質問主意書

第169回国会(常会)

質問主意書


質問第一一二号

サハリン(旧樺太)少数民族戦没者の戦後補償に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十年四月二十二日

紙 智子   


       参議院議長 江田 五月 殿



   サハリン(旧樺太)少数民族戦没者の戦後補償に関する質問主意書

 サハリン(旧樺太)少数民族戦没者の戦後補償に関し、以下のとおり質問する。

一 二〇〇〇年三月二十四日、衆議院厚生委員会で児玉健次衆院議員(日本共産党)がサハリンの少数民族に対する日本の戦後責任問題で、政府の見解をただしている。児玉議員は「一九九五年一月までに把握した戦死者、戦没者、不明者等は六十名」と民族名、個人名の具体例を挙げ、「援護法を受けた方」について質問し、答弁にたった政府参考人の炭谷茂厚生省社会・援護局長は「ただいま手に持っております資料ですと、一名の方がいらっしゃいます」と答えている。

1 炭谷政府参考人が答えている一名は誰で(氏名)、何民族を指しているのか。その一名に対して政府はどのような対応をしたのか。
2 該当者はその一名だけか。シベリア抑留者の中に、前記一名と同じような条件下で、死没している者が、存在していないかどうか明らかにされたい。
3 児玉議員は、前記委員会の質問の前段部分で「樺太庁の傭人料費目予算要求書、これは昭和十九年、一九四四年のものです」と、その記述に触れながら、「対日諜者ハ三十八名ニ上リ、・・・諜者ノ殆ンドガ土人ニシテ」と紹介している。また、鈴木康生元樺太師団参謀長の著作「樺太防衛の思い出・最終の総合報告」(以下「鈴木報告」という。)によると、「一、八百高地の偵察」として、「1、鈴木は十一月上旬地誌班長等を伴い八百高地の偵察に赴いた」、「2、冬季作戦ではツンドラ地帯を重視(中略)、ツンドラ作戦では馴鹿(トナカイ)の活用が大切」と、国境大陣地構想について報告を行っている記述がある。鈴木報告やツンドラ作戦計画と、前記の樺太庁「予算要求書」にみる「諜者ノ殆ンドガ土人」は、奇しくも一致している。(土人とは当時オロッコ、現在ウィルタ、古くから馴鹿族とも呼ばれている少数民族をいう)。
 ところが、厚生労働省調査資料室は「旧軍から引き継いだ資料には、北方少数民族が従軍した記録はない」との立場であり、これは二〇〇一年二月十二日北海道新聞に報道されているほか、田中了ウィルタ協会代表らが直接同様の内容を聞いている。
 この問題は戦没者の戦後補償問題にかかわる重要事項の一つで、「記録」がないだけで済ませられる問題ではない。政府関係者は「記録がない」「わからない」状況について、どのような調査をしたのか、明らかにされたい。

二 一九九九・(一)サハリン州地域公報「サハリン、クリル周辺地域の歴史の問題」で、歴史学者ポドペチニコフ氏が「サハリン州ポロナイスク地区在住北方民族被抑圧者名簿」を作成(九九頁~一二三頁)、公表している。
 また、一九九九年三月二十四日、サハリン州社会・政治誌(州公報)は、そのことについて「ポドペチニコフの発表は公文書であり、サハリン先住民族の歴史の悲惨な悲劇を紛れもなく証明するものである。このことは、日本政府がサハリン少数民族の抑圧犠牲者への補償問題の検討に着手するだろうと確信をいだかせる」としている。
1 政府は前記ポドペチニコフ氏発表の公文書及び被抑圧者名簿によるポロナイスク地区関係四十名の「名誉回復者」とウィルタ協会調査による「名誉未回復者」三十三人について承知しているか。
2 共同通信社発信の記事が二〇〇一年二月十二日の北海道新聞、信濃毎日新聞等で詳細にわたり報道されている。政府は、「戦後補償見直し迫る資料」として北海道新聞で報道されている内容、記事について、承知しているか。また、信濃毎日新聞によれば、「北方民族も従軍か・・・戦後補償 対応迫る」、「サハリンに四十人分の裁判記録」と報道されているが、政府が旧軍から引き継いだ記録がないとする発表と、この報道は矛盾しないか。さらに、調査は、その後、進んでいるのか。調査しているとすればどのようなものか。

三 北方少数民族の人権と文化を守る組織ウィルタ協会(網走市)の会報「アルドゥ」の最新号によれば、二〇〇七年九月に田中了代表が戦没者名簿の再確認調査にポロナイスクを訪ねている。田中氏の訪問を知って市立博物館に集まったウィルタ、ニブフ、エヴエンキ、ウルチの代表に共通した質問は、「わしらの声を日本政府は知っているのか。ハツコ、マサコ、ナツコ、わしらの母さん、遺族の声、消えていった。声も小さくなってきた。日本政府はわしらのことを本気になって考えているのか・・・」悲痛な重い声を背負って帰国したという(二〇〇七年総会報告)。
 ここでいう遺族の声は、戦後補償に対する「声」である。サハリンの遺族会代表は「ミナミ(台湾)の兵隊さんは考えて、キタ(サハリン・わしら)の兄弟の問題を忘れているのか、わしらは昔の土人ではない」と厳しい目を日本政府に向けている。
 政府は、サハリン戦没者遺族会の声を聞き、遺族会代表及びウィルタ協会関係者と問題解決について、話し合う用意があるかどうか。政府の見解を明らかにされたい。

四 年々、高齢化が進んでいるサハリン戦没者遺族会の当面の願いは、「サハリン-日本への墓参と肉親との再会・交流」である。「そのことを実現させてほしい」というのが遺族会の強い要望である。すでに日本サハリン同胞交流協会(本部東京・大角芳正会長、小川峡一事務局長)が毎年実施している「墓参と肉親との再会」は、一九九〇年より昨年まで三十四回、二千人に及んでいる。その中には少数民族の遺族(戦後日本人と結婚した家族)も若干加わっている。この間、「『わしらが元気なうちに』、『一度の墓参・交流を』の声を日本政府にとどけてほしい」と、多くの遺族会代表が亡くなっている。
 政府は、先に挙げた日本サハリン同胞交流協会の実施要項を参考に、戦没者遺族会の要望に応える意思はあるのかどうか、そのことで、サハリン戦没者遺族会代表やウィルタ協会関係者と話し合う用意があるかどうか政府の見解を明らかにされたい。

  右質問する。