質問主意書

第170回国会(臨時会)

質問主意書


質問第七八号

電磁波による健康影響等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十年十月三十日

大河原 雅子   


       参議院議長 江田 五月 殿



   電磁波による健康影響等に関する質問主意書

 電気設備、電気通信設備、無線設備等から発射される電磁波による健康影響などについては、「電波防護指針」、「電波防護のための基準への適合確認の手引き」等として示されているが、多くの市民や市民団体から健康上の不安等の訴えがあり、その規制の強化等について検討を要するものと考える。
 また、電気設備、電気通信設備、無線設備等の整備等に際して、地域住民から健康上の不安等の訴えにより、事業者との訴訟事案や整備等を断念する事例なども見られる。
 このような状況を早急に回避することが必要であると考え、電磁波による健康影響等に関して次の項目について以下質問する。

一 文部科学省科学技術振興調整費が活用された研究である「生活環境中電磁界による小児の健康リスク評価に関する研究」(一九九九~二〇〇一年度)は、兜真徳国立環境研究所首席研究官(当時)らによって行われ、子供部屋の平均磁界レベルが〇・四マイクロテスラ以上だと小児白血病の発症率が二・六三倍に増加するという、他の疫学調査とほぼ同様の結果を示した(以下、当該研究報告を「兜報告」という)。その兜報告について、科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会研究評価部会(以下、「部会」という)は、事後評価書を作成、公表した。
 この兜報告等について、以下の点について明らかにされたい。

1 「科学技術振興調整費による研究評価は、二〇〇一~二〇〇五年度で計四七八件。オールC評価は、この(兜報告)一件だけだ」と新聞報道されたが、これは事実か。
 また、その後現在に至るまで、オールC評価は存在するか。
2 兜報告を評価した部会委員のうち電磁波及び疫学の研究者・専門家は、何人いたのか。また、その肩書き・氏名を明らかにされたい。
3 「告発・電磁波公害」(緑風出版、二〇〇七年)は、部会による兜報告の評価書作成の経緯について、その概略を以下の通り報告している。
(1) 二〇〇二年一一月一八日に行われた部会の健康・医療研究評価ワーキンググループによる兜氏のヒアリングにおいて、出席委員一〇名の内九名は、配布された資料を事前に読んでいなかった。
(2) 委員からは「なぜ小児ガンだけを調べるのか、携帯電話やパソコンの調査をしないのか」などの素人同然の質問が相次いだ。
(3) 委員ではない文部科学省の原徳寿がん研究調整官が発言し、兜氏と延々と議論を行った。この時に原調整官が追及し、委員からは指摘がなかった「セレクション(選択)バイアス」等について、評価書に盛り込まれた。
(4) 兜報告の担当評価委員でありながらヒアリングを欠席していた田中平三主査は「私はコメントしなかった」と言い、主査代理の委員も評価書作成に関わっていないと言った。
(5) 右記から考えれば、評価書は委員がまとめたのではなく、原調整官の意見をワーキンググループの意見として、文部科学省の事務局が勝手にまとめたことは確かだ。
 以上、七億二一〇〇万円もの国費を投じ、市民の健康にとって重要な研究にもかかわらず、(1)から(5)までの記述が事実であれば由々しき問題だが、それぞれの事実関係について示されたい。

二 電磁波による健康上の不安等を持つ市民が、自己の費用負担により自宅周辺の送電線等の改善による磁場低減措置を求めたことに対して、電力会社により拒否されたという事例があるが、政府はその事実を把握しているか。
 また、世界保健機関電磁波プロジェクト環境保健基準モノグラフ第二三八巻では「健康と電力がもたらす社会経済的利益の両者は容易に両立しがたい点があるとするなら、被曝を低減するためにはごくわずかなコストで済む予防的措置を講じることが合理的であり、正当なことである。」、「電気・電力機器や装置から漏洩する超低周波電磁界を低減するために工学的な改善を施すことは、たとえば安全性の向上といったようなさらなる利益が得られるのなら、あるいは改善のためのコストがほとんどあるいはまったくかからないのなら、考慮されるべきである。」などと勧告されていることから、先述の市民の主張は正当なものであると考えるが、政府の見解を示されたい。

三 経済産業省の「電力設備電磁界対策ワーキンググループ」報告書には、「磁界低減技術とコスト評価」としてその技術が示されている。この中に「既に、一七〇kV以上の超高圧送電線については、ほぼ全て(九二%)について逆相化が適用されており、また、残り八%についても、山中等人が多く集まる場所にはないことから、当該技術適用の余地は極めて限定的である。」とある。この逆相化された送電線の導入年及び実施済みの国内送電線の箇所について、具体的に示されたい。
 また、国内送電線について、一〇〇〇mGを超えている場所及び電場三kVを超えている場所を政府は把握しているか、把握している場合はその場所を示されたい。

四 経済産業省「電力設備電磁界対策ワーキンググループ」報告書において、リスクコミュニケーションの必要性について提起され、「中立的な常設の電磁界情報センター機能の構築」の必要性が示されている。現在その準備室が財団法人電気安全環境研究所に設置され、準備が進められていると聞くが、その準備に携わる構成団体及び者、目的、準備状況等について具体的に示されたい。
 また、リスクコミュニケーションの増進を図るためには、その組織の中立性などが重要であると考えるが、準備室への市民やNGO等の関与の必要性について、政府の見解を示されたい。

五 日本テレビ系列のニュース番組「NNN今日の出来事」の「特集 電磁波に包まれた街」や、日本消費者連盟刊行の「恐るべき電磁波汚染」というビデオ、その他の報道によると、大阪府門真市の住民三〇〇名余からなる町内会の自治会長が調査した結果、「町内で過去一三年間に死亡した人が一六〇人、うち八二人がガンで死んでいました。血液のガンといわれる白血病で死んだ人がそのうち高圧送電線群を中心に直径一〇〇メートルの範囲で一三人、一五〇メートルになると一八人。ガンで入退院している患者が一七人。死亡年齢は七歳から七二歳で、夫婦ともに白血病で亡くなっている家族もありました。被害は一五万四〇〇〇Vの高圧線と一四年前に地下に埋められたケーブルの周囲に集中しています。」(「週刊金曜日」一九九七年三月二一日号)といったことが判明している。本件について、以下の点について明らかにされたい。

1 本件について、政府は事実を確認しているか、示されたい。
2 本件に係る実態把握・健康調査及び疫学調査等を行うべきであると考えるが、政府の見解を示されたい。
3 本件以外の地域でも送電線近接地での居住等は多数見られる。政府は、全国の極低周波磁場の発射数値が高い地域の実態調査及び疫学調査、疾病の把握等を緊急にすべきであると考えるが、政府の見解を示されたい。
4 本件も含め、わが国には送電線近接地での居住等は多数見られる。これは送電線下や近隣には居住制限等を課している欧米諸国と比較すると、予防措置等の不備だと考えるが、政府の見解を示されたい。

六 二〇〇五年度厚生労働科学研究「微量化学物質によるシックハウス症候群の病態解明、診断、治療対策に関する研究」において、北里研究所病院臨床環境医学センターを受診した七人の症例を報告した「電磁波過敏症が初発症状として考えられた七症例」、海外の研究をまとめた「電磁波と生体:文献的考察…最近の研究を中心として…」が掲載されている。この研究報告について政府の見解及び今後の対応を示されたい。

七 前掲した「告発・電磁波公害」は「二〇〇〇年七月二六日、『東京新聞』に、『電磁波記事載せたらつぶすといわれた』『文部省圧力、抗議の廃刊』という見出しのトップ記事が掲載された。この雑誌は、文部省の文教施設部が監修する季刊誌『教育と施設』だ。電磁波の危険性を訴える記事が、文部省の圧力でいったん掲載を見送られたが、雑誌の編集長が『理不尽な検閲を認めるわけにはいかない』と、次号で記事を掲載し、一七年間続いた雑誌を廃刊したというものだ。(略)一九九九年暮れに編集した第六七冬号の『安全で健康的な学校』特集で、(略)文部省側が『社会を混乱させる』と問題視し、担当の中堅幹部が電話で数回にわたり、掲載を取りやめるように求めたという。上司の技術参事官と二人で編集部を訪れ、掲載中止を迫ったという。」と報告しているが、これは事実か。事実であれば掲載中止を迫った担当者と上司とはそれぞれ誰か。また、事実でなければ、どの部分が事実ではなく、実際はどうであったか具体的に示されたい。政府として承知していない場合は、調査を行うべきであると考えるが、政府の見解を示されたい。

八 厚生労働省では「厚生労働科学研究における利益相反の管理に関する指針」を作成し、「公的研究である厚生労働科学研究の公正性、信頼性を確保するためには、利害関係が想定される企業等との関わり(利益相反)について適正に対応する必要がある。本指針は、利益相反について、透明性が確保され、適正に管理されることを目的とする。」としている。これは全省庁共通した認識であるべき事項だと考えるが、政府の見解を示されたい。

  右質問する。