質問主意書

第169回国会(常会)

質問主意書


質問第五九号

サンルダムに関する再質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十年二月二十九日

紙 智子   


       参議院議長 江田 五月 殿



   サンルダムに関する再質問主意書

 私が提出したサンルダムに関する質問主意書(第一六九回国会質問第一一号)に対する二月五日の答弁書(以下「答弁書」という。)は基本的な点について説明が不十分であり、また答弁内容によってさらに多くの疑問が生じているため、以下、質問する。

一 治水について

 天塩川水系河川整備計画(以下「整備計画」という。)は、「洪水による災害の発生の防止及び軽減に関しては、戦後最大規模の洪水流量により想定される被害の軽減を図ることを目標」としている。同時に、国土交通省は戦後最大規模の主要な洪水、すなわち昭和四十八年、五十年、五十六年のいずれにおいても、名寄市内の国及び地方公共団体が管理する河川の区間において、破堤、決壊が起きていないことを明らかにしている。
1 以上の事実がありながら、答弁書では「流量が河川の流下能力を超えることとなるため、破堤が起きていないとしても破堤のおそれがある」と述べている。これは戦後最大の洪水時の流量よりも目標流量を過大に設定したためではないか。「戦後最大規模の洪水流量」の被害軽減を述べながら、なぜ破堤していない堤防までが「破堤が起きる」とするような過大な流量を設定したのか、説明されたい。
2 答弁書では、昭和五十六年の誉平の流量(毎秒四千四百立方メートル)を「降雨流量等により算定した流量」と述べているが、この流量は国土交通省が実績流量に加えて氾濫量及び岩尾内ダムによる調節量を戻して得られた数値であると説明してきたものではないか。「算定した流量」と述べた理由を説明されたい。また誉平の目標流量は実際には実績流量で決めているが、真勲別と名寄大橋の目標流量は実績流量ではなく、地域の気象を考慮して設定するというその必要性を明確に説明されたい。
3 (一) 下川町三の橋地先の外水氾濫については掘削で対応するとしているが、この地点の河床は広く岩盤が続き、基岩を削り込み河床を平坦にすると二度と良好な河道環境が復元できない懸念がある。下川町の名寄川のほとんどの河床は岩盤が連続し、凹凸や溝があり複雑な流れでヤマメなどが多く生息してきた。しかし河道掘削した区間は数十年たっても平坦かつ浅くゆるやかな流れが続き、夏期の水温上昇や川水の酸素供給が十分ではない。名寄川頭首工で砂利の下流への供給が止まり、砂利がとどまり難い岩盤の露出した河床になる。これでは魚類の生息や産卵場所として悪化するだけである。名寄川頭首工から上流の外水氾濫と家屋浸水は両岸の無堤が二の橋まで続くためである。平成十八年十月の氾濫直後、住民から町と名寄河川事務所に対し、築堤の強い要望が出されており、再検討すべきではないか。
(二) 音威子府村筬島の内水氾濫対策について、同村の消防ポンプ車は三台しかなく、一台当たり毎分二・三立方メートルと排水能力も低い。同村には他にも数ヶ所の内水氾濫箇所があることをみれば排水態勢は非常に不十分である。過去に約五十五キロメートル離れた名寄河川事務所から筬島を含む音威子府村にポンプ車を出動させた実績があれば、出動場所と氾濫面積、排水に要した時間、被害状況を説明されたい。また名寄河川事務所保有のポンプ数、ポンプ車数とそれぞれの排水能力を答弁されたい。さらに、同事務所から筬島への出動は約一時間要することから、筬島地区への排水機場設置は治水対策上、不可欠であり検討すべきではないか。検討しない場合はその理由を答弁されたい。

二 利水について

 答弁書では、サクラマスの遡上期間を「八月から十月」としているが、実際には毎年五月から十月にかけてサクラマスは名寄川及びサンル川に遡上しており、基本的な認識が不十分である。
1 (一) 答弁書ではサケ・マスの産卵等に必要な流量について、「既往文献及び学識経験者の意見」と述べている。具体的な既往文献名、学識経験者名とその意見を示されたい。
(二) 整備計画では、真勲別の1/10渇水時において流水の正常な機能を維持するために必要な非かんがい期の流量を毎秒五・五立方メートルとしており、その高い流量が稚仔魚に与える影響について前回質したが、答弁書では非かんがい期とは関係のない「低水流量」を述べている。質問に答弁されたい。
(三) ヤマメの生息数が低い原因が洪水であることは開発局も認めているが、渇水によりヤマメ生息数が低くなった事例があるか、示されたい。
(四) 真勲別における1/10渇水流量は毎秒二・五八立方メートルだが、整備計画が「非かんがい期に毎秒五・五立方メートルの流量がなければサケ・マス資源に悪影響を与える」と判断した根拠を示されたい。
 また、サケ・マス類は自然の川と流量をさらに利用する本能がある。産卵場所は増水・渇水の影響を受けにくい場所を選び、ふ化後も集団で成長するため安全な場所に移動する。ふ化した稚魚は流れの弱いところで春を待つが、非かんがい期に流量を増加するとふ化率や稚魚に悪影響を与える懸念がある。非かんがい期に流量を増加させる根拠を示されたい。かんがい期における渇水時に、サクラマスは深みで待機し、大雨の機会を捉えて遡上している。「サケ・マス類のため」として人為的に水量を管理する必要性はほとんどないのではないか。見解を示されたい。
(五) 整備計画で示されている流量を維持したいのは「サケ・マス類のため」ではなく、中名寄水田地帯への上名寄頭首工からの夏期における水供給量のための増量にあるのではないか。この地域の水田農家からの要請があるか明らかにされたい。
2 サンルダム建設目的と整備計画には、名寄川からの農業用取水について具体的に示されず、流域委員会においても示されず論戦もなかった。
(一) 中名寄水田地帯の基盤整備事業の予定があるが、水田面積が大きく増加することはなく、水田の大型化や水路の新たな整備が主体ではないか。地元農家からは「現在使われている水路は老朽化し、継ぎ目から漏水しているなど効率的に水を供給できない」と指摘されており、基盤整備事業の中でこの問題を解決すべきではないか。
(二) 水稲農家が夏期水量に不安があるのであれば、現地にすでにあるように土地の高い位置に雨水や地下水を貯める貯水池埋設などの方法で対応すべきではないか。
3 (一) サンル水位流量観測地点における、水深三十センチメートル、流速毎秒二十センチメートルと設定した場合の流量を説明されたい。また、六月から八月に毎秒〇・二立方メートルの流量を流す予定だが、これは水深三十センチメートル、流速毎秒二十センチメートルと仮定すると、幅三・三メートルの魚道を想定しているのか。
 答弁書では、サクラマスの遡上期間を「八月から十月」としているが、実際には毎年五月から十月にサクラマスは名寄川及びサンル川に遡上している。五月から七月は毎秒〇・二立方メートルを魚道に流さない計画なのか。答弁されたい。
 サケやサクラマスは流量が多く集中している位置を好んで遡上する。魚道の流量は毎秒〇・二立方メートルと少なく、発電などによる放流量の方が多いと魚道入り口を探し当てることが難しい。魚道流量毎秒〇・二立方メートルは最大流量なのか、常に一定量を流す安定流量なのかを示すとともに、年間の魚道・発電等放流量の種別による推移を示されたい。
(二) 答弁書によると、岩尾内ダム下流の無水期間改善のための七月から十月の毎秒〇・八立方メートルの放流計画は発電事業者による工事のため停止となっている。このような事業者の動向に左右される放流計画では岩尾内ダム下流取水堰三箇所に魚道を設置しても、サクラマス等の遡上・産卵の障害になるばかりか、産卵しても河床が乾いたり放流で流される危険性があり劣悪な河川環境は改善されないのではないか。
 また新たに造る三箇所の魚道と既存の魚道がサクラマス等の遡上・降下に十分機能するのか。遡上した場合、上流域には十分な産卵床が確保され、稚魚・幼魚の育成環境が確保されるのか、答弁されたい。

三 サクラマスへの影響について

 答弁書が述べている魚道の効果についての「機能を確認している」などの文言は具体的根拠が示されず、サクラマスへの影響の評価自体が無責任なものになりかねない。
1 (一) 答弁書では魚道の効果について「二風谷ダムの魚道においては、サクラマスの遡上及び降下の機能を確認している」と述べているが、機能を確認している状態を具体的に示されたい。また「魚道がサクラマスの遡上及び降下の機能を確認している」とは、魚道設置によりサクラマス資源は減少しなかったことと解してよいか答弁されたい。
(二) 魚道の遡上または降下の機能が十分に確保されているかについては、どのような基準で判断するのか示されたい。
(三) サンルダムの建設によるサクラマスへの影響をどのように判断するのか、示されたい。魚道の機能についての判断は、現在開催されている魚類専門家会議が行うのか、説明されたい。
 魚道が十分機能しているか不十分かの判断は国土交通省が行うのではなく、漁業者、環境保護団体、専門家を加えた独立した第三者機関を設置して行うべきと考えるが見解を示されたい。
2 (一) 恒久的対策の効果が把握されなかった場合の対応について、明確に答弁されたい。
(二) 流域委員会意見の「事前の段階から必要に応じて試験を行い」は、ダム建設の前から試験を行いという意味と考えられる。しかし、答弁書では、恒久的対策の効果が把握されるまでダム建設を行わないという意見ではないと考えている旨を述べているが、これは効果があってもなくてもダムを建設するという意味なのか。これはサクラマスがどうなろうとも、ダムを建設するということなのか明らかにされたい。
 答弁書が「事前の段階からの試験」とする「天塩川において調査のための魚道施設」は、風連二十線えん堤及び岩尾内ダム下流三箇所又は四箇所の取水堰を想定しているのか、答弁されたい。

四 建設費について

1 答弁書では「サクラマス幼魚の降下対策として管路等を利用するバイパス方式等を想定」とあるが、すでにバイパス方式を採用しているダムがあればいつから実施しているか示されたい。またその方式の実績評価を説明されたい。
2 平成十九年度以降に計画されている魚道を含むダム費の内訳(基礎工事、堤体、魚道、その他)を示されたい。また、今後の予定調査費、取り付け道路費用を示されたい。

五 住民、関係団体への説明について

 説明資料や開発局の見解をホームページに掲載することと、サンルダムに関心をもつ団体に直接説明し、話し合いを行うことは別のことである。昨年の答弁書(平成十九年十二月二十八日、内閣参質一六八第一〇〇号)では「すべての関係団体の理解を得ているものとは認識していないが、引き続き理解が得られるよう努力してまいりたい」と述べている。サンルダムに疑問を持ち、あるいは自然環境への重大な影響を懸念している市民や団体に対する説明責任をどう果たしていくのか、改めて答弁されたい。

  右質問する。