質問主意書

第169回国会(常会)

質問主意書


質問第一〇八号

武蔵小金井駅南口第1地区第一種市街地再開発事業についての諸問題に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十年四月十七日

川田 龍平   


       参議院議長 江田 五月 殿



   武蔵小金井駅南口第1地区第一種市街地再開発事業についての諸問題に関する質問主意書

 国土交通大臣が事業認可・権利変換計画を認可し、独立行政法人都市再生機構(以下「機構」という。)が施行している武蔵小金井駅南口第1地区第一種市街地再開発事業に関する諸問題について、以下質問する。

一 「一棟」偽装について

1 武蔵小金井駅南口第1地区第一種市街地再開発事業の「1のⅢ街区」は、すでに国土交通大臣が認可した変更事業計画上、「施設分棟」とされており、(仮称)市民交流センター、JR東日本ビル棟、一般地権者ビル棟の三棟で構成されていることが明らかである。このことは、機構が東京都や小金井市に提出した変更事業計画説明書にも明示され、小金井市議会でも「分棟」である旨が公式に説明されていることからも明らかである。平成一七年八月五日の小金井市議会駅周辺整備調査特別委員会の議事録によれば、小金井市開発課長が、事業計画変更でどの点が変更されたのかを、機構提出の資料を元に説明している。その内容は「武蔵小金井駅南口第1地区第一種市街地再開発事業の施行規定及び事業計画書の変更についてご報告をさせていただきます。(中略)(6)施設分棟に伴う建物形状の変更。1-3ゾーンの権利者調整などに伴う設計変更により、施設建築物の分棟に伴う建物の形状を変更いたしました」となっている。政府としても、同様の認識であるか、見解を示されたい。
2 機構は、一般地権者から「一般地権者ビル棟には、東京都駐車場条例に定められた駐車場附置義務台数が用意されておらず条例違反である」との指摘を受け、突然、これら三棟のビルが「一棟である」と主張し今日に至っている。これら三棟は、所有者が別々で、入口も別々で、用途も公益・商業(飲食)・商業業務とまったく異なり、ライフライン(電気・ガス・上下水道・電話線・ケーブルテレビ線)も別々に引かれることになっている。したがって、建物登記にあたっては、三棟別々に登記されるものと思われる。条例違反を免れるために、機構が、国土交通大臣が「分棟」で認可した計画を「一棟」と主張しているのは著しく不適当である。政府の見解を明らかにされたい。
3 機構は、国土交通大臣が認可した権利変換計画において「1のⅢ街区」の立体駐車場をJR東日本の「部分共用」として位置づけている。しかし驚くべきことに、機構は、東京都多摩建築指導事務所に提出した計画通知図面で、この立体駐車場を「1のⅢ街区の共用駐車場として使用する」と明記して工事開始の承認を受けている。また、機構はそのような権利変換計画に反する虚偽事実を計画通知に書きながら、立体駐車場のどの部分をどの権利者が使用するかについて「機構が関知するところではない」として、施行者責任を完全に放棄しているのである。このような権利変換計画に反する虚偽事実を東京都に提示しての着工に関して、政府の見解を明らかにされたい。
 なお、工事がすでに始まっているが、違法であるならば、都市再開発法の規定により、工事を中止させ是正を求める必要があると考えられるが、政府の見解を示されたい。
4 1のⅢ街区の四階五階部分への連絡デッキの増設及び(仮称)市民交流センターとJR東日本ビル棟との間の通路上の可動式キャノピーは、「一棟」を偽装するために行われた疑いが濃厚である。連絡デッキに関しては、その増設で連絡される一方のビルの権利者には一切の説明がなく、また可動式キャノピーに関しても、その設置で影響を受ける権利者に一切の説明がない。つまり、機構の都合で、突然増設・設置の設計変更がなされたものである。そのいずれもが、「一棟」偽装のために利用されていることは、東京都建築審査会の議事録からも明らかである。この点に関して政府は調査を行い、その結果を報告されたい。

二 保留床譲渡(売買)契約を締結しないままの着工について

1 同再開発事業で建設予定の施設には、小金井市が取得する予定の(仮称)市民交流センターが含まれる。その床は、一部が権利床だが、大方は小金井市が保留床を買う予定の保留床である。平成一九年五月二三日、小金井市職員が機構に呼び出され、市民交流センターの床売買契約書を早く締結するよう要求されているが、市側は「条件が整っていない」として締結に応じていない。締結に応じない状況は本日まで変化がないが、機構は五月二九日に工事をスタートさせている。このように保留床の処分の見通しが立たないままに工事を進めることは、機構の経営を悪化させる恐れがある。保留床が確実に処分できる材料(具体的には、小金井市議会による財産取得の議決及び小金井市との保留床譲渡(売買)契約締結)が出揃わないまま工事が行われていることに関し、巨額の血税が機構に毎年つぎ込まれていることを踏まえ、政府の見解を明らかにされたい。
2 平成一五年一一月二一日、兵庫県川西市役所で開催された「第一四回再開発塾」において、都市基盤整備公団(現・都市再生機構)理事の河崎広二氏が講演を行った。その内容は、「景気が悪くて再開発ビルをつくっても床が処分できない。だから地元市に床を買わせたいのだが、財政難で思ったようには買ってくれない。買うと約束していたのに、約束を守らない市も目立ってきた。約束を破られないような工夫が必要だ。」ということを述べている。機構が、前身の公団時代を含めて、自治体に保留床を買わせようと企図していながら、その約束を反故にされた事例及びその金額を明らかにされたい。
 また、(仮称)市民交流センターの着工に関して、小金井市長は、平成二〇年三月、市役所の誰一人として着工を承諾していない旨を答弁しているが、他用途に転用がきく商業ビルでさえ問題が多いのに、地元自治体が取得するしかない市民交流センター(五七八席の文化ホールなど)を無承諾着工することは、著しく不適当である。小金井市と機構との間で締結された「覚書」でも、工事は小金井市議会による財産取得の議決及び小金井市との保留床譲渡(売買)契約締結後に行うこととされていることも踏まえ、政府としてそれらの条件が整うまで工事を進めないよう、都市再開発法に基づいて適切な助言等を行うべきだと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。
3 本質問主意書は主として国土交通省に係るものであるが、このような、「覚書」に反する地元自治体の承諾を得ない着工は、地方自治体が、長と議会の議論に基づいて無駄な公共事業から決別することを阻害する結果を招くものであると考えられる。この点につき、地方自治の観点からも政府の所見を示されたい。
 また、地方自治体が何らかの理由で床の購入を断念した場合、途中まで進んだ工事を中止し、機構の負担で既建設分を取り壊すなどの措置が必要になると思われるので、この点につき、独立行政法人改革の観点からも政府の所見を示されたい。

三 各街区の設計変更について

1 「1のⅠ街区」「1のⅡ街区」及び「1のⅢ街区」に関して、国土交通大臣が認可した変更事業計画に関するすべての図面(各階平面図、断面図等)及び機構が東京都多摩建築指導事務所に提出して確認を受けたすべての図面(各階平面図、断面図等)及び平成二〇年三月に機構が国土交通省に提出した再度の事業計画変更申請書(すべての添付図面含む)の概要を明らかにされたい。
2 前記の図面の内、設計変更が行われたすべての箇所を明らかにされたい。なお、その内容の説明にあたっては、都市再開発法施行規則第五条第三項目の表に記載されているものとそれ以外のものを区分して明らかにされたい。

四 「1のⅢ街区」の立体駐車場の割り振りについて

 平成二〇年二月二八日の小金井市議会本会議一般質問で、議員から「1のⅢ街区にある立体駐車場が誰に何台分割り振られるかは、誰が調整するのか」との質問があった。市当局は「駐車場についての調整は機構が行なう」と答弁している。同様の答弁は、平成二〇年三月一四日の小金井市議会予算特別委員会でも行われている。この答弁は、機構が、東京都建築審査会口頭審査で、「1のⅢ街区」の駐車場を誰が使うかについて、「駐車場につきましてはほかの規約等もございますので、管理組合の中で規約を設定するという方法もございますけれども、都市再開発法の一三三条によって規約を設定するつもりでございます。」と明確に述べていることと符合する。都市再開発法第一三三条は、施行者(本件再開発事業の場合は機構)が直接、国土交通大臣に管理規約を申請して認可を取得することができるとする条文である。しかし、機構は、平成二〇年二月二六日、東京地方裁判所八王子支部に対して、駐車場の問題は「関知する所ではない」との第一準備書面を送付している。つまり東京都建築審査会に工事の適法性を認めさせるために主張した内容とまったく異なる考えを述べ立てているのである。機構が独立行政法人であることに鑑みて、再開発の権利者の権利を不安定にする事業の進め方は許されないものと考える。質問「一の3」でも述べたが、立体駐車場の割り振りに関し、施行者である機構の責任について政府の見解を示されたい。

五 特定借家人への「念書」発給問題について

 機構の現地事務所長は、一部の借家人に、従前の家賃と共益費の額で再開発ビルの床を貸す旨を約束する「念書」を発給している。権利変換計画に定めるべき事項を、そこでは定めずに個人的に約束しているのは都市再開発法上適法か、政府の見解を明らかにされたい。
 また、他の借家人には出していない「念書」を特定者にのみ発給する行為は、都市再開発法に照らして適法と言えるのか、政府の見解を明らかにされたい。
 なお、この「念書」は、機構が本来得られる家賃収入を得られず、維持管理費を回収できないことを意味するが、背任などに該当する恐れはないのか、政府の見解を明らかにされたい。
 仮に、この「念書」が反故にされた場合、所長に刑事・民事上の責任が生じることになると思われるが、政府の見解を明らかにされたい。

六 是正にあたっての適切手続の確保について

1 質問一から五までで指摘した件について、機構は、これらの問題点を是正するために、事業計画変更認可申請を行い、また、権利変換計画変更認可申請も行う予定である。言うまでもなく市街地再開発事業は、権利者を中心とした事業であるから、事業計画変更や権利変換計画変更を行うにあたっては、すべての権利者に図面なども提出しながら懇切丁寧に変更点の説明を行い、同意を得ていく努力を行うのは当然のことであると考える。政府としても、それを機構に強く指導する立場にあると考える。政府として、機構から変更認可申請が提出された場合には、そのような当然の指導をしていくものと考えて差し支えないか、見解を示されたい。
2 同再開発事業は、地権者との間で訴訟騒ぎが起きるなど混迷の度合いを深めている。機構の現地所長である久保芳弘氏は、その原因について「最初の、とっかかりのとこの考え方が、まあそもそもの全員同意型っていうんでね、そのいくら手法は、あの、縦覧型だったとしてもですね、全員同意型でやるっていう、そういう精神を持ち続ければ、こういうことにはなってない。」と深甚なる反省の弁を述べている。権利者に説明もせず、また、その承諾を得ないで変更認可申請が行われ、それを政府が安易に認可すれば、権利者不在の事業となり、混迷はいよいよ深まるものと懸念される。政府としては、機構が事業計画変更認可申請や権利変換計画変更認可申請を行った場合、権利者への説明をどのように行ったのか、また、権利者の同意を得ているのかを十分に確認すべきであり、説明を怠り、同意も得ていない変更であれば、そのようなものは認可すべきでないと考える。政府としてどのように対応するか明らかにされたい。
3 工事を始めた後で、このような是正が必要になった原因は、事業計画添付図面・権利変換計画・権利変換計画添付図面・計画通知図面等を、関係権利者に手渡さないという機構の姿勢に問題があったものと判断される。多くの人間の目で点検をしていれば、このような初歩的なミスや、変更手続を飛ばしての着工などは防止できたものと考えられる。したがって、今後、機構が事業計画変更認可申請や権利変換計画変更認可申請を行うのであれば、申請を行う前に権利者に関係書類・関係図面を全部手渡してチェックを受けるべきである。同再開発事業には、国費・都費・市費が投入されるのであるから、国民に対して計画書や図面の開示・提出を行うのは当然のことである。この点について、政府として適切に対処・指導するのか、見解を明らかにされたい。

七 国庫補助金の支出について

 同再開発事業に対して、国は、「分担金」名目で国庫補助金を支出することとなっている。平成一九年度分に関しては、「1のⅢ街区」の躯体工事などへの補助を内容としており、これまでの例によれば、年度末までの工事の進捗状況に応じて額を定め、平成二〇年五月末までに支払いを行うものと考えられる。前述のとおり法的疑義が多々存することから、事業内容や事業手続に違法な要素があれば、違法状態を是正するまでは支出を行うべきではないと考えるが、政府としてどのように対処するか明らかにされたい。

八 民事保全法第二六条の適正な運用について

 民事保全法第二六条の保全異議制度について、同再開発事業を巡っては、機構が、事業は違法だとして土地建物の明け渡しに応じない権利者に対して、明け渡し断行を求める訴訟を提起している。訴訟結果そのものは三権分立の観点から、政府の関知する所ではないと思量するが、問題は、東京地裁八王子支部が、保全異議を定めた民事保全法第二六条の趣旨を没却する運用をしている点にある。同法同条では、債務者は、「その命令(保全命令)をだした裁判所」に保全異議を申し立てることができるとされている。しかし、現在の裁判実務においては、保全命令を出した裁判官と同一の裁判官が保全異議審を審理することが多く見受けられる。保全異議制度の趣旨は、保全命令の当否について再審理を求める点にあるが、保全命令をだした裁判官が、保全異議を受けて自らの誤りを認めることを期待することは著しく困難である。現在の実務上の運用は、保全命令の当否について再審理を認めるという保全異議制度の趣旨を著しく没却した運用と言わなければならない。そもそも三審制の例外として保全命令制度が存在するのであって、保全異議に関しても細心の注意を払って運用しなければ国民の基本的人権を侵害する結果を招くことになる。
 このため、保全異議制度の趣旨を全うするため、保全異議においては、保全命令を出した裁判官とは別の裁判官が審理にあたる旨を明記する法令の改正が必要であると考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

  右質問する。