質問主意書

第170回国会(臨時会)

質問主意書


質問第七〇号

仙台市地下鉄東西線の建設への補助金支出に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十年十月二十三日

川田 龍平   


       参議院議長 江田 五月 殿



   仙台市地下鉄東西線の建設への補助金支出に関する質問主意書

 私は、平成十九年十二月、今年四月と過去二回にわたり仙台市地下鉄東西線の建設への補助金支出に関する「質問主意書」を提出し、それぞれ「答弁書」を受領した。その回答を検討すると、この事業計画には、事業採択時に行われる事前評価に多くの問題があったことが明らかになる。そして、国の答弁自体が、それを更に隠蔽しようとするものになっている。その事業評価を巡る諸問題、および第二の答弁書で示唆されている、今後あり得る「再評価」に関して、以下質問する。

一 第四回パーソントリップ調査により構築されたモデルについて

 最初の「質問主意書」では、そもそも、最新にしてより精度も高く信頼性も高いモデルがあるにも拘わらずそれを用いて計算していないことを国として容認するかが問われていた。これに対して最初の答弁書は、第四回パーソントリップ調査の数値解は現実的な前提ではない、としてモデルそのものまで否定していたが、第二の答弁書では、モデルと前提とは別物と認識している、とはっきり述べている。これは、よりすぐれた計算方法があることを知りながら、それを用いないことを容認している、と認めたことになる。その結果、地下鉄東西線は、当初の需要予測を大幅に割り込む可能性が高くなっている。これは国の不作為ではないか。国土交通省の考えを明らかにされたい。

二 仙台市の費用便益比の計算方法に関する国土交通省の認識について

 第二の答弁書の「四について」の回答は、仙台市の費用便益比の計算方法が、「鉄道プロジェクトの費用対効果分析マニュアル99」(以下「マニュアル99」という。)には基づいていないことを認めるものとみなされるが、そのように理解してよいか。そうではないとするなら、いかなるものとみなしているか明らかにされたい。

三 「東西線建設事業」における費用便益比の計算方法に関する仙台市の記述について

 仙台市は、「東西線事業許可申請関係書作成業務報告書」において、自ら「『鉄道プロジェクトの費用対効果分析マニュアル99』に基づき」と明記しながら、異なる算定法を用いている。国土交通省内に設置された「公共事業評価システム研究会」が平成十四年八月に出した報告「公共事業評価の基本的考え方」(以下「基本的考え方」という。)には、「評価に用いた手法を公表し、評価結果が得られる過程を明示するとともに、第三者による評価内容のチェックや行政とのコミュニケーションが可能となるよう、評価に用いた資料・データを公開する」(三頁)とあるが、仙台市の立場及びそれを容認する第二の答弁書の立場は、明らかにこれに反している。反しないと考えるのであれば、その理由を明らかにされたい。

四 「マニュアル」の位置づけについて

 「マニュアル99」の総論では、「本マニュアルにおいては、国費が導入される事業を中心に、鉄道整備事業の費用対効果分析を行う上での基本的手続きおよび留意事項等を整理する」(二頁)とある。したがって「マニュアル」とは、第二の答弁書で言われているような、従っても従わなくてもいい単なる事例ではなく、事業評価の際に必ず守られるべき事項を説明したものではないのか。そうではないとするなら、「マニュアル99」における前記の定義と第二の答弁書の回答との乖離について、納得のいく説明をされたい。

五 独自の費用便益分析法の判断基準について

 費用便益分析の際に各事業主体が独自の方法を用いることが可能だとするなら、それを「合理的」と判断する基準は何か、明らかにされたい。また、前記三で引用した「基本的考え方」は、「すべての公共事業評価において尊重すべき事項を示す」(一頁)ものと明記されている。それゆえ、前記三における「基本的考え方」の「公開」の主旨に従うならば、各事業主体が独自に用いる方法を「合理的」と判断する根拠についても、文書化されていなければならない。そのような文書が存在するのであれば、明らかにされたい。もし文書化されていないのであれば、その理由を明らかにされたい。

六 「マニュアル」によらずして事前評価を行い、採択された事業の有無について

 第二の答弁書の回答「四について」では、「『独自の算定法』が意味するところが必ずしも明らかではなく」と述べられているが、この答弁自体が、「マニュアル99」とは異なる算定法により費用便益分析を行って採択された事業が、仙台市以外にも存在することを示唆している。ちなみに「マニュアル99」は、現在は「鉄道プロジェクトの評価手法マニュアル2005(以下「マニュアル2005」という。)に改訂されている。あらためて問うが、「マニュアル99」制定時から現在に至るまで採択された国土交通省所管公共事業のうち、鉄道建設事業について、「直轄事業」「公団等施工事業」「補助事業」を含めてその総数をまず明らかにし、事前評価の際にその時々の「マニュアル」にしたがって費用便益分析を行い、採択されたものと、「マニュアル」によらずして独自の方法で費用便益分析を行い、採択されたものとに分けて、その事業名を明らかにされたい。

七 「技術指針」における賃金率算定法について

 そもそも費用便益比の算定に関しては、国土交通省が平成十六年二月に出した「公共事業評価の費用便益分析に関する技術指針」(以下「技術指針」という。)において、「なお、『国民経済計算年報』に基づく国民所得は、労働者の賃金以外の所得(財産所得、企業の営業余剰等)も含まれるため、賃金率算定のデータとしては適切ではない」(十五頁)と述べられており、「財産所得」等を賃金率算定のデータに含めることを禁じている。これは、仙台市が行っているような賃金率算定法が「合理的」なものではないことを示すものである。そうではないと考えるのであれば、その理由を明らかにされたい。

八 「技術指針」に関する財務省の認識について

 第二の答弁書によれば、財務省は、東西線事業の費用便益比が、実質賃金率を用いた場合には、一・六二ではなく一・一〇となることを承知しているとの事だが、前記の「技術指針」の内容については把握しているか。また、国土交通省自体が出している文書に明記されている判断に照らして「不適切」とみなされる算定法に基づき申請された事業に補助金を支出することを妥当と考えるか。考えるなら、その理由を明らかにされたい。

九 建設ルート上に営巣するオオタカの問題について

 地下鉄東西線の建設ルートにある青葉山には、環境省のレッドデータブックでは準絶滅危惧種(NT)、宮城県のカテゴリーでは絶滅危惧Ⅱ類(VU)に分類されるオオタカが生息している。この問題について仙台市に質問状を提出した市民団体に対して、仙台市は、「専門家に助言を頂きながら人口巣を設置するなどの保全措置を実施してきたところ」と答えているが、新聞報道によれば(平成二十年四月二十九日付け河北新報)、今年もまた、仙台市が設置した人口巣ではなく、依然として建設予定地の近くにオオタカが営巣していることが確認されている。このような状況にありながら、仙台市は、市民団体の再質問に対して、オオタカ営巣地付近の工事について、「遅らせる考えはない」と明言している。環境省は、百万都市近郊にありながらオオタカが暮らせるほど豊かなこの自然環境を破壊して進められる地下鉄建設工事に対して補助金が支出されることに、異論はないか。また、このような事態に対して、国として何らかの保全措置(希少野生動植物種保存基本方針にある「生息地等保護区」の指定など)をとる考えはないか。

十 「オオタカ」問題に関する国土交通省の対応について

 「マニュアル2005」では、鉄道整備によって影響を受ける環境の問題のうち、「動植物への影響」等については、「現段階ではそれらを貨幣換算することが技術的に困難であることから、本マニュアルでは取り扱わない」とされてはいるが(三十五頁)、「解説」部分では、「自然環境の保全」の項目のうちに、「動植物の希少種、生態系の保全に配慮しているか」という小項目を置き、公共事業の可否を判断する際に評価すべき項目としている(百四十二頁)。最初の答弁書の「四及び五について」の答弁にあるように、公共事業の可否は、「貨幣換算することが困難な効果等についての評価も含め総合的」に行わねばならない。ひるがえって仙台市は、オオタカが営巣する地区の東西線建設工事の開始を、平成二十一年と予定している。国土交通省は、この問題について何らかの対応をとる考えはあるか。ないのであれば、その理由を明らかにされたい。

十一 地下鉄東西線建設事業の「再評価」の方法について

 第二の答弁書によれば、地下鉄東西線建設事業は、平成二十四年度末の段階で事業が継続する場合、再評価の対象となる。すでに述べたように「マニュアル99」は改訂され、現在は「マニュアル2005」となっているが、「再評価」は、これに基づいて行われるのか、明らかにされたい。

十二 「再評価」における費用便益分析について

 「マニュアル99」の改訂の際に出された「事業評価手法の策定-マニュアル99の改訂-」では、「技術指針」に関して、「各事業分野において共通的に考慮すべき事項について定めた」(三十頁)とある。また「マニュアル2005」自体においても、同様の指摘がなされている(一頁)。
 「マニュアル2005」では、「再評価における費用便益分析」として、「残事業の投資効率性」とならんで「事業全体の投資効率性」が検討されるべきものとされている(十一頁)。また「技術指針」には、「時間価値については、最新のデータを用いて数値の更新を行う」ともある(十二頁)。「マニュアル2005」に従って再評価が行われるとするなら、仙台市の賃金率算定法の是非自体から検討されなければならず、事業申請時には利用されなかった第四回パーソントリップ調査により構築されたモデルも用いる必要があるのではないか。そのように考えるか、考えないとするなら、その根拠を明らかにされたい。

十三 社会経済情勢の把握と記述方法について

 需要予測に関わる「社会経済情勢の変化」について、二回目の「質問主意書」で問いただしたが、第二の答弁書では、「一概に指標を用いて数量的にお答えすることは困難」と述べられている。「マニュアル2005」には、「再評価」の際には、「事業を巡る社会経済情勢等の変化」について記述することとされている(十一頁)。また、再評価の総括表の整理例として、「事業を巡る社会経済情勢等の変化」の項目に、「地元の人口や経済の情勢の変化等、・・・を記述」とあり(六七頁)、変化しうる基礎要因の例は、「社会全体」「関連する事業等」「事業固有」の三種に分けて、具体的に示されている(九十頁)。これを見ると、需要予測に関わる諸要因は、かなりの程度数値化が可能なものである。「指標を用いて数量的に」ではないとするなら、どのように「社会経済情勢の変化」を把握すべきなのか、明らかにされたい。

  右質問する。