質問主意書

第170回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一五三号

「森林ニューディール」政策の実施と「新三業革命」に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十年十二月二十四日

田中 康夫   


       参議院議長 江田 五月 殿



   「森林ニューディール」政策の実施と「新三業革命」に関する質問主意書

 森林の間伐については、平成二十年五月十六日に「森林の間伐等の実施の促進に関する特別措置法」が公布・施行され、今後、一層効果的な森林施業が地方自治体と国との適切な役割分担のもとで実施に移されることが期待されている。
 にも拘らず、林野庁予算の実情を眺むるに、植栽や間伐等の森林整備に投じられている予算は全体の僅か八%で、残りの九十二%は、林道建設や谷止め工と呼ばれるコンクリートや鋼鉄の杭を沢に打ち込む公共事業に他ならない。
 又、これまで間伐が完了した針葉樹は、人工林千四十万ヘクタールの約三分の一の約四百万ヘクタールに過ぎず、平成二十四年までに三百三十万ヘクタールの間伐を実施しても猶、全体の約三分の一が未間伐の森林として残ることとなる。針葉樹は樹齢六十年を迎えるまでに二残一伐と呼ばれる二列残して一列伐採する間伐を行わねば、幹が太くならず、保水力も高められない。昭和三十年代に植林された針葉樹の間伐は最早、待ったなしの状況である。
 昨今の公共投資の削減に加え経済が景気後退局面を迎え、中山間地域を始めとする地方の土木建設業者等は、その経営も生活も極めて困難な状況に直面している。今こそ、地域密着型の公共事業と呼び得る間伐事業を充実させ、こうした業者の従事を図るべきである。更に、伐採した間伐材は、それを徒に放置することなく、鋼鉄製に代わる木製ガードレール、木質ペレットによる道路舗装、バイオマスへの活用等、有用性を生かす可能性は無限に存在している。
 新党日本代表である私、田中康夫は、信州・長野県知事在任中、間伐事業及び間伐材の多様な機能に注目し、「森林ニューディール」と銘打ち、間伐面積、予算を共に二・五倍へと増大し、森林整備技術習得の為の無料講習会を開催するなど、地域雇用の促進を実現してきた。併せて、従来は間伐後も放置され勝ちだった木材を有効活用し、つくば市に位置する日本自動車研究所に於ける実証実験を経て、鋼鉄製と同等の強度を有する信州型木製ガードレールを実現し、各地に設置するに至った。地域雇用の創出、景観形成の充実、何れの観点からも時機到来の施策である。
 建設投資の低迷など建設市場に於ける劇的な構造変化の中で、建設産業は未だ嘗て経験した事もない厳しい経営環境に直面している。こうした状況に鑑み、建設業以外の新たな事業分野への進出を視野に入れた抜本的な対応が必要と考え、建設産業構造改革プログラムを創設した。林業、農業、福祉、介護等の新たな事業にも地元建設業関係者が踏み出す事で、地域雇用の創出を目指し、数々の具体的実績を上げている。
 日本の国土面積の七割近くは森林である。森林ニューディールの効果は、従来型の治山治水、或いは森林吸収源対策に留まらない。
 中下流の農業者や漁業者にも、森林の多面的な機能が十全に発揮され、良質な農作物、魚介類の収穫・収獲を可能とし、大きな利益を齎す。即ち、農山漁村での営みに対する付加価値向上へと繋がる。本来、我が国の農地・山地・海洋は豊穣な資源である。にも拘らず、戦後の無為無策な歴代政府は、この資源を活かし切れず、今日の農山漁村の衰退と荒廃を生み出した。
 至らなさは改むるに如くは無し。今こそニッポンは、森林整備事業を、農業、林業、漁業三分野の連携を達成する「新三業革命」と位置付け、抜本的な対策を早急に講じる必要があると考える。
 そこで、以下に質問する。

一 「森林ニューディール」政策の実施と「新三業革命」への取り組みについて

 先の参議院本会議代表質問に於いて新党日本を代表し、森林政策を農業、林業、漁業三分野を連携する「新三業革命」の一環として実施する事が地域活性化及び林業再生の起爆剤となり、間伐の抜本的促進にも繋がると提言した。同時に、林業再生による雇用創出は、我が国が緊急に取り組むべき新産業創出の施策である。そこで、私が信州・長野県で実施した数々の「森林ニューディール」政策を、日本政府も「新三業革命」と位置付け、全省庁で取り組むべきである。森林整備、そして農村、山村、漁村等の地域振興に留まらず、混迷の極みで漂流する土木建設産業の構造改革に於いても、最も有益且つ有効な方策と考える。
 「新三業革命」としての「森林ニューディール」を、国の施策の中で具体的に導入することに関する、政府の見解を示されたい。
 又、その実施に向けて何らかの課題が有ると、仮に認識しているのであれば、その理由と解決の方法を具体的に示されたい。

二 林野庁予算について

1 大胆な政策転換に踏み切り、これから三年乃至四年の間で集中的に間伐事業を実施し、森林面積の四十五%を占める針葉樹の完全間伐を達成すべきである。前述の如く、針葉樹は樹齢六十年を迎えるまでに間伐を行わねば手遅れとなる。こうした認識に立ち、平成二十四年までの間伐事業計画を大幅に見直し、未間伐の山林がなくなるよう政府方針を転換するべきであると考えるが政府の見解を示されたい。また、その実現に際して要する予算の金額を示されたい。
2 政府は、間伐事業計画の経済的波及効果について調査研究したことはあるか。予算編成にあたり森林整備事業の雇用創出効果などをどう位置づけているのか具体的取り組み、内容を明らかにされたい。
3 先に示したとおり、林野庁予算の九割が谷止め工や林道建設に割かれていると承知している。平成二十年度予算及び平成二十一年度予算要求における、植林や間伐等の非土木事業予算が、林野庁予算に占める割合、又、森林整備予算に占める割合について、具体的に示されたい。
4 谷止め工や林道建設の比率が極めて高い現状に関し、斯くの如き予算配分に至った経緯及び意義を農林水産省として、どのように認識しているのか、詳細な論拠を示されたい。
5 林業にかかる公共事業の維持管理経費のあり方見直しについて、地方財政の負担を軽減するという観点、並びに間伐事業の計画の拡大の観点から、どのような検討状況にあるか。検討会の名称等、検討の概要及び経緯、そしてこれまで抽出された論点を示されたい。
6 鋼鉄製ガードレール製造企業は全国に僅か四社の寡占状態にあり、製鉄会社の系列に連なる。ガードレールの設置は道路管理者の地元自治体が費用を負担するにも拘らず、地域雇用に帰するのは設置費用部分のみである。他方、間伐材を用いる前述の信州型木製ガードレールは鋼鉄製と同等の耐久性を有し、間伐・製造・設置と何れも地域で賄い、一キロメートル当たりの雇用創出は、前者が五十八人であるのに対し、後者は二百九十一人と五倍にも上る。間伐促進、雇用創出、景観形成の観点に立ち、将又、洞爺湖サミット議長国として、木製ガードレールの設置を国家プロジェクトとして数値目標を設定し、取り組む考えが有るか否か、示されたい。仮に、難色を示すのであれば、その事由を具体的に示されたい。

  右質問する。