質問主意書

第169回国会(常会)

質問主意書


質問第一七一号

公的年金制度における年金給付の受給権の消滅時効に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十年六月十八日

辻 泰弘   


       参議院議長 江田 五月 殿



   公的年金制度における年金給付の受給権の消滅時効に関する質問主意書

 現行の公的年金制度における老齢給付については、原則として二十五年の保険料納付済期間等を有することが支給要件とされている。即ち、国民は、少なくとも二十五年間にわたって保険料を納付し続けることによって、ようやく定められた年齢に達した時点で、年金給付を受けることができるものとされているところである。
 しかるに、そのような長年にわたる国民の真摯な努力によって初めて獲得されるところの年金給付を受ける権利は、支給事由が生じた日から五年の間に裁定を請求しなければ、時効によって消滅するものとされている。
 そのため、請求に漏れがあった場合、例えば、監督主体が異なる厚生年金と共済年金などの複数の年金制度に加入した者が裁定時に通算し忘れ、結果として請求しないままに放置し、五年以上が経過した後に気づいた場合などにおいては、受給権は発生時から将来にわたって完全に消滅してしまう扱いとなっている。
 このように、国民の真面目な努力の積み重ねによる成果であるにもかかわらず、その努力を容易に水泡に帰せしめる可能性のある法制度を、国が漫然と放置し、許容していることは、極めて非情な対応と言わざるを得ない。今日まで、「努力が報われる社会」、「人を何よりも重視する国」をめざすと公約してきた政府の立場からも、国民の年金給付の受給権を守るため、早急な対応を講ずべきである。
 かかる見地から、以下質問する。

一 従来、政府は、年金給付を受ける基本的権利(基本権)は、国民年金法等の規定により、その権利の発生から五年を経過したときに時効によって消滅することとされている、と説明してきたところであるが、そもそも、基本権について、消滅時効が定められているのは何故なのか。その際の消滅時効の期間を五年とした理由は何なのか、政府としての見解を示されたい。

二 従来、政府は、基本権に基づいて毎支給期月ごとに支給される年金給付の請求権(支分権)は、会計法の規定により、その権利の発生から五年を経過したときに時効によって消滅することとされている、と説明してきたところであるが、そもそも、支分権を基本権と区分しなければならない理由は何なのか。支分権について、消滅時効が定められているのは何故なのか。政府が、これまで、支分権を基本権と切り離して、支分権の消滅時効を国民年金法等の法律によらずに、国に対する金銭債権一般について定める会計法に根拠を求めてきた理由は何なのか、国民の年金給付の受給権を国に対する他の金銭債権一般と同等に扱ってきたことの妥当性について、どのように考えているのか、政府としての見解を示されたい。

三 年金給付を受ける基本権は、やむを得ない理由がある場合に時効を援用しない取り扱いとしている、と政府は説明してきたが、「やむを得ない理由がある場合」とは、具体的にいかなる場合なのか、これまでの政府による法律の施行・運用の実態を踏まえ、政府の見解を示されたい。

四 昨年六月に議員立法として成立した「厚生年金保険の保険給付及び国民年金の給付に係る時効の特例等に関する法律」の附則第三条及び第五条の規定によって、厚生年金保険法及び国民年金法が改正されたが、これによって、基本権と支分権についての消滅時効は、それぞれ、どのように整理されたことになるのか。即ち、基本権、支分権のそれぞれについての消滅時効の法的根拠、会計法との関係、時効の起算点、時効期間、時効期間経過の消滅に与える効果等はどのように規定されたと理解しているのか。改正後の法律を執行すべき立場にある政府の見解を示されたい。

五 前記の法改正による基本権、支分権に対する消滅時効の法解釈と、従前の政府による法解釈との整合性、連続性について、政府はどのように考えているのか、見解を示されたい。

六 厚生年金基金、及び国民年金基金の年金給付を受ける権利に係る基本権及び支分権についての消滅時効は、いかなる法律によって、どのように規定されているのか、政府の解釈を示されたい。

七 国家公務員共済組合法、地方公務員等共済組合法及び私立学校教職員共済法に基づく長期給付を受ける権利に係る基本権及び支分権についての消滅時効は、いかなる法律によって、どのように規定されているのか、政府の解釈を示されたい。

八 国民の長年にわたる努力の成果と見なすべき年金給付の請求権については、基本権、支分権のいずれについても、消滅時効の規定を削除すべきものと考えるが、これについての政府の見解と今後の方針を示されたい。

九 共済組合等の長期給付と厚生年金、国民年金との間の過去の加入記録の情報の共有と、それに基づく事務の連動、一体的把握・処理は、いつから可能となるのか。現状と今後の対処方針について、政府の見解を示されたい。

  右質問する。