質問主意書

第169回国会(常会)

質問主意書


質問第一六〇号

労働災害の発生防止と労働監督機関の対応に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十年六月十二日

小池 晃   


       参議院議長 江田 五月 殿



   労働災害の発生防止と労働監督機関の対応に関する質問主意書

 基本的人権を定める日本国憲法が公布されて六一年、働くものの権利が基本的人権として憲法上の権利と規定された。その下で労働基準法が制定され、労働基準監督官制度が発足し六一年がたった。労働基準監督官制度は、労働基準法等が定める労働条件の最低基準の実効性を確保するために、民事訴訟などによる事後的救済や刑事的制裁による予防効果と共に、労働者の権利・利益を直接回復し、法の運用をより一層効果的にするための不可欠の措置として設置されたとされている。
 今日、現実の労働現場は非正規雇用の増大・低賃金労働などに端的に表れているように、働く人々の中でも貧困と格差が蔓延し重大な事態となり、その下で、下請労働者等の労働災害事故の発生は続いている。労働災害による重大災害死傷者数は、二〇〇四年二七四件・一四三一人、二〇〇五年二六五件・二二八六人、二〇〇六年三一八件・二一一七人、二〇〇七年は二九三件・二三三二人(厚生労働省「死亡災害・重大災害発生状況」の報告より)と増え、造船業界の労災死亡者の場合も二〇〇四年一二人、二〇〇五年一二人、二〇〇六年一六人、二〇〇七年一九人(全国造船安全衛生対策推進本部発表)と増えている。また、特定の事業場・企業における連続的発生も見られるほか、下請・孫請等の労働者が犠牲となっている場合も多い。
 今日こうした労働災害をなくすために安全対策等のいっそうの徹底が喫緊に求められている。職場は労働者にとって、生活の資を得るための場であるのに、逆に命を落としてしまうのが労働災害である。労働者が職場で命をなくす等ということは絶対にあってはならないことだが、いったん事故が発生した場合には原因の究明と再発防止の徹底がきわめて重要である。このことは単に、事故を発生した企業に止まらず、広く労働行政に反映させるべきである。昨年八月には、総務省より「労働安全等に関する行政評価・監視結果に基づく勧告」が発せられ、労災発生実態の把握・分析及び労働災害防止に関する目標設定の適切化や、労働災害の防止を図るための情報提供の推進等の問題が指摘されている。
 個々の死亡労災事故等についても、愛する家族を亡くした遺族に対して、事故の原因や再発防止の対策の実施状況を説明することは、遺族の無念さに応え、自らの家族の死が今後の災害根絶につながったと理解していただく上でも必要不可欠のことであり、当該企業や労働基準監督署の社会的責任である。そしてこのことを通して再発防止がいっそう確実なものになる。しかし、一部に労働基準監督署の調査等の進展をふまえて、原因の解明と再発防止に関する指導内容とその結果の説明を遺族側が真摯に求めたところ、労働基準監督署は遺族に対して「そのような説明は行っていない」という対応が見られた。
 そこで、以下の通り、質問する。

一 二〇〇七年八月の総務省の勧告を受けた項目のうち、労災事故防止の目標設定及び、情報提供の推進に関して、厚生労働省が現在までにどのように措置してきたかを明らかにされたい。

二 今日の労働現場とりわけ大企業の製造業においては、発注会社の労働者、下請会社の労働者、派遣会社の労働者などが共に就労している下で、労働災害・重大事故が発生し、その被災者は下請会社の労働者、派遣会社の労働者となっている場合がある。重大労災事故の再発を防ぐ点から、複数の下請や派遣会社が発注会社の構内で作業するような大手製造業等の事業場毎の発生件数の把握は、どのように行われているか。もし行われていないとすれば、今後把握すべきと考えるが、どのような見解か。

三 過去十年間で複数回以上の重大事故ないし死亡事故が起こった事業場は、何箇所存在するか。また、それらの事業場は構内全体の安全対策が特に求められていると判断するが、どのような指導を行っているか。

四 労働安全衛生法第七八条、第七九条に基づいて、事故を起こした事業場に対する安全管理特別指導事業場取扱数の最近五年間の全国の推移を明らかにされたい。また、その結果について、今後の労災防止対策を強化するためにも分析、公表することが必要と考えるが、どのような見解か。

五 既述の通り、重大な労働災害を発生させた事業場は、遺族の求めがあれば原因及び再発防止対策について、速やかにかつ誠実に説明すべきものと考える。遺族が当該事業場に事故原因や対策の説明を求めた場合、労働行政は適切に説明するよう指導を行っているか。もし行っていないとするなら、どのような理由か。

六 労働基準監督署においても、事故原因を捜査するだけでなく、労働行政の立場から、当該事業場等に対し再発防止対策を指導した場合、遺族に対して速やかにその内容について具体的に説明することを始め、可能な限り原因と防止策等を公表することは、社会的に見ても当然である。もし労働行政が「遺族に対する説明は行わない」という対応をしているのであれば、その理由は何か。また、本来なら、少なくとも捜査などが終了した時点で、遺族に対して事故の原因等明確になった内容を説明すべきである。そのように見直すべきと考えるがどうか。

七 労働災害を起こした事業場へは、再発防止対策の速やかな指導等が必要であり、労働基準法第一〇二条に基づく捜査を実施している時であっても、事故を未然に防ぐ意味から適切な対応・指導等が当然必要と考えるが、当該捜査が終了・終結するまで指導は行わないのか。

  右質問する。