質問主意書

第169回国会(常会)

質問主意書


質問第一二四号

温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十年五月十四日

福山 哲郎   


       参議院議長 江田 五月 殿



   温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度に関する質問主意書

 地球温暖化対策が喫緊の課題となっている中、我が国においても、とりわけ国内の二酸化炭素の直接排出量の三分の二を占めるエネルギー転換部門、産業部門の対策の強化が求められている。しかしながら、このような大口排出事業者に対する温室効果ガス排出の削減義務化や経済的手法による削減政策はとられていない。平成十七年の地球温暖化対策の推進に関する法律(平成十年法律第一一七号。以下「温対法」とする。)の改正によって、第二十一条の二以下で、大口排出事業所(運輸、荷主は事業者)の温室効果ガスの排出量を、事業所ごと、ガスごとに、算定・報告・公表する制度が導入された。このことにより、温暖化政策の策定、進捗管理のための情報基盤の整備と排出情報の「見える化」などにより温室効果ガス排出量の削減を図っていくことが期待される。
 ただし、第二十一条の三では「権利利益の保護に係る請求」を規定し、温室効果ガス算定排出量の情報が公にされることにより、当該特定排出者の権利、競争上の地位その他正当な利益が害されるおそれがあると思料するとき、大口排出事業所または事業者である「特定排出者」は理由を付して、温室効果ガス算定排出量を事業所ごとに合計した量、すなわち会社の全体排出量をもって通知する請求を行い、事業所管大臣がその請求を認めるかどうかを決定することとなっている。
 一方、「地球温暖化対策の推進に関する法律第二十一条の三における権利利益が害されるおそれの有無の判断に係る審査基準について」(平成十九年四月二日付。以下「審査基準」とする。)によれば、「報告に係る温室効果ガス算定排出量の情報が通常一般に入手可能な状態にある場合には、又は通常一般に入手可能な情報から当該報告に係る温室効果ガス算定排出量の情報を容易に推測可能な場合には、『公にされることにより、権利利益が害されるおそれ』がないものと判断される。」とされている。
 平成二十年三月二十八日に、環境省および経済産業省は、温対法に基づく温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度による、平成十八年度排出量をとりまとめ、公表した。このとりまとめを見ると、対象となる特定事業所排出者一万四千二百二十四事業所のうち、三十六事業所については事業所ごと、ガスごとの公表はなかった。即ち、十四社三十六事業所が事業所管大臣に対し「権利利益の保護に係る請求」を行い、所管大臣がこれを認め、エネルギー起源二酸化炭素排出量、非エネルギー起源二酸化炭素排出量、温室効果ガス排出総量のいずれかを非開示とした。
 ところが、特定非営利法人気候ネットワークの調べによれば、これら三十六事業所のうち、六事業所は地方自治体の条例によって温室効果ガス排出量について個別または和が開示され、うち五事業所は地方自治体のホームページにおいて、その開示情報を見ることができる。また、残り一事業所についても工場に出向けば排出量を閲覧することができる。
 地方自治体のホームページで公表され閲覧できる、あるいは工場で閲覧できる「温室効果ガス算定排出量の情報」は先述の「審査基準」でいうところの「通常一般に入手可能な状態にある」といえ、あらためて国から公表されたとしても、「当該特定排出者の権利、競争上の地位その他正当な利益が害されるおそれがある」とは考えられない。
 そこで、以下のとおり質問する。

一 前記三十六の事業所が、温対法第二十一条の三第二項に基づき、非開示の請求を行うにあたり付した理由はどのようなものか、事業所ごとに、明らかにされたい。

二 当該特定排出者の事業所管大臣が、前記三十六事業所による権利利益の保護に係る請求を認めるにつき、「当該特定排出者の権利、競争上の地位その他正当な利益が害されるおそれ」があると判断した具体的不利益の内容はどのような不利益であるか、事業所ごとに明らかにされたい。

三 事業所管大臣は、いくつかの事業所の排出量が地方自治体の条例に基づいて公表されていることを認識した上で、非開示としたのか。もし、認識していなかったとすれば、事業所管大臣は、地方自治体の条例と条例による公表の実態について、これまで調査を行ったことがあるか。調査していなかったとすれば、その理由は何か、明らかにされたい。

四 事業所管大臣は、地方自治体の条例で公表されていることを認識して非開示としたのであれば、「審査基準」に反することとなるが、そのような判断をした理由は何か、示されたい。

五 「審査基準」以外に、「当該特定排出者の権利、競争上の地位その他正当な利益が害されるおそれ」があるかどうかを判断する基準があれば示されたい。

六 前記三十六事業所以外に「権利利益の保護に係る請求」を行った特定排出者はあったのか。あった場合には、所管大臣ごと、業種ごとに数を明らかにされたい。また、その場合、事業所管大臣が非開示請求を認めなかった理由は何か、示されたい。

  右質問する。