質問主意書

第169回国会(常会)

質問主意書


質問第一四一号

名古屋高裁イラク派兵違憲判決確定に対する政府の見解に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十年六月五日

山内 徳信   


       参議院議長 江田 五月 殿



   名古屋高裁イラク派兵違憲判決確定に対する政府の見解に関する質問主意書

 去る五月二日、名古屋高等裁判所民事第三部において、航空自衛隊がイラクで行っている空輸活動が憲法九条一項に違反するとの違憲判決(以下「判決」という。)が確定した。
 政府関係者からはこの判決に対し、「傍論」、「そんなの関係ねえ」など頭から軽視する発言が相次ぎ、司法の判断に対する行政府としての真摯な対応を欠いていると言わざるをえない。
 しかも判決は、政府のこれまでの憲法解釈にたった上で違憲判断を下しており、その内容と過程について検証することは、政府自らが行うべき不可欠重要な課題であると考える。
 そこで、以下質問する。

一 「武力行使一体化」の判断について

1 判決は、憲法九条一項が禁止する他国の武力行使との一体化の判断基準として、平成九年二月十三日衆議院予算委員会における大森内閣法制局長官の答弁(以下「大森答弁」という。)を引用している。すなわち、同答弁は、他国による武力行使の一体化の有無は、①戦闘行為が行われているか又は行われようとしている地点と当該行動がなされる場所との地理的関係、②当該行為の具体的内容、③他国の武力行使の任に当たる者との関係の密接性、④協力しようとする相手の活動の現況、等の諸般の事情を総合的に勘案して、個々的に判断される、としたものである。
 大森答弁がその後覆された事実はないと思料するが、政府の認識を示されたい。
2 政府は、「バグダッド飛行場は非戦闘地域である」とするだけで、バグダッドがイラク特措法上の「戦闘地域か否か」については判断を回避している。しかし、バグダッド全域で今なお激しい戦闘行為が行われていること自体は周知の事実であり、バグダッド全体が戦闘地域であるということ自体は、否定しがたい事実である。
 この点について判決は、イラクの首都バグダッドにおいて、アメリカ軍を中心とする多国籍軍が「掃討作戦」を展開している事態を認定し、バグダッドをイラク特措法上の「戦闘地域」と認定している。その上で、大森答弁の①の地理的関係について、「多国籍軍と武装勢力との間で戦闘行為がなされている地域(すなわち、バグダッド)と地理的に近接した場所(すなわち、バグダッド飛行場等)において、対武装勢力の戦闘要員を含むと推認される多国籍軍の武装兵員を定期的かつ確実に輸送している。」と検証している。
 すなわち政府の見解に立ちバグダッド飛行場自体を「非戦闘地域」と考えたとしても、大森答弁によれば、周囲のバグダッドが「戦闘地域」である限り、その明らかな地理的密接性により、他国の武力行為との一体化の要件を十分満たすとの同判決の論旨は明快であると思料するが、大森答弁を踏まえたこの判決内容について政府の見解を示されたい。

二 イラクにおける航空自衛隊の空輸活動について

1 判決は、航空自衛隊の空輸活動は、主としてイラク特措法上の「安全確保支援活動」の名目で行われているとの認定をしている。航空自衛隊の空輸活動には当然イラク特措法上の「安全確保支援活動」が含まれていると思料するが、政府の見解を示されたい。
2 「安全確保支援活動」とは、文字どおり、「安全確保活動」に対する「支援活動」に他ならないが、「安全確保活動」の定義を示した上で、アメリカ軍を中心とする多国籍軍がイラク国内で展開する「掃討作戦」がこれに含まれるか否かについて政府の見解を示されたい。
3 仮に、「掃討作戦」は「安全確保活動」に含まれないとの立場をとるのであれば、掃討作戦に対する支援活動としての空輸活動は認められないと解される。さすれば政府は掃討作戦等の武力行使に関与しない者に限定した輸送活動を行っているのかどうか、またその内容についても明らかにされたい。

三 判決の違憲判断部分が「傍論」であるとする政府の見解について

 判決の違憲判断部分が「傍論」であるとする見解が政府より度々表明されている。私は、この違憲判断部分は、主判断である損害賠償の根拠である国家賠償法の要件である違法性の検討をしているのであり、主判断のために不可欠な主要な論拠であって「傍論」には当たらないと考える。また日本の法体系は米・英国と異なり、判例主義をとっていないために「判決理由」と「傍論」の区別の必要もなく明確な基準もない。いわゆる「傍論」部分で幾多の判例が確定している。また、先例としての価値について差を設ける法律は存在しない。そのため、解釈によっては「傍論」と評価出来る部分での憲法判断はこれまでも多数行われている。
 例えば、いわゆる朝日訴訟最高裁判決(昭和四十二年五月二十四日)においては、明らかな「傍論」である「なお書き」の部分で憲法判断を行っているが、この判断部分についても先例としての高い価値が認められている。政府は、かかる朝日訴訟などの憲法判断についても、傍論として先例としての価値がないものと考えるのか。

四 最高裁に準ずる高裁の確定判決に対する政府の認識について

 三権分立の下、最高裁に準ずる高裁の確定判決については、行政府においては謙譲の精神をもって対応をすることが憲法上強く求められると考える。この点について政府はどう考えているのか。

  右質問する。