質問主意書

第169回国会(常会)

質問主意書


質問第一六一号

新たな高齢者医療制度における療養の給付に係る一部負担金の軽減特例措置に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十年六月十二日

辻 泰弘   


       参議院議長 江田 五月 殿



   新たな高齢者医療制度における療養の給付に係る一部負担金の軽減特例措置に関する質問主意書

 平成十八年六月に成立した「健康保険法等の一部を改正する法律」によって、七十歳以上七十五歳未満の、いわゆる前期高齢者は、療養の給付に係る一部負担金として、保険医療機関又は保険薬局に、原則として療養の給付に要する費用の額の百分の二十(従前より百分の十引き上げられた割合)を支払わなければならないものと定められたところである。
 その後、当該改正による一部負担金の引き上げに関しては、平成十九年九月の自民党の総裁選挙時の福田総理大臣の政権構想や自民党・公明党の連立政権合意においても凍結の方針が打ち出され、同年十月の与党高齢者医療制度に関するプロジェクトチームのとりまとめにより、「七十歳から七十四歳の医療費自己負担増(一割→二割)を、平成二十年四月から平成二十一年三月までの一年間凍結する。保険給付は八割とし、この措置に係る財源については国が負担する」ことが決定された。これに基づき、平成十九年度補正予算において、凍結に要する関係経費として、千二百七十一億円が計上され、保険者等が設置する基金に高齢者医療制度円滑導入臨時特例交付金が交付された次第である。
 今日の日本を築いてきた世代である高齢者・年金生活者に対する、近年の急激な、かつ、相次ぐ負担の増加に対しては、その非を国会審議において指摘し、早急にその見直しを行うよう強く主張してきたところであり、政策の変更・修正自体は遅きに失したとはいえ、評価するにやぶさかではない。しかしながら、療養の給付を受ける者の法律に定められた支払義務(この支払義務については、一定の場合には、保険者は、保険医療機関又は保険薬局の請求に基づき、健康保険法の規定による徴収金の例により、これを処分することができるとまで規定されている。)の変更・修正を法改正なく行った政府の対応については、疑問を呈せざるを得ない。
 かかる見地から、以下質問する。

一 平成二十年度の一年間にわたり、百分の二十と定められた法律の規定にもかかわらず、改正により引き上げられた分(百分の十)の支払義務を凍結する以上、当然に関連法制を改正し、軽減特例のための法的措置を講じた上で政策変更を図るべきではなかったか。何故、法改正によることなく予算措置のみで対処したのか、それが可能と判断した理由は何か、政府の見解を示されたい。

二 厚生労働省は、平成二十年二月二十一日、保険局長名にて、「七十歳代前半の被保険者等に係る一部負担金等の軽減特例措置の取扱いについて」と題する通知を各都道府県知事、各健康保険組合理事長などに宛て発出しているが、同通知はいかなる法律のどの規定を根拠にして発出されたものなのか、また、法律によって定められた義務の内容が、一片の局長通知によって根本的に変更されることはあり得るのか、あるとすれば、それはいかなる法的解釈によるものなのか、政府の見解を示されたい。

三 療養の給付に係る負担金として、療養の給付に要する費用の額の百分の二十を支払わなければならない、と法定しておきながら、厚生労働省保険局長の通知によって、保険医療機関等にその支払義務の履行請求を行わせないこととすることは、たとえ関係者に不利益を生じさせない措置を講じた上のものであるとしても、法律に基づく権利と義務を政府自らが否定するものと言わざるを得ないと考えるが、この点についての政府の見解を示されたい。

四 平成十二年四月からの介護保険制度の導入に際しても、法律で規定された施行期日以降の保険料の徴収が延期されたが、その際の法改正によらない軽減措置に対しては、国会においても疑念が呈せられ、当時の丹羽厚生大臣は、「今回の措置は、年度を通じて高齢者の保険料を徴収しないという趣旨ではなくて、制度施行当初の半年間に限って市町村が保険料の徴収を行わないことができることとするものでありまして、法律上問題はございません」(第百四十六回国会衆議院会議録第七号五頁(平成十一年十二月一日))と答弁している。政府は当時、当該措置が法改正によらずして行われたことについて、いかなる根拠に基づいてどのように説明していたのか、あらためて政府の見解を示されたい。

五 今次の軽減特例措置については、何らの法的解釈も示されることなく、期間も一年間にわたるものであり、かつ、巷間与党内でのさらなる一年間延長の検討も伝えられるところである。介護保険制度導入時の右大臣答弁の説明と照らしても、法的措置を講じないままの今次軽減特例措置については、脱法行為との誹りを免れない政策対応と言わざるを得ないものと考えるが、この点についての政府の見解を示されたい。

六 以上の見地から、政府は速やかに、当該一部負担金の引き上げを凍結するための立法措置を講ずべきものと考えるが、この点についての政府の見解、今後の方針を示されたい。

  右質問する。