質問主意書

第169回国会(常会)

答弁書


答弁書第一二五号

内閣参質一六九第一二五号
  平成二十年五月二十三日
内閣総理大臣 福田 康夫   


       参議院議長 江田 五月 殿

参議院議員谷岡郁子君提出民法第七六六条及び第八一九条、ならびに、非親権者と子の面接交流に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員谷岡郁子君提出民法第七六六条及び第八一九条、ならびに、非親権者と子の面接交流に関する質問に対する答弁書

一について

 民法(明治二十九年法律第八十九号)第八百十九条は、父母が離婚した場合について、父母のいずれかをその子の親権者とするいわゆる単独親権制度を採用している。御指摘のような問題については、離婚後に父母の双方が子の親権者になるいわゆる共同親権制度を採用した場合であっても、例えば、離婚時における子の現実の監護者の選定や離婚後の面接交渉をめぐる父母間の争いなどが生じ得ると考えられる。したがって、法務省としては、御指摘のような問題は、いわゆる単独親権制度を採用することによって生じる問題であるとは必ずしも考えていない。

二について

 親権者の指定については、裁判所が、子の福祉の観点から、事案に応じて適切に行っているものと承知している。

三について

 父母が離婚した後の親と子との面接交渉については、民法第七百六十六条第一項に規定する子の監護に必要な事項として、裁判所が定めることができると解されており、面接交渉をめぐる争いがある場合の具体的な面接交渉の在り方については、裁判所が事案に応じて適切に定めているものと承知している。
 御指摘の「継続的サポートの提供」については、我が国における必要性、実効性、実現可能性、社会的意義等を踏まえ、慎重に検討する必要があると考えている。

四について

 三についてで述べたとおり、父母が離婚した後の親と子との面接交渉については、民法第七百六十六条第一項に規定する子の監護に必要な事項として、裁判所が定めることができると解されており、実際にもそのような運用がされているところであって、法務省としては、民法に不備があるとは認識していない。

五について

 我が国が締結している児童の権利に関する条約(平成六年条約第二号)第九条3は、「締約国は、児童の最善の利益に反する場合を除くほか、父母の一方又は双方から分離されている児童が定期的に父母のいずれとも人的な関係及び直接の接触を維持する権利を尊重する。」と規定する。
 三についてで述べたとおり、父母が離婚した後の親と子との面接交渉については、民法第七百六十六条第一項に規定する子の監護に必要な事項として、裁判所が定めることができると解されており、制度上親と子との面接交渉の機会は保障されているから、同条約に反するものではない。したがって、法務省としては、御指摘の法制度の整備については、これを行う必要性は乏しいものと考えている。

六について

 我が国の親の離婚に関する人事訴訟、家事審判、家事調停の各手続においては、制度上、十五歳未満の子も、意見や希望を述べることを制限されておらず、また、家庭裁判所は、個別の事案に応じて、必要と認められる場合には、子の意見を適切に考慮しているものと承知しており、児童の権利に関する条約の趣旨を逸脱した状況にあるものとは考えていない。
 御指摘のような「代理人」による意見聴取や「第三者の介入・援助」の制度を導入することについては、このような我が国の現状を前提としつつ、我が国における必要性、実効性、実現可能性、社会的意義等を踏まえ、慎重に検討する必要があると考えている。

七について

 最高裁判所が公表している司法統計中、家事審判事件に関する統計には、乙類審判事件である子の監護者の指定その他の処分事件のうち、面接交渉に関する審判の申立てがあるものの件数を示す統計があるものと承知している。また、そのような事件のうち、申立てを認容したものの件数と申立てを却下したものの件数を示す統計があるものと承知している。
 他方、取下げにより終局した事件のうち、当事者に面接交渉の合意が事実上成立したものや、解決が困難なため取下げとなり事実上あきらめざるを得なくなったものの件数を示す司法統計はないものと承知している。家事審判は、裁判所において行われるものであることから、法務省としてこのような統計をとることは考えていない。

八について

 法制審議会が平成八年二月に答申した「民法の一部を改正する法律案要綱」は、「父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及び交流、子の監護に要する費用の分担その他の監護について必要な事項は、その協議でこれを定めるものとする。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならないものとする。」との提言をしている。このうち、前段で「父又は母と子との面会及び交流」を子の監護に関する事項として例示している点については、三についてで述べた民法の解釈を確認するものであり、また、後段については、子の監護に必要な事項を定めるに当たっての理念を確認するものであって、いずれも、現在、実際にこのような解釈及び理念を前提にした運用がされているものと承知している。したがって、法務省としては、御指摘の法改正については、緊急に行う必要性は乏しいものと考えている。

九について

 御指摘の「状況」については、文部科学省として把握していないため、お答えすることは困難であるが、子の学校の記録の開示や保護者等の学校行事への参加については、各教育委員会や学校が、個別・具体の状況を踏まえつつ、御指摘の憲法第二十四条の趣旨、個人情報の取扱い、児童生徒に対する教育上の影響等を勘案しながら適切に判断されるべきものと考える。

十について

 児童相談所が、親権者である親に虐待された子の情報を親権者でない親に提供すること等の運用を行うことについては、必ずしも当該親権者でない親の支援を期待することが適当でない場合も想定されるため、各児童相談所において、個別・具体の事例に応じて、御指摘の憲法第二十四条の趣旨、個人情報の取扱い等を勘案しながら適切に判断されるべきものと考える。