質問主意書

第170回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一四五号

シベリア抑留問題の最終解決に向けた取組に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十年十二月十九日

谷 博之   


       参議院議長 江田 五月 殿



   シベリア抑留問題の最終解決に向けた取組に関する質問主意書

 戦後六十三年目の年の瀬を迎え、シベリア・モンゴル抑留を体験された方々の訃報が増えている。十月二十日には地元栃木県の先輩で、かねてより親しくさせていただいた全国抑留者補償協議会の寺内良雄会長が、八十四歳で亡くなった。酷寒の地での強制労働に対する未払い賃金見合いの特別給付金法の制定による抑留問題の最終解決を待ち望んでおられたのに、その期待に応えられぬままであることは断腸の思いである。早期に抑留問題の解決を実現しなければならないと改めて強く感じる。以下、質問するが、これまでのように複数の質問項目に総括的にまとめて答弁するのではなく、個々の質問の意図をはぐらかすことなく、質問項目ごとに一問一答の形式で、長年明確な政府の答弁を待ち望んでいる諸先輩方に心より敬意を払った形にて、真摯に答弁されたい。

一 去る十月一日にモスクワで第三回目の抑留者問題に関する日露協議が行われた。第二回目までと比べて、どのような成果が上がったのか、具体的に明らかにされたい。

二 第四回目はいつを予定していて、その際の課題は何になると考えているか。

三 一九九一年に日ソ間で「捕虜収容所に収容されていた者に関する日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の協定」(以下、「協定」という。)を締結してからすでに十七年が経過した。日露協議も今回で三回目だが、時間をかけている割にはあまり成果があったとは思えない。これまでの歩みをどのように評価しているのか。

四 次の日露協議がいつ開かれるか分からないのであれば、協定に基づく両国間の取組により、これまでに判明した資料・事実をまとめ、検証した報告書を日本政府が作成し公表することは、抑留の全貌を明らかにするために極めて有益だと考えるが、いかがか。

五 ロシア政府のペースに合わせて数年に一度しか協議を行わないのではなく、年次計画であるとか今後の作業工程表等を作成して、協議の進捗を図るべきではないか。

六 今回の協議の際に、「呼称問題」についても議論したと聞くが、どのようなやり取りがあったのか、具体的に明らかにされたい。

七 「呼称問題」に関し、「捕虜」なのか「抑留者」なのかという議論は以前からある。当事者の心情として「捕虜」は不名誉な存在で、あまり「捕虜」と言われたくないとの声があることは承知しているが、これは戦前の間違った軍国主義教育の結果で、「戦陣訓」が刷り込まれているためと私は考える。海外では米・英、中国でも、捕虜は英雄として敬意を持って待遇され、毎年十一月十一日には、第二次大戦中にフィリピンで捕虜になり、その後九州大牟田の炭鉱で労働させられた元米軍捕虜の代表らが米国大統領をホワイトハウスに訪ね、大統領は彼らに敬意を表している。日本政府はロシア政府に対し、シベリア抑留者を「捕虜」として認めるよう、主張しているのか、それとも「抑留者」であると主張しているのか。

八 満鉄等に属した民間人も多く抑留されたので、全体を「抑留者」と呼ぶのは分かるが、旧関東軍などから強制移送された軍人・軍属は当時の国際法に照らして「捕虜」であると考えるが、いかがか。

九 少なくともシベリア・モンゴルに抑留された軍人・軍属は当時の国際法に照らして「捕虜」としての権利を侵害された犠牲者であると考えるが、そのようにロシア側に対して主張するべきではないか。

十 かつて私の質問主意書に対し、一度は「いわゆるシベリア抑留は、人道上問題であるのみならず、当時の国際法に照らしても問題のある行為であったと認識して」(シベリア抑留問題に関する質問に対する答弁書(内閣参質一五九第九号))と答弁しておきながら、「千九百二十九年の俘虜ノ待遇ニ関スル条約については、当時、日本及びソ連邦のいずれも締結しておらず、両国間にはこの条約の適用はなかった。千九百七年の陸戦ノ法規慣例ニ関スル条約(明治四十五年条約第四号)については、両国とも締約国であったが、同条約第二条のいわゆる「総加入条項」により交戦国がすべて同条約の当事者である時に限って適用されることとされていた」(シベリア抑留及び旧ソ連邦による漁船だ捕・抑留に関する質問に対する答弁書(内閣参質一六四第七一号))とも答弁しているが、結局どの国際法に照らしていわゆるシベリア抑留は問題のある行為であったと政府は認識しているのか。

十一 市販されている国語辞書「大辞泉」によると、「拉致」とは「無理やりに連れて行くこと」との意味であるとされる。政府は、「北朝鮮当局によって拉致された被害者等の支援に関する法律」における「拉致」とはどのような意味と解釈しているか。

十二 「拉致」の意味を「無理やりに連れて行くこと」と解する前提で、シベリア・モンゴル抑留はソ連国家による大規模な「拉致」事件であり、抑留者は「拉致」被害者でもあったと考えるが、いかがか。

十三 二〇〇九年三月末に旅行券の申請受付を終えて、政府としてはシベリア抑留問題の幕を引くつもりなのか。到底幕引きができるような状態ではないと思うが、二〇〇九年度以降、シベリア・モンゴル抑留に関して、どのような部門がどのような施策を考えているのか。

十四 政府として、日露協議を進展させ、抑留者問題の全資料を早急に入手・検証し、実態の全貌を明らかにできるよう、日本政府単独でも年次計画やロードマップを作成するなどして、真剣に取り組んでもらいたいと考えるが、いかがか。

十五 生存者にとって残された時間が少なくなる中、効率的にシベリア抑留の真相を究明していくため、日露両国の民間の研究者らへの一部業務の委嘱や作業への参加も検討するべきではないか。

十六 二〇〇七年十月、私の元に、チェコ在住のロシア人から、四十名分の日本人強制抑留者の名簿を有償で提供したいとの申し入れがあった。ロシア政府が把握していない、民間に埋もれた資料情報がかなりある可能性がある。そこでロシア政府に交渉して、民間に埋もれている情報を募るインターネットサイトを、期間限定で開設させてはどうか。その開設費用や情報提供者への高額でない謝金等についても、日本政府の予算あるいは平和祈念事業特別基金から支出することを検討してはどうか。

  右質問する。