質問主意書

第169回国会(常会)

質問主意書


質問第一三六号

市町村合併に伴う不利益人事と市公平委員会の職責放棄に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十年六月二日

又市 征治   


       参議院議長 江田 五月 殿



   市町村合併に伴う不利益人事と市公平委員会の職責放棄に関する質問主意書

 政府の推進した「平成の大合併」により三二〇〇の市町村数が一八〇〇に減少したが、その目的のひとつが数兆円にのぼる行政需要額の切り下げ、これによる地方交付税の五兆円削減など国の地方財政への支出の縮小にあったことは明らかである。しかしこの結果、市町村は職員人件費の削減を含む行政サービスの全般的な低下を余儀なくされ、そのしわよせは住民生活の各方面に拡がり、「地方の荒廃」とよばれる事態を招いている。合併市町村の多くにおいてはその一環として、管理職や課長補佐級ポストの削減が行われた。これに対する職員からの不服申立ては、元来、公平委員会が専門の中立機関として誠実に対処すべき事務であるにもかかわらず、現実には、公平委員会が市当局の立場に付和雷同し、職員からの申立てを安易に不受理、却下として、人事に関する公正・公平を期すべきその使命・職責を放棄している事例がある。
 公平委員会や人事委員会の委員の任命および職務の独立性堅持については、かねてより「市長など当局側と癒着しその意のままになっているのではないか。」との批判が絶えないところであるが、こうした事例はまさにその実態を証明したものとなっている。さらにこのように公平委員会の中立性が保障されない結果、職員側がやむなく裁判を起こし、すでに職員側勝訴の判決が下っているにもかかわらず、市当局がこれに従わず控訴している例があり、これは地方公務員法の定めている職員人事紛争処理の原則と法理を著しく逸脱した専断的な態度であるといわざるをえない。今後道州制など新たな自治体再編が予想されるなか、合併を悪用した不当な人事を公平委員会の違法な処理によって正当化することが横行してはならないと考える。
 よって事例を踏まえ、次のとおり質問する。

一 香川県丸亀市・綾歌町・飯山町は二〇〇五年三月二二日の新設合併により新丸亀市を発足させたが、その際、旧丸亀市の課長補佐級の職員多数が係長級、一般職に降任された。これに対し、当該職員は市公平委員会に不服申立てを行ったが、公平委員会の不受理、さらに再審査請求却下を受け、二〇〇六年四月一二日、公平委員会の不受理処分取消を求め高松地裁に提訴した。原告(職員)は「①失職・新規採用論は実態に反し、身分は継続している、②仮に失職・新規採用であるとしても不公正な人事は旧合併特例法九条二項(職員の身分取り扱いの公正処理、現行法では一二条二項。)違反であり不利益処分として不服申立てできる、③失職・新規採用のため不服申立てできないと解すると、吸収合併の場合では存続自治体職員は不服申立てできるにもかかわらず、消滅自治体職員はできないという著しい不合理が生じる。」旨を主張した。
 二〇〇七年一二月二六日高松地裁の判断は、「①新設合併の場合職員は失職・新規採用となる、②しかしそうであっても、旧合併特例法九条二項の公正取扱いの趣旨や地方公務員法の職員身分保障の規定からすると、新設合併の場合においても職員が意に反する降任等不利益を受けたときには地方公務員法四十九条の二(不服申立て)に基づき公平委員会の審査を受けることができる。」として、不受理処分を取り消す判決(原告勝訴)を下した。にもかかわらず、被告(丸亀市)は二〇〇八年一月八日高松高裁に控訴して現在に至っている。
 丸亀市当局及び丸亀市公平委員会は、新設合併に伴う旧市町から新市への職員の引継を極めて形式的に解釈し、「合併時の職員の任免については、新規採用であるから合併前後の職位の比較はできず、従って如何なる職位に任命しようとも地方公務員法上の不利益処分には該当しないので不服申立てはできない。」と主張しているが、政府においてもこれと同一の見解を有するのか。

二 1 公平委員会への不服申立制度は、地方公務員において生存権保障の一環である労働基本権を制約することに対する代償措置の一部をなすものである。にもかかわらず、新設合併に際し人事上のいかなる不利益な取扱いを受けても不服申立てできないとした場合、地方公務員の生存権(身分保障)はどのようにして担保されるのか。

2 市の解釈を採るならば、新設合併或いは吸収合併の際に、消滅自治体の職員と存続自治体の職員とでは、申立資格の有無による差が生じることになり、地方公務員法第十三条(平等取扱の原則)との整合性が保てないのではないか。

三 1 国策として行われた平成の大合併に際して、合併特例法九条一項(身分の保存)は正規雇用職員に限れば維持されたとしても、九条二項(身分取扱の公正処理)違反は丸亀市だけに限らず全国的にもあるのではないか。

2 政府は、今回の合併がもたらした人事の弊害などを調査・検証していくべきではないのか。

四 公平委員会は不服申立てを受理・審査すべき公正中立な第三者機関であるはずが、丸亀市公平委員会は当局と一体となって、今回の件について門前払いを繰り返し、一審に従わず即刻控訴をしているのは安易というほかない。公平委員会は準司法的権限等をもつ専門的中立的機関とされる(橋本勇「逐条地方公務員法」より)。しかし、実態は冒頭述べたように、市長等による情実的任命、長との癒着による独立性の喪失という点で批判の絶えないところである。政府は、公平委員会の本来のあり方をどのように考えているのか。

五 前記地裁判決は公平委員会の職責を法律に沿って確認した常識的で妥当なものであり、被告市当局は、これ以上税金を投じて控訴を続け無用な争いを長引かせることなく、一審判決を受け入れるべきである。政府は市当局に対し、すみやかに紛争を終結するとともに、公平委員会が本来の独立した職責を果たすよう、助言すべきではないか。

  右質問する。