質問主意書

第169回国会(常会)

答弁書


答弁書第一六号

内閣参質一六九第一六号
  平成二十年二月八日
内閣総理大臣 福田 康夫   


       参議院議長 江田 五月 殿

参議院議員川田龍平君提出治験・臨床研究における被験者保護と適正な研究の推進に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員川田龍平君提出治験・臨床研究における被験者保護と適正な研究の推進に関する質問に対する答弁書

一の1及び2について

 厚生労働省としては、御指摘の報告書及び規制改革会議の「規制改革推進のための第2次答申」(平成十九年十二月二十五日)が公表される前から、国内未承認の薬物・機械器具を用いた先進的な医療技術による診療(以下「未承認技術」という。)と保険診療との併用を可能とする制度について検討を行っているものである。
 なお、現在検討している制度においては、平成十八年九月まで存続していた高度先進医療の制度を参考として、保険診療との併用を可能とする診療の対象を、一定の要件を満たす未承認技術に限定することとしているものである。

一の3について

 御指摘の厚生科学審議会科学技術部会臨床研究の倫理指針に関する専門委員会(以下「専門委員会」という。)において示した案は「被験者に対して、補償を行うための保険等の手段や補償の内容を事前に説明し、同意を得ることととする」という内容のものであり、御指摘のような「研究者に民間保険に加入することを義務づける案」ではなく、御指摘のような調査は行っていない。

一の4について

 厚生労働省としては、御指摘の選択肢についての検討は行っていない。

二の1及び2について

 「治験のあり方に関する検討会」(以下「検討会」という。)は、治験の信頼性及び被験者の安全性を確保しつつ、円滑に治験を実施するために必要な方策について検討を行うことを目的とするものであることから、治験以外の臨床研究に係る事項については、検討会において検討を行っていない。

二の3について

 先の答弁書(平成二十年一月十五日内閣参質一六八第一〇七号。以下「前回答弁書」という。)二の1についてでお答えしたとおり、厚生労働省としては、臨床研究に関する倫理指針(平成十六年厚生労働省告示第四百五十九号。以下「倫理指針」という。)において、倫理指針について、必要に応じ、又は平成二十年七月三十日を目途としてその全般に関して検討を加えた上で、見直しを行うものとされていることから、御指摘の上申書において上申されている臨床試験における被験者保護法制定の必要性についても倫理指針の見直しの際に検討を行うこととしていたものである。また、現在、専門委員会において法制定の必要性の検討を行っているところであるが、今後、専門委員会において必要があると認められる場合には、御指摘の事例について検討を行うものと考えている。

二の4、5及び7について

 前回答弁書二の2についてでお答えしたのは、御指摘の裁判の時点における国の主張の内容であり、そもそもランダム化比較試験について倫理指針に基づく説明が必要ないとお答えしたものではない。また、御指摘の国際人権規約の趣旨についても、御指摘のような解釈をしたものではない。

二の6について

 倫理指針は、臨床研究の被験者の個人の尊厳及び人権を守るとともに、研究者等がより円滑に臨床研究を行うことができるよう、定められたものである。また、倫理指針においては、研究者等は、臨床研究を行う場合には、原則として、被験者に対し、当該臨床研究の実施に関し必要な事項について十分な説明を行い、文書でインフォームドコンセントを受けなければならないこととしている。現在、専門委員会においてもこれらの点を踏まえ、倫理指針の見直しの検討を行っているものと考えている。

三の1について

 前回答弁書三の1についてでお答えしたとおり、御指摘の事例については、今後、専門委員会において必要があると認められる場合には、検討を行うものと考えている。

三の2及び3について

 専門委員会においては、議事に即して必要な資料を配布し、議論が行われており、御指摘の全国調査についても、専門委員会の開催に先立って実施した意見募集において、当該調査に係る意見提出があったことを踏まえ、平成十九年八月に開催された専門委員会において、資料として配付するとともに、平成二十年一月に開催された専門委員会において、平成十九年十二月に公表された御指摘の全国調査に係る論文を配付し、当該調査を実施した読売新聞の記者が出席の上で検討が行われたところである。

三の4及び5について

 お尋ねの点については、専門委員会において、その必要性を判断すべきものと考えている。

三の6について

 専門委員会の議事録については、第一回及び第二回の議事録を平成二十年一月三十一日に厚生労働省のホームページにおいて公表したところである。議事録については、各委員等の発言内容の正確さを期す必要があること等から、その作成に時間を要するものであるが、今後、できる限り迅速な公表に努めてまいりたい。

三の7について

 御指摘の実態調査の具体的な実施計画については、現在検討中である。

三の8について

 御指摘の法的整備の点については、今後実施する調査の過程において、具体的な必要性が生じた段階で検討してまいりたい。

三の9について

 過去の非倫理的な人体実験の反省に基づき、国際的な医学研究の規範として取りまとめられた「ヘルシンキ宣言」については、我が国の関係者も制定過程に関与した経緯があり、我が国においても倫理指針は過去の非倫理的な人体実験の反省を踏まえ定められたものであると考えている。また、御指摘の過去の逸脱事例の調査についても、専門委員会において、倫理指針の遵守状況の調査を進めるとともに、読売新聞の全国調査の結果等を検討してきたところであるが、今後も、必要があると認められる場合には、御指摘のような倫理指針からの逸脱事例について調査を行うものと考えている。

四の1について

 御指摘のドラッグラグは、我が国においては、欧米諸国と比較して、製薬企業が実施する治験の開始が遅いことや、治験及び医薬品の承認審査手続に多くの時間を要すること等に起因するものであり、臨床研究に対する法的規制の有無とは直接関係がないものと考えている。また、平成十九年二月に発行された「ネイチャー・メディシン」において、欧州連合において、治験の規制の対象を大学等の研究者が行う医薬品の臨床研究まで拡大したことにより、臨床研究の実施に支障が発生している旨が指摘されている。

四の2について

 四の1についてでお答えしたとおり、欧州連合において、治験の規制の対象を大学等の研究者が行う医薬品の臨床研究まで拡大したことにより、臨床研究の実施に支障が発生している旨が指摘されているところであり、我が国の特殊な事情によって、このような事態が生じることが懸念されるものではないと考えている。

四の3について

 「国際的な倫理規範や、医学研究の法制度の成立過程との対比」の意味するところが必ずしも明らかではなく、お答えすることは困難であるが、四の1についてでお答えしたとおり、欧州連合において、治験の規制の対象を大学等の研究者が行う医薬品の臨床研究まで拡大したことにより、臨床研究の実施に支障が発生している旨が指摘されていることを踏まえ、臨床研究を法的規制の対象とすることにより、患者のニーズに柔軟に対応した研究の円滑な推進に支障が生じる恐れがあると認識しているものである。

四の4について

 お尋ねについては、例えば、米国と比較して、我が国においては、臨床研究の実施のための基盤が十分ではないこと、臨床研究の実施を支援する研究費助成が十分ではないこと、医師等が多忙であること、臨床研究の業績としての評価が十分ではないこと、製薬企業が行う治験の開始が米国より遅いこと等の様々な要因があるものと考えている。

四の5について

 御指摘の国家研究法とは、「公衆衛生サービス法(仮訳)」を指すものであると考えるが、同法においては、アメリカ連邦政府による研究費助成を受け、臨床研究を実施する医療機関について倫理審査委員会の設置等を義務付けているものであり、臨床研究に関する包括的な規制を行っているものではない。

四の6及び7について

 厚生労働省においては、御指摘の三か国以外についても調査を行ったが、その調査からは、オランダ、スウェーデン、デンマーク、アイスランド、台湾等についても、臨床研究に関する包括的な規制を行っていることが明らかとなっている。引き続き、専門委員会での検討に資するよう、諸外国における臨床研究に対する規制の在り方について必要な調査を進めてまいりたい。

五の1について

 前回答弁書五についてでお答えしたとおり、現在、未承認技術と保険診療との併用を可能とする制度について検討を行っているところであり、現時点において御指摘の点についての認識をお示しすることは困難である。

五の2について

 薬事法(昭和三十五年法律第百四十五号)第十四条第一項に規定する製造販売の承認を受けずに製造販売をされた医薬品等を販売又は授与する行為は、同法第五十五条(同法第六十四条において準用する場合を含む。以下同じ。)に違反するものである。なお、個別の販売又は授与が同法第五十五条違反に該当するか否かについては、販売方法、販売の際の演述等を総合的に勘案した上で判断するものである。