質問主意書

第169回国会(常会)

質問主意書


質問第九六号

仙台市地下鉄東西線の建設への補助金支出に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十年四月十日

川田 龍平   


       参議院議長 江田 五月 殿



   仙台市地下鉄東西線の建設への補助金支出に関する質問主意書

 平成十九年十二月十七日提出の「仙台市地下鉄東西線の建設への補助金支出に関する質問主意書」(第一六八回国会質問第九〇号)(以下「先の質問主意書」という。)に対する同年十二月二十五日の答弁書(以下「先の答弁書」という。)では、先の質問主意書で指摘した第四回パーソントリップ調査に関して、「モデル(計算方法)そのもの」と一定の条件の下に設定された「シナリオ(パラメータ)」とを意図的に混同している。更に「費用便益比」の問題に関しては、国が定めた算定方法とは異なる方法によって仙台市が導き出した一・六二という数字に基づく回答に終始し、国の計算方法によって一・〇九という数字を判示した仙台市東西線公金支出差し止め住民訴訟第一審とは異なる立場に立っている。
 同時に、公共事業に関する、認可後の費用便益比等の追跡調査については、「事業評価制度」に基づく調査結果が一部開示され、事業採択時に費用便益比一・〇以上を満たしながら、再評価の結果費用便益比が一・〇を下回り、中止された事業が、事業評価制度導入前に採択された事業も含めると、二十六事業もあったことが明らかにされた。これは、仙台市の地下鉄東西線建設事業も認可後の追跡調査で、費用便益比が一・〇を下回れば事業の中止を示唆するものである。大阪市の今里筋線、福岡市の七隈線のように、完成後に需要予測の見込み違いが露呈し、現在も巨額の赤字を生み続けている事業の存在と考え合わせるなら、先の答弁書の内容は、到底納得のいくものではない。
 ここに、先の答弁書の内容をふまえて、あらためて仙台市地下鉄東西線の建設への補助金支出に関して質問する。

一 パーソントリップの調査結果に基づくモデルとシナリオについて

 先の答弁書は、第四回パーソントリップ調査結果に関して、①モデルそのものと②シナリオ1・2・3の数値解を意図的に混同している。シナリオとはある一定の条件のものであり、モデルの精度の高さと、シナリオとして設定した条件とは独立であるということを認識しているか。

二 第三回及び第四回パーソントリップ調査において設定されている条件について

 先の質問主意書の質問二に対する答弁にある、第三回パーソントリップ調査で設定されている「将来想定される現実的な条件」とは何か。そして第四回パーソントリップ調査については、「実現可能性を考慮せずにいくつかの仮定の条件を設定」と答弁しているが、その「仮定の条件」とは何か、明らかにされたい。

三 より精度の高いモデルによる検証の必要性について

 シナリオとして設定した条件が不適切だからといって、モデルの価値を毀損するものではない。モデルの精度が高くとも、シナリオの設定が不適切ならば、得られる結果は不適切な解でしかない。精度の高いモデルが国等も関与する調査の結果得られているなら、その計算方法を用いて検証しなおす責務があると考えないか。考えないとするなら、その根拠を明らかにされたい。

四 費用便益比の計算方法について

 当時の運輸省鉄道局の監修で財団法人運輸政策研究機構から発行されている「鉄道プロジェクトの費用対効果分析マニュアル99」によれば、費用便益比を決定する時間評価値の算定には、所得接近法に基づく「利用者の時間あたり賃金(実質賃金率=年間賃金/年間実質労働時間)」(二六頁)が用いられる。しかし仙台市の場合は、平成十五年九月付けの「東西線事業許可申請関係書作成業務報告書」によると、東西線の整備効果は、国土交通省「鉄道プロジェクトの費用対効果分析マニュアル99」に基づき計測した、とされているにも拘わらず、その算定式は、時間評価値=市民純生産/仙台市就業者数(常住地ベース)/(月別労働時間×12月×60分)であり、「市民経済計算では所得として雇用者所得の他に企業所得や財産所得を勘定しているが、この額は最終的には個人に配分され帰着するものであることから、本分析では企業所得等も含めた所得を個人が最終的に総額として受け取る所得として考え、これに基づき時間評価値を求めた」とある(六七頁)。
 仙台市の場合には、国の算定式にはない「企業所得」や「財産所得」が組み込まれている。これでは、諸都市の鉄道事業同士を比較しても比較にならず、意味のある評価は不可能である。国として仙台市のこのような算定法を容認するのか。容認するのならその根拠を示し、また、独自の算定法を用いて費用便益比を計算している例を示されたい。

五 費用便益比の独自の算定方法に関する財務省の認識について

 補助金の支出においてこのような算定法をとることを財務省主計局は承知しているのか。また、国のマニュアルに示されたやり方に従うと、費用便益比は一・六二から一・〇九に下がることを財務省主計局として承知しているのか。

六 地下鉄東西線建設事業と国の適切な予算執行について

 二〇〇六年十月三日付の、財務省大臣官房文書課行政相談官からの「効率的かつ効果的な予算の執行を行っていく上で、費用対効果分析は重要な政策手段であり、その前提となる需要予測や建設費の見積り等に不適切な取扱いがあってはならないと考えている。政府としては、無駄な歳出がないよう徹底的に精査しているところであり、財務省としても、予算執行の合理化・効率化に努めてまいりたい」旨述べた電子メールがあると聞いている。財務省はこの回答の旨で当然東西線事業を見るものと考えるが、その通りか。特に、「無駄な歳出がないよう徹底的に精査しているところであり」とあるが、その精査の内容について明らかにされたい。

七 事業評価制度について

 先の答弁書における事業採択後の再評価、事後評価に関する説明によれば、東西線は、十年後に再評価の対象となるが、東西線補助金事業採択の平成十五年度から十年後の二十五年度に再評価を行なう、ということか。また、その再評価の際、費用便益比が一・〇を割れば、事業中止となることを意味しているのか。

八 「貨幣換算することが困難な効果の評価」について

 先の答弁書では、「評価に当たっては、費用便益分析とともに、貨幣換算することが困難な効果についての評価も含め総合的に行なっている」とあるが、この「貨幣換算することが困難な効果についての評価」の「対象」及び評価の際の「基準(算定法)」について、具体例を上げて明らかにされたい。また、この「評価」は、事前(採択時)評価においても行なっているものなのか。そうではないとするなら、「再評価」や「事後評価」においてのみ行なう理由を明らかにされたい。

九 中止した事業について

 先の答弁書にある、再評価の結果中止した二十六事業の名前を全て明らかにされたい。

十 事後評価の結果について

 再評価の結果中止した事業の存在については、先の答弁書で承知しているが、再評価でも問題なし(費用便益比一・〇を上回る)とされながら、事後評価で費用便益比が一・〇を下回ることが明らかになった事業は存在するか。事業評価制度導入以前に採択された事業、及び事後評価がなされていなくとも、赤字などにより予定通りの債務償還を果たせていないことが明らかな事業も含め、その総数と各事業名を明らかにされたい。

十一 「社会経済情勢の大きな変化」について

 先の答弁書は、「現時点においても予測の前提条件である社会経済情勢に大きな変化が生じていないことから、見直しを行なう必要性はないものと考えている」という言葉で結ばれている。地下鉄東西線建設事業は、仙台市の需要予測の前提に立っても、今後開業日までに東西線沿線の人口が三万二千人増えなければならない。これは、沿線に、三人家族百世帯の大型マンションが開業までの八年間に百七棟建設され、全戸入居して初めて達成される数字である。これが可能であることを示すデータは存在するのか。存在するのであれば、明らかにされたい。また、「社会経済情勢の大きな変化」とは、どの程度の変化を指すのか。財務省及び経済関連省庁の用いている指標にて、数量的に示されたい。

  右質問する。