質問主意書

第169回国会(常会)

質問主意書


質問第一三一号

八ッ場ダム建設事業の今後に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十年五月二十三日

大河原 雅子   


       参議院議長 江田 五月 殿



   八ッ場ダム建設事業の今後に関する質問主意書

 八ッ場ダム建設事業に関しては、八ッ場ダムの完成予定年度を二〇一〇年度から二〇一五年度に延期する三度目の基本計画変更案が本年一月に国土交通大臣から示され、それに対して各都県知事は議会の議決を経て国土交通大臣に同意とするとの回答を四月までに行った。各都県議会での採決の結果をみると、以前の計画変更案の採決時とは異なり、一部の議会では賛成反対が拮抗する状況となっており、五月一九日には「八ッ場ダムを考える一都五県議会議員の会」が参加都県議員六一名によって発足するなど、受益者とされる関係都県の議会において八ッ場ダム事業見直しの声が大きく広がってきている。今回の計画変更によって、完成予定が二〇一五年度となることになっているが、実際に八ッ場ダム建設事業を継続していくには多くの課題がある。
 それらの課題について以下、質問する。なお、答弁は誰もが分かる平易かつ明解な言葉で説明されたい。

一 工期について

1 ダムサイト予定地の河道をふさぐ本格的な本体工事の実施開始時期
 二〇一五年度完成の工期スケジュールにおいて、ダムサイト予定地の河道をふさぐ本格的な本体工事の開始は何年度を予定しているのか。また、ダムサイト予定地の河道をふさぐのはダム地盤の掘削がどの段階に達した場合であるのかも明らかにされたい。
2 本体工事と付替国道・鉄道工事及び水没予定地住民の移転との関係
 ダムサイト予定地の河道をふさぐ本格的な本体工事を開始するまでには、付替国道、付替鉄道の工事がすべて完成し、水没予定地住民の移転がすべて完了していることが想定されているのか。
3 付替国道、付替県道、付替鉄道、代替地造成の進捗率
 付替国道、付替県道、付替鉄道、代替地造成それぞれの平成一九年度末の工事進捗率を示されたい。なお、代替地造成は地区ごとの工事進捗率を示されたい。
4 付替国道・付替県道の工事開始時期
 昨年一二月二一日に開かれた関東地方整備局の事業評価監視委員会の配布資料によれば、付替国道・付替県道の昨年一〇月末段階の工事進捗率は五二パーセントとなっており、半分程度しか進んでいない。この付替国道・付替県道の工事はいつから開始されたのか。
5 付替国道・付替県道の完成予定時期
 付替国道・付替県道の完成予定時期を明らかにされたい。
6 付替国道・付替県道の完成予定時期が大幅に遅れる可能性
 付替国道・付替県道は工事が随分以前から行われてきているにもかかわらず、進捗率が半分程度にとどまっていることから見れば、完成までに最低でもあと一〇年はかかると考えられる。現在の工事進捗率から見た今後の見通しを明らかにされたい。
7 川原畑地区の付替国道の難工事
 付替国道の予定地のうち、川原畑地区は地質が劣悪で、工事が難航していると聞く。昨年一二月には川原畑代替地に隣接する国道予定地の法面で大きな崩落事故があったと聞く。同地区には地すべり地帯もあることから、今後も付替国道は相当の難工事が予想される。昨年一二月の前記の法面崩落事故に対する対策工事の予定、川原畑地区の付替国道工事の今後の見通しを明らかにされたい。
8 代替地の沈下量の測定
 川原湯地区の打越代替地には沢を埋め立てた盛り土造成地があり、埋立て土層の収縮で地盤沈下が心配される。このような造成地では、沈下量の測定を行い、沈下がおさまったことを確認してから分譲を開始するのが普通であるが、しかし、打越代替地については今まで沈下量を測定しているのは法面だけで、居住部分である造成地については沈下量を測定してこなかったことが明らかになっている。沈下量は長年測量を続けて結果が判断できるもので、仮に今後測量しても、意味があるデータが得られるのは大分先のことになってしまう。なぜ、打越代替地の居住部分について沈下量の測定をしてこなかったのか、その理由を明らかにされたい。また、八ッ場ダム事業における他の代替地では沈下量の測定を行ってきたのかを明らかにされたい。
9 代替地の分譲
 八ッ場ダムの水没予定地区の代替地では、一部分譲が開始され、打越地区の第一期分譲地でも現在、分譲交渉が行われているとのことである。代替予定地では今後、移転住民の居住の安全性への配慮から沈下量の測定を行う予定があるのか、分譲開始時期がこれによって遅れるのかどうかを明らかにされたい。また、水没予定地住民の代替地への移転が完了するのは何年度と予定しているのかも明らかにされたい。
10 転流工の遅れが及ぼす影響
 転流工(川の仮バイパストンネルの掘削工事)は二〇〇七年度から工事をはじめて、二〇〇八年度に完成することになっていると聞く。昨年夏にこの工事は大成建設株式会社が落札したと報道されたが、その後、つい最近まで着工されず、約一年の遅れが生じている。この転流工の工事の遅れがダム完成時期に与える影響を明らかにされたい。
11 付替国道の工事や代替地移転の遅れがもたらすダム本体工事への影響
 前記のとおり、付替国道の工事や代替地移転が計画より大幅に遅れる可能性が高いが、これらの遅れは、ダムサイト予定地の河道をふさぐ本格的な本体工事の開始時期に影響を与えることはないのか。

二 八ッ場ダムの事業費が再度増額される可能性について

1 付替国道の工事費
 前述のとおり、付替国道・付替県道の昨年一〇月末段階の工事進捗率は五二パーセントで、あと半分が残っている。一方、八ッ場ダム建設事業の事業別執行額(予算ベース)をみると、平成一九年度末では付替国道・付替県道は五一四億円(付替国道三〇六億円)で、付替国道・付替県道の事業費七八三億円(付替国道四〇八億円)に対する執行率はすでに六六パーセント、付替国道だけの執行率は七五パーセントに達している。付替国道・付替県道の残り半分の工事を残り三四パーセントの事業費で、また、国道に関しては残りの工事を残り二五パーセントの事業費で終わらせることができるかどうかを明らかにされたい。
2 ダム本体工事費
 今回の計画変更案では、ダム本体工事費が大幅に削減されている。しかし、一都四県が今年一月一〇日にまとめた「都県合同による八ッ場ダム現地調査報告書」では次のように記されている。「本体掘削等において予想外の地質が現れ、事業費が増加する可能性も残している。」本体掘削等において予想外の地質が現れた場合、本体関係の工事費が増額される可能性があるのかどうかを明らかにされたい。
3 東京電力への減電補償
 吾妻川には東京電力株式会社の水力発電所がいくつもあって吾妻川の水の大半を使用している。そのため、八ッ場ダム完成後、ダムに水をためるためには、これらの発電所への送水量を大幅に削減する必要がある。八ッ場ダム予定地付近より下流に在る水力発電所の合計最大出力は約一〇万キロワットもあるから、送水量削減に伴う減電の補償額がかなり大きな金額になることが予想される。この減電補償額はどれほどの金額になるのか、また、その補償金がいつ支払われるのかを明らかにされたい。
4 東京電力への支払い済みの減電補償
 前記の「都県合同による八ッ場ダム現地調査報告書」に、「減電補償については、今までの支払額について説明があり、確認した。」という記述がある。これは、代替地造成に伴う発電用水トンネルの補強工事の際に減電となった分の補償であって、八ッ場ダム完成後に起きる永続的な減電とは別物と推測されるが、この「減電補償の今までの支払額」の内容を明らかにされたい。
5 間接経費
 工期が五年も延長されれば、様々な間接経費が嵩んでいくことは当然予想されるところである。今回の計画変更案では測量試験費は増額されることになったものの、営繕費、宿舎費などの間接経費の増額が見込まれていないのは不可解である。今後これらの間接経費が増額される可能性がないかどうか、今後の見通しを明らかにされたい。

三 川原湯温泉の営業について

1 水没予定地区の生活環境
 水没予定地区の住民は、ダム事業の長期化により長い歳月にわたり甚大な被害を蒙ってきており、ダム事業受け入れ後は工事現場に取り囲まれ、劣悪な生活環境を強いられている。とりわけ、観光業を生業とする川原湯温泉街にとって、周辺の自然環境が破壊されている現状は深刻だと考える。当初の代替地計画において、住民に説明していた代替地への移転時期を示されたい。また、代替地の移転が遅れることにより地元住民が蒙っている被害に対する補償措置をとっているのかも明らかにされたい。
2 吾妻渓谷へのアクセス
 川原湯の打越代替地では、移転が完了する予定の二〇一〇年度から五年間はダム本体工事の喧騒の中で温泉旅館を営業しなければならない。温泉旅館の経営で重要な意味を持つのは吾妻渓谷との関係であるが、打越代替地と吾妻渓谷との間は高低差が約一〇〇メートルもある超急斜面である。ダム本体の工事中、打越代替地から吾妻渓谷へアクセスする歩道がどのように確保されることになっているのかを明らかにされたい。
3 ダム工事中に吾妻渓谷を散策できる範囲
 ダム本体工事が始まれば、吾妻渓谷の上流部は工事対象区間となる。群馬県の発電所が付設されることになったので、工事対象区間が広がり、散策できる範囲は狭められることになった。ダム本体工事と発電所設置工事が行われている期間、吾妻渓谷を散策できるのはどの範囲なのかを具体的に示されたい。

四 ダム本体工事費の大幅削減について

1 ダム本体関係工事費がダム事業費の一〇パーセント以下のダム
 今回の計画変更により、ダム本体関係の工事費(貯水池護岸工事と地滑対策を除く)は大幅に削減され、八ッ場ダム建設事業費四六〇〇億円のわずか九パーセントとなった。この九パーセントは異常に低い値である。ダム本体関係工事費が全事業費に占める割合がこのように小さいダムは今まであったのだろうか。いままでに作られた直轄ダムや水資源機構ダムの中で、この割合が一〇パーセント以下のダムがあれば、その名前と割合を明らかにされたい。
2 長年行ってきた地質調査と最近数年の地質調査との違い
 八ッ場ダムのダムサイト地質調査は長年行われてきている。ところが、最近数年間に行った地質調査の結果で、ダムサイト岩盤が比較的良好であるとして、ダム基礎岩盤の掘削量は一四九万立方メートルから六八万立方メートルへと半分以下に、ダム本体のコンクリート量は一六〇万立方メートルから九一万立方メートルへと削減された。数年前まで長年行ってきた地質調査と、岩盤が良好だと判断した最近数年間の地質調査は内容と結果がどのように違うのか、その違いを具体的に明らかにされたい。
3 ダムサイト岩盤の評価の仕方
 ダムサイト岩盤が比較的良好であるという判断は、新たな地質調査結果が出たということよりも、国土交通省によるダムサイト岩盤の評価の仕方が変わったことによる部分が大きいのではないだろうか。もしそうならば、ダムサイト岩盤の評価の仕方がどのように変わったのかを具体的に明らかにされたい。
4 本体掘削等において予想外の地質が現れた場合
 ダムサイト予定地はもともと地質がひどく悪いところであるから、今後、本体掘削等で予想外の地質が現れる可能性が十分にある。本体掘削等において予想外の地質が現れた場合はどうするのか、その対応策を明らかにされたい。
5 ダム本体工事費の大幅削減で事故が起きた場合の責任
 ダム本体工事費はダムの安全性にかかわるダム事業の要と言うべきものであって、それを大幅に削減することがきわめて重大な事柄である。もしそのために将来、取り返しの付かない事故が起きた場合、誰がその責任を負うのか。責任の所在を明らかにされたい。

五 付替国道について

1 国道一四五線の建設年次計画等
 付替国道を含む国道一四五線を高規格道路として四車線にする範囲と距離数およびその建設の年次計画を明らかにされたい。
2 国道一四五線と付替国道
 国道一四五線のうち、付替国道として四車線にする範囲と距離数を明らかにされたい。付替国道の全体事業費も明らかにされたい。全体事業費は二車線までの分と四車線にする分を分けて示されたい。
3 付替国道の工事進捗率と事業費執行率
 平成一九年度末における付替国道の工事進捗率と事業費執行率を明らかにされたい。なお、この工事進捗率と事業費執行率は二車線と四車線のいずれを前提としているのか明らかにされたい。
4 付替国道のトンネル部分と橋脚部分
 付替国道のトンネル部分と橋脚部分の名称とその距離数、及びそれぞれの工事進捗率を明らかにされたい。
5 付替国道のトンネル部分の四車線化
 付替国道のトンネル部分と橋脚部分は現在は二車線であるので、四車線化するためには、トンネルと橋脚をもう一本ずつ造ることが必要である。四車線化のためにトンネルと橋脚をもう一本ずつ造る年次計画を明らかにされたい。
6 付替国道の完成予定年度
 付替国道二車線及び四車線の完成予定年度を明らかにされたい。また、現実に四車線にすることが可能かどうか、その見通しも明らかにされたい。
7 付替国道の用地買収
 付替国道の用地買収において四車線分の用地を買収する範囲と距離数と、すでに四車線分の用地を買収した範囲と距離数を明らかにされたい。
8 付替国道工事の費用負担
 付替国道工事の費用の負担割合、すなわち、治水特別会計、道路特別会計、「水源地域対策特別措置法による関係都県」の三つのそれぞれの負担割合を明らかにされたい。
9 付替国道の四車線化が困難になった場合
 付替国道工事の費用負担のうち、道路特別会計と、「水源地域対策特別措置法による関係都県」の負担割合は四車線にすることを前提に定められていると聞く。四車線にすることが困難となった場合、この両者の負担割合の前提が変わることになるが、その場合にどのような是正措置がとられるのかを明らかにされたい。

  右質問する。