」という。)は、汚染者負担の原則による水俣病患者への補償をはじめ、環境復元費用及び被害救済費用の負担、実行に当たって、一九七八(昭和五十三)年以降、国、熊本県、民間金融機関等から多くの金融支援を受けて今日に至っている。
 国は一九七八(昭和五十三)年六月二十日に「水俣病対策について」を閣議了解して、「水俣病患者に対する補償金の支払は原因者たる同社の負担において行うべきであるという原因者負担の原則を堅持しつつ」、「同社の経営基盤の維持・強化を通じて患者に対する補償金支払に支障が生じないよう配慮するとともに、併せて地域経済・社会の安定に資する」ものとして、県債方式によるチッソへの金融支援策を実施した。これは、熊本県が資金運用部及び関係金融機関が引き受けの県債を発行することによって患者補償費を調達し、それをチッソへ貸し付けるもので、一般には患者県債と言われている。
 その後、熊本県は、患者県債に加えて、チッソ水俣工場の設備投資資金を調達するためのいわゆる設備県債、水俣湾公害防止事業負担金のためのいわゆるヘドロ立替債、そして一九九五(平成七)年の政治解決に伴う未認定被害者への一時金支払のためのいわゆる一時金県債を発行してチッソに貸し付けてきたことから、一九九九(平成十一)年三月末現在のチッソの公的債務は元金で約千四百四十二億円、償還予定額で約二千三百八億円となっていた。
 そのような状況を受けて、国は二〇〇〇(平成十二)年二月八日、熊本県の了承とチッソによる「再生計画策定」を受けて、「平成十二年度以降におけるチッソ株式会社に対する支援措置について」を閣議了解した。これによって、(1)チッソは患者県債の発行によらず経常利益の中から患者への補償金を優先的に支払い、可能な範囲内で熊本県に貸付金債務返済を行い、県はチッソが返済を行い得るよう、各年度、所要の支払猶予等を行う、(2)国は、県が支払猶予等を行う場合に県債償還に支障をきたさぬよう、一般会計からの補助金及び地方財政措置により所要額を手当するものとされる等、抜本的支援策が措置された。
 以上のとおりの経過ではあるが、この間の処理についての国の認識及び解釈には疑義がある。
 そこで、以下のとおり質問する。

一 国は、前記抜本的支援策の前までは、株式会社という通常の営利企業に対して、たとえ同企業が経営危機に至っていたとしても、一般会計から補助金を支出することは原則として許されないという解釈に立っていたのではないか。

二 仮に国が前項のような立場であったとすれば、何故、従前の解釈を変更したのか、その理由を明らかにされたい。

三 一九九五(平成七)年の政治解決の際にチッソが未認定被害者へ支払った一時金は総額三百十七億円であったが、その全額は熊本県に設けられた基金から貸し付けられた。基金への出資金は、八十五%が国の一般会計から県への補助金により、残り十五%が資金運用部引受けの県債発行により措置されたところ、二〇〇〇(平成十二)年二月八日の閣議了解によって、国庫補助金分の二百七十億円についてはチッソの返済義務を免除し、また熊本県から国への返済は不要とした。
 右措置によって、国は極めて異例ではあるが、債権放棄をしたことになる。国も同様の認識であるか。

四 国が前項のような措置をするのは極めて異例の取扱いではあるが、国がその有する債権を放棄して返済義務を免除するには何らかの基準もしくは原則があるか。あればいつどのような基準もしくは原則が確立されているか明らかにされたい。

五 国は、第三項を実施するに当たってはどのような理由によってチッソの返済義務を免除したのか。チッソが経営危機に陥ったため返済不能という判断がなされたため免除したのか。具体的に明らかにされたい。

六 一営利企業に対する一般会計からの補助金支出も異例であるうえ、その返済を免除することもまた異例である。国は、債権放棄によって国の資産を減少させた責任をどのように認識しているか。

七 国が第三項のような債権放棄を行うことは、財政法第八条によれば法律に基づかなければ許されないのではないか。仮に同条項に違反しないというのであればその理由を明らかにされたい。

  右質問する。