質問主意書

第170回国会(臨時会)

質問主意書


質問第七七号

日本政府によるアメリカなど先進国向け原発輸出の支援に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十年十月二十九日

近藤 正道   


       参議院議長 江田 五月 殿



   日本政府によるアメリカなど先進国向け原発輸出の支援に関する質問主意書

 日本政府は原子力産業の国際競争力の向上を政策に掲げ、海外原子力市場の開拓・拡大と、日本企業による原発輸出を推進している。しかし原発はコストが高くつくうえ、長期投資が必要となることから資金調達が難しく、また放射能汚染や事故、核拡散など、多くの深刻なリスクを抱えているため、これまでのところ日本企業による大規模な受注はなく、また世界的に見ても原発建設は計画段階に留まっている。そこで日本政府は、政府系金融機関や貿易保険制度に日本企業の原発輸出を後押しする制度を設け、さらに市場拡大に伴う原子力事故の可能性を想定し、事故に起因する損失をカバーする国際的な賠償条約の締結も検討している。これらには国が公的信用を付与し、直接的・間接的に国民の税金が投入される。原発のように特有かつ極めて大きなリスクを伴う事業に対し、しかも途上国だけでなく核兵器国を含む先進国向け輸出に対し、こうした公的支援を適用するというのは、歴史的に重大な決定である。これを国会の審議なしに決定したり、進行させたりすることは、国民と国会をないがしろにする行為である。特に日本企業による米国への原発輸出に公的信用と公的支援を付与することに関しては、同国が先進国であり核兵器国であることからも、国民的な議論が必要である。
 そこで原子力の海外輸出に対する公的信用の付与と公的支援について、以下質問する。

一 日本企業による原子力関連設備・機器、技術への輸出や投資に対し、現在までに国際協力銀行(JBIC)ないしその前身機関が先進国向けに融資した実績はあるか。ある場合、それらの内容(案件名、案件の承諾年月、案件内容、融資スキームの区分、事業実施国、借入人、承諾額、カテゴリ分類)を、すべてあげられたい。
 また、日本貿易保険(NEXI)ないしその前身である経済産業省業務部門が先進国向け原子力関連事業の取引を付保した実績はあるか。ある場合、JBICと同様にその内容をすべてあげられたい。

二 本年十月一日、JBIC等政府系金融機関が統合し、政府全額出資による日本政策金融公庫が発足した。同公庫の先進国向けファイナンスに関し、株式会社日本政策金融公庫法では、輸出金融については「マッチング金融」を除き先進国向け融資を廃止し、投資金融については重要な資源の開発及び取得の場合並びに政令で定めた場合を除き原則廃止するとしている。これを受ける形で、日本政府は八月二十六日、原発事業向け「投資金融」については可能とする政令を閣議決定した。

1 現在、その対象として名前があがっているのは米国である。本年六月に発表された日米原子力共同声明では、NEXIやJBICの活用、米国エネルギー省が債務保証するプロジェクトの支援等の政策協調を進めることが明記されている。しかし電力市場が自由化されている米国では、過去三十年間にわたり新規建設の発注がなかったこと、原子力が抱えるリスクが特有かつ大きいことから、国内の金融機関からの融資が、国の債務保証制度があってもなお集まりにくく、また国民のあいだにも新規設置に補助金が投入されることに対し強い反対がある。この傾向は昨今の金融危機でさらに強まっている。日本政府は前記を閣議決定する際、既に融資対象として名前があがっていた米国における金融破たん、自然災害、戦争、テロ、送金制限などに起因する投資資金回収不能のリスクを検討したのか。
2 検討した場合、そのリスクは小さいと考えるのか、大きいと考えるのか。また、自然災害には地震も含まれるのか。
3 フランス原子力産業界も米国への輸出を狙っている。フランス企業と日本企業が輸出案件をめぐって競合している場合、フランス政府が同国企業に融資するなら、日本政府も日本企業に対し同様の融資(「マッチング金融」)を行う、との理解でよいか。
4 先進国向け融資は原則廃止されたが、原子力輸出は例外とする制度がスタートし、その最初のケースが米国向けとなると見込まれる、との理解でよいか。

三 経済産業省は本年七月、NEXIに「地球環境保険」制度を創設し、二〇〇九年一月を目途に運用を開始する、と発表した。「我が国とともに地球温暖化対策に真剣に取り組んでいく開発途上国を支援していく」とし、「その一環として、我が国の省エネ・新エネ技術の移転等により温室効果ガスの排出低減に貢献する」としている。ところが付保の対象は「開発途上国に限定せず全世界」とし、保険の適用対象として原発のプラントや機器もあげている。

1 途上国への省エネ・新エネ技術移転等により温室効果ガスの排出低減に貢献することを掲げて創設された「地球環境保険」制度が、先進国向け原子力関連設備・機器の輸出を適用対象とする理由をあげられたい。
2 産業構造審議会の貿易保険小委員会の中間取りまとめ「今後の貿易保険制度の在り方について」(二〇〇八年七月二十二日)によると、「原子力関連事業など、海外展開にあたって極めて高いリスクを有する事業の実施については、我が国においても国がリスクカバーを行うことが求められている」としている。他の国々でも同様の保険制度が原子力関連事業の海外展開に伴うリスクをカバーしているのか。その場合、具体的にそれらの国名とその保険制度をあげられたい。
3 近年、原子炉一基の価格は六十億ドルとも七十億ドルともいわれる。「地球環境保険」では、戦争や自然災害、相手国による送金規制といった契約当事者の責に帰しえない「カントリーリスク(非常危険)を一〇〇%付保するオプションを設け」るとしているが、原子力事業にもこうした保証を行うのか。
4 事由が「契約当事者の責に帰しえない」と判断するのは日本貿易保険か、経済産業省貿易保険課か、あるいはどこか。また、原子力事業を含め、一般に、そうした判断の基準はあるのか。ある場合、具体的に提示されたい。
5 従来、保険料は対象のリスクに応じて設定されていたと理解する。「地球環境保険」における保険料は、どのような設定になるのか。原発のように「極めて高いリスク」の場合、保険料も割高になる、との理解でよいか。
6 前記中間とりまとめは、原発事業を「極めて高いリスク」としている。一定の事由により契約当事者に巨額の損失が生じ、「地球環境保険」ではカバーしきれない場合、再保険や国(すなわち国民の税金)からの借入金でカバーすることになる、との理解でよいのか。
7 京都議定書のもとで「クリーン開発メカニズム」(CDM)に原子力が対象として組み入れられた場合、CDMを利用した途上国への原子力輸出も貿易保険の対象となるのか。

四 経済産業省によると、「今後、国内での原子力発電所建設の低迷が見込まれる中で、世界最大の開かれた原子力市場である米国で新規建設が進めば、我が国の原子力産業にとって有望な市場となりうる」としている。原子力産業は核兵器国と日本、ドイツ、カナダなどの工業国の原子力産業が中心であり、その衰退により企業の統合・合併が進んでいる。日本をはじめ大規模な原子力産業を抱える国々では、国内における建設が頭打ちとなっている。トルコでは同国初の原発設置をめぐる入札に一社しか応募せず、建設計画が棚上げになった。フランスのアレヴァ(AREVA)グループがフィンランドに建設中のオルキルオト原発三号機は、当初計画より二年半以上もの遅れが生じ、建設コストは五〇パーセントも膨れ上がっている。近年、「原子力ルネサンス」といわれているが、このように依然としてかけ声のままであり、計画は順調に進んでいるわけではない。

1 国が公的信用を付与してまで海外の原子力市場を開拓・拡大する必要があると判断した理由を具体的にあげられたい。
2 その理由のひとつとして地球温暖化対策があると聞いている。危険な気候変動を回避するには二〇一五年頃までに、実際に温室効果ガスの排出を削減へと向かわせるような実効力のある措置と技術の導入が求められている。原発の設置には、その計画から建設、送電までに時間がかかる。原発一基が新規建設され、送電が開始されるまでに、たとえば米国では何年、タイやベトナムのような途上国においては何年かかると日本政府は見込んでいるのか、数字を示されたい。
3 現在、世界では約四百三十基の原発が稼動中である。この六月に国際エネルギー機関(IEA)が策定したエネルギーシナリオによると、たとえ二〇五〇年までに毎年三十二ギガワット(百万キロワット級原発三十二基、あるいは毎月二・六基)を建設し、原発基数を倍加させたとしても、それによって見込まれるエネルギー部門の二酸化炭素排出削減効果は六パーセントという。原発は原子炉だけでなく、核燃料工場や放射性廃棄物管理・処分施設、そして場合によっては送電線も建設しなければならず、さらに事故や核拡散、核テロといったリスクへの措置など、そのコストは測りしれない。原子力事業ではなく、自然エネルギーやエネルギー効率などのエネルギー技術を輸出するほうが、コスト面においても安全面においても、また二酸化炭素の削減においても、はるかに合理的で効果的と考えるが、いかがか。

五 原子力設備・機器、技術を海外に輸出するにあたっては、3S(核不拡散/保証措置、原子力安全、核セキュリティ)を担保しなければならない。外務省によると、これらを担保するにあたっては、明文化されたクライテリアのようなものはなく、今後も設けないだろう、とのことである。

1 その国のエネルギー政策は主権国が判断し決定することであるが、日本の企業が原子力関連の設備・機器、技術を輸出するにあたっては、日本政府による輸出許可が必要となり、これは日本政府が判断し決定することである。相手国の主権の尊重は当然としても、輸出国が条件をつけられないとはなりえない。外務省によると、こうした条件をつけるのは外交上、差し障りがあるとのことであったが、明文化されたクライテリアのようなものがなければ、国によって対応を変えることもありえ、公平とはいえないと考えるが、いかがか。
2 相手国に原子力設備・機器、技術等を輸出するにあたっては、原子力の平和利用に関する二国間協定が締結されていることが大前提である、との理解でよいか。
3 二国間協定が締結されていない日露間で、実質的にウラン濃縮等の取引が行われている。この実例からも、原子力輸出にあたって3Sを担保するためのクライテリアが明文化されていないと、ビジネスが先行する危険があると考えるが、いかがか。
4 核兵器国へ原子力設備・機器、技術等、とくに機微技術を輸出するにあたっては、当該輸出技術に対する国際原子力機関(IAEA)による全面的な査察を条件とすべきであり、二国間協定にその条項が盛り込まれるべきだと考えるが、どうか。また、たとえば米国は包括的核実験禁止条約(CTBT)を批准していない。相手国が核兵器国・非核兵器国にかかわらず、二国間協定に加えCTBT、核拡散防止条約(NPT)、IAEA追加議定書など、核拡散を防ぐ上で最低限必要と考えられる条約を締結していることを輸出許可の条件とし、それを明文化することが必須と考えるが、いかがか。

六 文部科学省の原子力損害賠償制度の在り方に関する検討会の議事録と、同会で配布された資料によると、米国が本年五月に「原子力損害の補完的補償に関する条約」(CSC)を批准したこと、発効要件の締約国が五カ国であることなどから、日本にも締結するよう求め、同省も原子力損害の賠償に関する国際条約のなかではCSCが現実的としている。CSCは巨大な天災地変は免責するが、国際間での核物質等の輸送における事故を含む、原子力事故による損失をカバーするとしている。

1 CSCなど、新たに締結が検討されている国際的な原子力損害賠償に関する条約に資金を拠出する、あるいは分担するのは、国と電気事業者か。現在、検討されている拠出者・分担者をすべてあげられたい。
2 保険制度と損害賠償制度の契約当事者は、自然災害等によって生じた損失は日本貿易保険で、原子力事故によって生じた損害に対する賠償は、締結が検討されている国際的な原子力損害賠償に関する条約によってカバーされる、との理解でよいか。
3 こうした国際的な原子力損害賠償に関する条約の締結が検討されているのは、原子力を新規導入したり拡大したりすることに伴い事故リスクが高くなることから被害者保護が重要になってくるため、そして事故リスクが想定されるがゆえに、こうした条約を締結することで「プラント輸出を行う電機メーカー、燃料等の国際輸送を行う電気事業者等にとっては、複数国における賠償を求める裁判の提起が回避されること、国際的な事業者間で賠償責任を負う範囲が明確化されること、といった事業遂行上の法的なリスク」(前記の配布資料より)を抑えられるようにするため、との理解でよいか。
4 前述をまとめると、資金調達が難しい国への原子力輸出に対する融資、投資回収リスクに対する貿易保険、そして原子力事故に対する損害賠償制度は、どれも原発事業とその輸出がいかにリスクが大きいかを端的に示すものである。日本政府が民間事業者による原子力輸出を、これらの制度を導入するなどして後押しするのは、リスクが大きくとも、海外輸出をしなければ国内原子力産業がその技術とビジネスを維持できないため、との理解でよいか。

七 JBIC/NEXIが実施する公的融資・貿易保険の付保に係る審査では、支援対象プロジェクトによる環境への影響が大きいと考えられる場合、現地踏査や関係者ヒアリングを踏まえ、住民協議や情報公開の状況も含めた総合的な確認を行っており、確認結果はJBIC/NEXIのホームページ上で公開されている。一方、原子力関連プロジェクトの安全性確保、事故時の対応、放射性廃棄物の管理等に関しては、JBIC/NEXIは審査対象に含めておらず、JBIC/NEXIの依頼を受け経済産業省が確認することとなっている。

1 原子力関連プロジェクトについて、当該プロジェクトの安全性確保、事故時の対応、放射性廃棄物の管理等に関する文書が作成される場合、環境アセスメント報告書とは別に作成されると理解しているが、その理解でよいか。
2 プロジェクトの安全性確保、事故時の対応、放射性廃棄物の管理等については、現地の市民の立場からすれば非常に重大な事項である。しかしながら、現在、JBIC/NEXIは、プロジェクト実施主体に対して公開を要求または義務付けていない。これらの情報について、日本が支援する原子力関連プロジェクトの場合には、実施国における公開が非常に重要であるため、これらの情報公開を義務付けるべきであると考えるがいかがか。これが困難な場合は、その理由も示されたい。
3 原子力関連プロジェクトの安全性確保、事故時の対応、放射性廃棄物の管理に関して、JBIC/NEXIの依頼に基づく経済産業省による確認結果の文書は、JBIC/NEXIに属するという理解でよいか。
4 3の理解が正しければ、JBIC/NEXIが当該文書を現在公開していない理由を示されたい。
5 原子力関連プロジェクトの輸出への支援については、原子力プロジェクトが抱える固有の問題を鑑みれば、慎重に審査すべきであり、また、その審査結果についても、日本国民への説明責任を果たすべく公開されるべきと考えるが、いかがか。具体的には、経済産業省からJBIC/NEXIに宛てた審査依頼の回答と共に、「原子力発電関連資機材等の輸出に係る安全確認に関する調査票」が公開されるべきであると考える。公開が難しい場合には、その理由も示されたい。
6 経済産業省が、JBIC/NEXIの依頼を受け確認作業をする際の、安全性確保、事故時の対応、放射性廃棄物の管理等に関する文書については、経済産業省が直接借入人より受け取った文書であると理解している。JBIC/NEXIが借入人より受け取っている他の環境社会配慮文書は公開しているにもかかわらず、確認を依頼しているJBIC/NEXIあるいは経済産業省が当該文書を公開していない理由を示されたい。
7 現在、JBIC/NEXIは、案件審査を行う際、環境社会影響が大きいプロジェクトについては現地実査を実施し、また、現地における住民協議や情報公開の状況については確認を行っている。しかしながら、原子力関連プロジェクトの安全性確保、事故時の対応、放射性廃棄物の管理について経済産業省が審査する場合には、机上での確認に留まっていると理解している。経済産業省がこれらを審査する場合にも、JBIC/NEXIが審査するのと同様に現地実査を行い、またこれらに関する住民協議や情報公開の確認も実施すべきであると考えるがいかがか。実施すべきでないとする場合には、その理由と共に、回答されたい。

  右質問する。