質問主意書

第170回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一九号

無料低額診療事業の拡充に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十年九月二十九日

小池 晃   


       参議院議長 江田 五月 殿



   無料低額診療事業の拡充に関する質問主意書

 無料低額診療事業(社会福祉法第二条第三項第九号に規定する事業。以下同じ)は、経済的な理由によって必要な医療を受ける機会を制限されることがないよう、医療機関が無料又は低額な料金によって診療をおこなう事業であり、医療費自己負担分を支払うことが困難な低所得者、生活保護受給者、ホームレス、DV被害者、人身取引の被害者など生活困難者の医療を受ける権利を守るために大きな役割を果たしている。実際、政府も「ホームレスの自立の支援等に関する基本指針」(ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法に基づき厚生労働大臣が作成)の中でホームレスの医療の確保を図るため、無料低額診療事業の積極的活用をうたい、「人身取引対策行動計画」(二〇〇四年十二月。人身取引対策に関する関係省庁連絡会議決定)においても、無料低額診療事業を人身取引被害者の保護対策の中に位置づけている。
 しかし、一九八七年以来政府は、「社会情勢等の変化に伴い、必要性が薄らいでいる」として、無料低額診療事業の新規事業開始の抑制方針をとり、ホームレスなど生活困難者の医療確保のため無料低額診療事業の積極的な活用を方針に掲げている一方で、抑制方針については改めようとしていない。不況の長期化、格差拡大によって生活困難者は増加しており、無料低額診療事業の意義はいっそう大きくなっている。無料低額診療事業の抑制方針を転換し、国民の医療を受ける権利保障の事業として拡大を図るべきである。
 そこで、以下のとおり質問する。

一 無料低額診療事業は憲法第二十五条の具体化として生活困難者の医療を受ける権利保障のため重要な役割を果たしていると考えているが、無料低額診療事業の現状に対する評価とその意義について政府の見解を明らかにされたい。

二 新規の無料低額診療事業の抑制方針を都道府県などに通知した社会・援護局長通知(二〇〇一年七月二十三日付、社援発第一二七六号。以下「二〇〇一年通知」という。)では、「抑制を図る」という文言を用いており、社会福祉法第六十九条の届出(以下「法六十九条の届出」という。)についてもこれに「準じて、取り扱われたいこと」とされているが、この解釈について明らかにされたい。これは、どのような状況であっても法六十九条の届出を受理してはならないということなのか、それとも都道府県などが地域の状況などを考慮して当該届出にかかる無料低額診療事業を必要と考えたならば受理してもよいということなのか。

三 無料低額診療事業など第二種社会福祉事業開始に際しての法六十九条の届出の受理は自治事務とされている。ところが、無料低額診療事業の法六十九条の届出受理の抑制を求めた二〇〇一年通知は前文の中で当該通知の性格として、「都道府県並びに指定都市及び中核市が法定受託義務を処理するに当たりよるべき基準」と記されている。このため、自治体にとって無料低額診療事業に関する法六十九条の届出受理の事務については、国が定める基準に従う義務がある法定受託義務なのか、自治体の裁量によって処理することができる自治事務なのか混乱が生じかねないと考える。無料低額診療事業に関する法六十九条の届出受理の事務は自治事務であり、二〇〇一年通知を技術的助言として考慮に入れるとしても、最終的には自治体独自の判断で処理できる自治事務と考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

四 「医療機関の未収金問題に関する検討会報告書」(二〇〇八年七月十日)においては、無料低額診療事業を生活困窮者に対する取り組みとして位置づけ「外国人、ホームレスへの対応など現代的な意義付けも含め、事業のあり方について今後十分な検討を行うべき」とされているが、速やかに検討を開始し結論を出すべきではないか。検討や結論を出す時期を含めて政府の見解を明らかにされたい。

五 無料低額診療事業の抑制方針が出された一九八七年とは社会情勢が大きく変わっている。失業者の増大、ホームレス、DV被害者の増加、国保料未納者に対する短期被保険者証・資格証明書の発行数の増加などから見受けられるように、生活困難者が必要な医療を受けることが困難となってきている。生活困難者の医療を受ける権利保障にとって重要な役割を果たしている無料低額診療事業の抑制はただちに改めるべきである。抑制方針について再検討をすべきだと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

  右質問する。