質問主意書

第170回国会(臨時会)

質問主意書


質問第九四号

サンルダム建設に係る各種専門家に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十年十一月二十日

紙 智子   


       参議院議長 江田 五月 殿



   サンルダム建設に係る各種専門家に関する質問主意書

 サンルダムの必要性について北海道開発局(以下「開発局」という。)は、天塩川流域委員会(以下「流域委員会」という。)設置当時から、治水、利水のいずれについても、また自然環境への否定的影響についても、ダム建設に疑問をなげかける住民や漁業者に対し十分な説明責任を果たしてこなかった。
 心ある住民・漁民、自然保護団体は北海道で唯一サクラマスが自然産卵するこの川こそが子孫に引き継ぐべき北海道全体の財産であり、漁業、自然環境にとり返しのつかない大打撃を与えるダム事業を中止させるため運動を続けている。その結果、開発局は流域委員会終息後、天塩川魚類生息環境保全に関する専門家会議(以下「専門家会議」という。)を設置し、ダム建設が魚類に与える影響について調査を継続するとしている。
 こうした流域委員会や各種会議の場で決定的な役割を果たすのが学識経験者や専門家といわれる人々だが、現実には開発局が、開発局からの受注実績のある企業等に所属する者、開発局から多額の研究費を受けている者を選任し、そうした情報は伏せたまま、専門性や公正さをいいつつ、ダム建設容認の方向に議論を進めている実態がある。
 その詳細を明らかにするとともに政府の認識について、以下、質問する。

一 専門家会議について

 専門家会議は二〇〇七年十一月十四日の設立準備会を経て、開発局(旭川開発建設部及び留萌開発建設部)が設置したものである。
1 委員名、委員の肩書き、及び委員会での役職を示されたい。
2 専門家会議の設置目的を示されたい。
3 設置目的に照らし、各委員に委嘱した理由を委員ごとに説明されたい。
4 委員の中で国土交通省及び他の開発局の審議会、委員会、専門家会議等の委員を兼任している委員名を示されたい。またその各委員ごとに兼任する審議会等の名称を示されたい(過去十年分の歴任した実績)。
5 委員の中で開発局からの受注実績のある企業、公益法人等に所属する委員名を示されたい。またその各委員ごとに、所属する企業等の名称、所属企業等における役職、常勤・非常勤の別、及び所属企業等の開発局からの受注実績(件数と総額、うち随意契約の件数、過去十年間の実績年度別)を示されたい。
6 委員の中で開発局からの委託調査研究、共同研究に携わった委員名を示されたい。またその各委員ごとに、研究件数、研究費総額、過去十年間の実績年度を示されたい。
7 委員の中で国土交通省所管の公益法人の役員を兼任している委員名を示されたい。またその各委員ごとに法人名及び法人における役職名、常勤・非常勤の別を示されたい。
8 委員の中で、国土交通省所管の公益法人から研究費、研究奨励費などを授与された委員名を示されたい。またその各委員ごとに授与された研究費の件数、総額、過去十年間の実績年度を示されたい。

二 専門家会議と開発局の説明責任について

1 北海道の自然保護団体が連名で昨年十一月十二日及び十二月三日の二度にわたり、専門家会議設置に関する要望書を提出している。
 同要望書では、「北海道開発局が選任する学識経験者は、開発局側に立つものを選定しているのではないかと疑念をもっています」とした上で、「緑資源機構の談合問題では当局と調査会社の談合が摘発されました。サンルダムに係わるサクラマス関連の調査を行う会社や対策を講じる会社と関係すべきでないことは明らかです」と指摘している。そして、委員八名中三名が元職の肩書きとなっている点について、「無職であれば、元を使用するのは問題ないのですが、現在職についている場合には、誤りです。公費を用いた公開の会議ですので、肩書きに元を使用する時には厳正な対応をお願いします」ともとめた。しかし、そうした要望にもかかわらず元職記載の委員の現職名を明らかにしなかったのはなぜか。
 井上聰・元北海道大学農学部応用動物学教室・農学博士は開発局からの受注実績のある、(社)北海道栽培漁業振興公社(以下「公社」という。)の常勤の技術顧問であり、眞山紘・元独立行政法人さけ・ます資源管理センター調査研究課長は同じく公社の技術顧問だが、なぜそれを明らかにしなかったのか。
 開発局の対応は行政の説明責任を十分果たしているといえるか。
2 開発局は、自然保護団体からダム賛成派に偏った人選を批判されたことや、委員の半数が開発局の受注業者に所属する偏りについて、「人選に問題はなく、要望などにもできる限り対応している」と答えている(十月十二日付け毎日新聞北海道版)。「人選に問題なし」とした根拠を具体的に示されたい。
 妹尾優二・流域生態研究所所長は、開発局からの受注実績のある企業、㈱エコテック代表取締役でもあるが、なぜそれを明らかにしなかったのか。また流域生態研究所と㈱エコテックの関係はどういうものか承知しているか。
3 公社は北海道庁所管の公益法人だが、調査設計業務受注実績では開発局からの受注額が毎年度五十~六十パーセント以上を占め、約九億円の毎年度事業収入の四割を超える。
 開発局資料によると、サンルダム事業関連では二〇〇二年度からだけでも「魚類生息調査検討業務」等を毎年度受注しており、契約金額は二億円を超える。その他、二風谷ダム、美利河ダムの魚類調査などもっぱら開発局のダム事業で経営が成り立っている。
 公社の請け負った調査事業の技術面の指導及び助言を行った技術顧問自身が、専門家会議の委員としてモニタリング結果を評価、審議するのに適任だと判断した根拠を示されたい。
 ㈱エコテックも同様に、天塩川の上流魚道機能確認、魚道状況調査、水辺環境調査などを受注している。受注企業の代表取締役が委員として適任だと考える根拠を示されたい。
4 専門家会議は、サンルダム建設におけるサクラマスの遡上・降下対策及びモニタリングなどを審議するものだが、モニタリングなどの結果を評価するのが受注業者であれば当然のことながらダム事業に否定的な評価は下さない。専門家として適切な評価、審議を行うことは期待できない。よって人選及び審議をやり直すべきではないか。
5 私は二〇〇六年三月の農林水産委員会で、サンルダムについて関係者との十分な議論をもとめたが、それに対し国土交通省北海道局長は「関係者の方々といろいろお話合いを進めながら、この事業を進めてまいりたい」と答弁している。
 自然保護団体は、専門家会議との懇談・説明をもとめており、開発局として文書回答にとどめるのではなく意見交換会など適切に対応すべきではないか。

三 流域委員会について

 流域委員会は二〇〇三年五月から〇六年十二月まで天塩川水系河川整備について審議した委員会である。この委員会は合計十六名の委員のうち半数の八名が大学関係者(研究者)である。
1 国土交通省資料(二〇〇三~〇八年度)によると、開発局が大学に委託した調査研究、共同研究に携わった研究者は、流域委員会委員長であった清水康行・北海道大学教授、副委員長であった長澤徹明・北海道大学教授、黒木幹男・北海道大学助教授だが、それぞれに委託した調査研究名、研究目的、件数、総額、実施年度を示されたい(過去十年分)。
2 この三名の大学教授が国土交通省及び開発局の他の審議会等委員を兼任、歴任しているのであれば、各委員ごとに審議会等の名称を示されたい(過去十年分)。
3 国土交通省所管の公益法人が流域委員会の大学関係者委員に研究費等を授与している例があれば各委員ごとに公益法人名、金額、年度を示されたい。
4 開発局が大学と契約を交わして実施した調査研究・共同研究は二〇〇三年度から〇八年度まで合計二十件あるがそのうち三教授への委託はほぼ毎年行われ十二件に及ぶことから、開発局が特別の期待を寄せていることがわかる。
 北海道大学ホームページによると長澤教授は遅くとも一九九六年度から開発局の受託研究費百三十万円を受けて研究を行っているとの記述がある。これを含め三教授に関する前記1の研究成果はすでに公表されているのか。公表されているのであれば、各研究ごとにタイトル名、発表年月日を示されたい。
 またそれはデータベース化されるなどして、すべての人が研究成果にアクセスできるようになっているか。
5 国土交通省、開発局及び各整備局の共同研究、委託研究の件数と総額を示されたい(年度別に過去十年分)。またそれら共同研究、委託研究の成果はデータベース化され、すべての人がアクセスできるようになっているか。
 過去十年間に国土交通省が契約した委託研究・共同研究のうち研究が終了し、成果がデータベース化されすべての人がアクセスできるようになっている研究の件数と総額を示されたい。
 文部科学省科学研究費や厚生労働科学研究費による研究成果はデータベース化され、すべての人がアクセスできるようになっている。同じ国費による研究成果なのだから、国土交通省も他の省庁科研費と同様にすべて公開すべきではないか。
6 十月三十日付け東京新聞には、「御用学者・評論家が増えるワケ 審議会委員 任命権は役所 査定気になる 研究補助金 喉から手が出るほど…欲しい!」の記事中で、厚生労働省から研究補助金を受け取っていた東海大学医学部の大櫛陽一教授が補助金を受け取っていた間は「厚労省批判などは考えたこともなかった」と所感を述べている。
 開発局は流域委員会の委員長に開発局の元職員を選任した上に、委員長、副委員長に多額の研究委託を行ったのは、ダム建設推進を期待したものか。

四 委員選任基準及び委員の公的情報の透明化について

 開発局は、委員選任の透明性を高めるため、今後、各種審議会、委員会、専門家会議などを発足させる際は、準備会段階から委員(候補)に係るすべての現職、元職をふくむ履歴、専門領域を明確にすべきではないか。
 また研究者については、国土交通省、開発局及び公益法人等からの研究委託等の実績、履歴をすべて公開するとともに、開発局事業の受注企業等や国土交通省等からの天下り役員のいる企業・公益法人に所属する者は厳重に排除し、事業と利害関係のない専門家で構成すべきではないか。

  右質問する。