質問主意書

第171回国会(常会)

質問主意書


質問第七五号

日本銀行、預金保険機構及び銀行等保有株式取得機構が保有する株式の議決権の行使に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十一年三月三日

大久保 勉   


       参議院議長 江田 五月 殿



   日本銀行、預金保険機構及び銀行等保有株式取得機構が保有する株式の議決権の行使に関する質問主意書

 わが国では、個人、法人を問わず、長い間、株式の議決権を行使することには大きな関心が払われてこなかった。しかし近年、機関投資家や年金基金等は、株主議決権を積極的に行使するようになっている。これは、株主議決権を積極的に行使することにより、自らの株主価値の向上に資するとともに、日本の企業統治のあり方及び資本市場の機能の向上に資することも、社会的な責任を担う者としての長期的な目標として捉えられるようになってきたためである。
 例えば、地方公務員共済組合連合会は、「地方公務員共済組合連合会コーポレートガバナンス原則」及び「株主議決権行使ガイドライン」を定めた上で、議決権行使の内容についての指図を、国内株式の運用委託機関に対して行い、さらにその結果を「株主議決権の行使状況報告」として毎年まとめている。株主としての責任を積極的に果たしていると評価できよう。
 日本銀行も、「株式買入等基本要領」(以下、「日銀要領」という。)及び「議決権行使の指針」(以下、「日銀指針」という。)により、受託者に対して議決権行使の基準を定めている。しかし、日銀要領及び日銀指針はともに、他の議決権行使基準と比べて抽象的であり、また日銀要領及び日銀指針の結果としての議決権行使の状況が明らかになっていない。これは、預金保険機構及び銀行等保有株式取得機構についても同様である。
 もちろん、日本銀行、預金保険機構及び銀行等保有株式取得機構については、他の機関と異なり、株式を買い入れし、及び保有すること自体に政策としての意義があることは理解できる。しかし、最高意思決定機関である株主総会の結果如何によっては、保有する株式の価値を大きく減損せしめ、ひいては国民の財産を毀損することにもなりかねない。また、議決権の行使及びその結果の公表によって、日本の企業統治のあり方及び資本市場の機能を向上させようとする者にとっては、日本銀行、預金保険機構及び銀行等保有株式取得機構が議決権の行使及びその結果の公表について積極的ではない現状は、看過しがたい。
 右記の理由により、日本銀行、預金保険機構及び銀行等保有株式取得機構についても、他の機関と同様、議決権の行使を積極的に行い、かつその結果を公表すべきと考えるため、以下の質問をする。

一 日銀要領の「9.買入れた株式の議決権行使」では、議決権行使の指針として、(1)議決権行使は本行の経済的利益を増大させることを目的として行われること、(2)株主の利益を最大にするような企業経営が行われるよう議決権を行使すること、と定められている。この「本行の経済的利益を増大させる」及び「株主の利益を最大にするような企業経営」とは、具体的にどのようなことを指すのか、政府の承知しているところを示されたい。また、現状が日銀要領の通りとなっているかの評価についても、示されたい。

二 日銀指針の「2.総則」でも、日銀要領と同様、(1)受託者は、本行の経済的利益の増大を目的として議決権を行使するものとする、(2)受託者は、株主の利益を最大にするような企業経営が行われるよう議決権を行使するものとする、と定められてはいる。しかし、同時に、(5)受託者は、(1)の目的以外の目的で議決権を行使してはならない、ともされている。日銀指針において、「株主の利益を最大にするような企業経営」が議決権行使の目的かどうか不明確と思われるが、政府の見解を示されたい。

三 日銀指針の「4.受託者のガイドラインの策定等」では、(2)(1)のガイドラインは、別表に掲げる議案についての判断基準を網羅し、かつ、受託者が本行の個別の指図を求めることなく議決権を行使することを前提とするものでなければならない、とされている。これは、個別の議案において、受託者が日本銀行の指図を求めることを禁止するものかどうか、政府の見解を示されたい。なお、禁止するものであるとすれば、その理由をあわせて示されたい。

四 日銀指針の別表における、「役員等の選任」とは、具体的にどのようなことか、政府の承知しているところを示されたい。とりわけ、社外取締役の有無もしくは増減員に関する議案が「役員等の選任」に含まれているかどうか、示されたい。なお、社外取締役の有無もしくは増減員に関する議案が「役員等の選任」に含まれていないとすれば、その理由について政府の承知しているところをあわせて示されたい。

五 日銀要領及び日銀指針に基づく議決権行使状況について、平成十七年四月から平成十八年三月末決算会社の全議案、平成十八年四月から平成十九年三月末決算会社の全議案及び平成十九年四月から平成二十年三月末決算会社の全議案のうちの、①賛成、②反対、③白紙委任及び棄権、④不行使、の割合について政府の承知しているところを、それぞれ示されたい。なお、③及び④が存在する場合は、その理由を示すとともに、日本銀行または運用委託機関が③または④を選択することが、日本の企業統治のあり方及び資本市場の機能の向上に資するかどうかという観点について、③及び④は経営の現状に対する消極的な賛成ではないかとの意見も考慮した上で、政府の見解を示されたい。

六 預金保険機構の保有する株式について、議決権行使の指針等があれば政府の承知しているところを示されたい。また、預金保険機構または運用委託機関の議決権行使状況について、平成十七年四月から平成十八年三月末決算会社の全議案、平成十八年四月から平成十九年三月末決算会社の全議案及び平成十九年四月から平成二十年三月末決算会社の全議案のうちの、①賛成、②反対、③白紙委任及び棄権、④不行使、の割合について政府の承知しているところを、それぞれ示されたい。なお、③及び④が存在する場合は、その理由を示すとともに、預金保険機構または運用委託機関が③または④を選択することが、日本の企業統治のあり方及び資本市場の機能の向上に資するかどうかという観点について、③及び④は経営の現状に対する消極的な賛成ではないかとの意見も考慮した上で、政府の見解を示されたい。

七 銀行等保有株式取得機構の保有する株式について、議決権行使の指針等があれば政府の承知しているところを示されたい。また、銀行等保有株式取得機構または運用委託機関の議決権行使状況について、平成十七年四月から平成十八年三月末決算会社の全議案、平成十八年四月から平成十九年三月末決算会社の全議案及び平成十九年四月から平成二十年三月末決算会社の全議案のうちの、①賛成、②反対、③白紙委任及び棄権、④不行使、の割合について政府の承知しているところを、それぞれ示されたい。なお、③及び④が存在する場合は、その理由を示すとともに、銀行等保有株式取得機構または運用委託機関が③または④を選択することが、日本の企業統治のあり方及び資本市場の機能の向上に資するかどうかという観点について、③及び④は経営の現状に対する消極的な賛成ではないかとの意見も考慮した上で、政府の見解を示されたい。

八 日本銀行もしくは運用委託機関、預金保険機構もしくは運用委託機関または銀行等保有株式取得機構もしくは運用委託機関の議決権行使状況について、平成十七年四月から平成十八年三月末決算会社の社外取締役に関する議案、平成十八年四月から平成十九年三月末決算会社の社外取締役に関する議案及び平成十九年四月から平成二十年三月末決算会社の社外取締役に関する議案のうちの、①賛成、②反対、③白紙委任及び棄権、④不行使、の割合について政府の承知しているところを、それぞれ示されたい。

九 日本銀行、預金保険機構及び銀行等保有株式取得機構の保有する株式について、株主に対する優待サービスが存在する場合の、それぞれの機関の取扱いについて政府の承知しているところを示されたい。

十 日本銀行、預金保険機構及び銀行等保有株式取得機構の保有する株式を発行している会社の取締役に、日本銀行、預金保険機構及び銀行等保有株式取得機構に在籍した経歴を持つ者が過去三年間に就任している場合は、その社名と人数、氏名及び就任日時を示すとともに、関係として適切かどうか政府の見解を示されたい。

  右質問する。