質問主意書

第169回国会(常会)

質問主意書


質問第一五三号

戦時下朝鮮人強制動員被害者の名簿など被害認定関係資料の調査と提供に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十年六月十日

今野 東   


       参議院議長 江田 五月 殿



   戦時下朝鮮人強制動員被害者の名簿など被害認定関係資料の調査と提供に関する質問主意書

 韓国政府は昨年末「太平洋戦争前後の国外強制動員犠牲者等の支援に関する法律」を制定し、第一条でその目的を「一九六五年に締結された『大韓民国と日本国の間の財産及び請求権に関する問題解決と経済協力に関する協定』と関連し、国家が太平洋戦争前後の国外強制動員犠牲者とその遺族等に人道的次元から慰労金等を支援することによって、彼らの苦痛を治癒し、国民和合に寄与すること」としている。
 日本政府は、「個人の財産及び請求権の問題は法的に解決済みである」との立場だが、本年四月三日、ソウル中央地方法院は、「請求権協定により大韓民国国民の日本国及びその国民に対する請求権自体が消滅したと見ることはできないので、(原告被害者)の請求権が請求権協定により消滅したことはないと言える」と判決で述べている。
 昨年十一月二十日の日韓首脳会談で盧武鉉大統領(当時)から、日本側の記録について共有できるものは共有してほしいとの要請があり、福田総理大臣は「お話を承りました」と答え、また、衆議院外務委員会で近藤昭一議員の「記録、資料を共有化し、お互いに協力し合って取り組んでいく、そういうことと理解してよろしいか」との問いに高村外務大臣は「そのように理解していただいて結構」と答弁している。
 戦後六十三年を経た現在、韓国の強制動員被害者やその遺家族は高齢になっており一日も早い解決が求められている。韓国政府が被害者に金銭の支払いをすることとなった現在、日本政府は自らの責任として、それを支援し協力することが道義的にも政治的にも必要であり、強制動員者の名簿など被害者認定に関する資料を調査し、提供し、記録・資料の共有化を進める時期だと考える。
 そこで、以下質問する。

一 韓国での「太平洋戦争前後の国外強制動員犠牲者等の支援に関する法律」に基づく「国外強制動員犠牲者等の支援事業」について、政府はどのような認識を持っているか。

二 韓国の「国外強制動員犠牲者等の支援事業」の成否は、被害認定の進捗にかかっている。韓国では被害申請者の認定のための資料が不足しており、約七割が認定不能の状況にあると聞いている。韓国における被害認定に、日本政府として協力するつもりはあるか、見解を示されたい。

三 韓国では、軍人・軍属約三十万人、強制動員労働者約七十万人、合計百万人以上が国外へ強制動員されたと言われている。日本政府としては、それらの数値をどのように把握しているか。

四 日本政府が、これまで韓国政府に提供した被強制動員者の名簿類の種別と記載人数を明らかにされたい。
 また、それら韓国に提供した名簿のうち重複記載を除いた実数は、強制動員者のおおよそ何割程度のものと考えているか明らかにされたい。

五 次の1から5の調査を行い、名簿など被害認定資料の有無を明らかにすべきであると考えるがどうか。

1 日本政府が保有していると思われる資料の調査
(1) 外務省
 引揚げ・送還に関する資料、GHQとの連絡調整関係資料、GHQの預金勘定で、賠償庁が譲渡された朝鮮人口座関係資料
(2) 厚生労働省
 厚生年金名簿、引揚げ・送還に関する資料、戦後に届けられた未払い金関係の報告書と名簿、戦後に行われた強制労働動員朝鮮人の調査に関する資料
(3) 法務省
 供託金関係の資料として、未払い金供託名簿、供託書副本
(4) 経済産業省
 鉱山などの変災報告書(事故報告書)
(5) 総務省
 戦時に扱った郵便貯金(軍事郵便貯金)
2 地方公共団体が所持していると思われる資料の調査
 市町村に残されている戸籍届、戸籍受付帳、埋葬火葬の許可に関する記録、都道府県が所持している鉱山などの変災報告書(事故報告書)、各企業から提出された未払い金などの処理についての報告書
3 大学、図書館、博物館、公文書館など公的機関が保有している資料の調査
4 企業が所有している関係資料の調査
5 民間人などが保有している資料の調査

六 前記五の調査を円滑にするため、次の1、2の手だてが必要だと考えるが、次の1、2についてそれぞれ見解を示されたい。

1 日本政府が朝鮮人強制動員関係資料調査を実施するにあたっては、閣議決定を行い、予算処置と実施体制を整備する。
2 民間の研究者などの協力を得て調査をすすめる体制を確立する。

七 調査の結果、その存在が確認された名簿資料類については、速やかに韓国政府に提供するとともに、歴史的資料として保存し公開することが必要と考えるが如何か。

  右質問する。