質問主意書

第169回国会(常会)

質問主意書


質問第二九号

厚生労働省が検討中の「医療事故(安全)調査委員会」(仮称)の設置に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成二十年二月十三日

辻 泰弘   


       参議院議長 江田 五月 殿



   厚生労働省が検討中の「医療事故(安全)調査委員会」(仮称)の設置に関する質問主意書

 医療崩壊とさえ言われる今日の医師不足問題は、多くの国民が抱いている最大の不安と言っても過言ではない。
 政府は、これまで医師不足問題の背景として、「大学医学部(医局)の医師派遣機能の低下」、「診療科による偏在、地域による偏在」、「病院勤務医の過重労働」、「出産・育児による離職が避けられない女性医師の増加」などを挙げ、それらの解決に向けての対策を提唱してきたが、いずれも不十分な施策にとどまり、抜本的な解決策と言うには程遠く、国民の不安を解消するには至っていない。
 のみならず、医師不足問題の背景の要因として挙げてきた「医療にかかる紛争の増加に対する懸念」に対しても、政府が、医療の現場で日夜努力している医療従事者の切実な思いに十分応えることなく、刑事司法の過剰な介入を排除する努力を全く行わないまま、むしろ不安・不信を増幅させていることは由々しき事態である。
 医療行為には常にリスクが伴い、通常の判断に基づいて導かれる措置と献身的な努力によっても、なおかつ時によっては死の招来を免れることのできない宿命を背負っている。
 今日の医師不足問題の根源とも言うべき要因を除去し、医療従事者の萎縮やリスク回避のための責任放棄などの不本意な行動につながらないよう、万全を尽くすことが政府に求められている。
 このような観点から、以下質問する。

一 厚生労働省が現在検討中の「医療事故(安全)調査委員会」(仮称)に類似した公的組織を有する諸外国の例はあるか。あればその詳細を示されたい。

二 厚生労働省が現在検討中の「医療事故(安全)調査委員会」(仮称)を公的に創設するのであれば、一定の届出範囲を規定した上での同委員会への届出によって、医師法二十一条に基づく届出を不要とすべきものと考えるが、これに対する政府の見解を示されたい。

三 厚生労働省が現在検討中の「医療事故(安全)調査委員会」(仮称)を公的に創設するのであれば、遺族等からの医療事故の届出、調査等に関する相談については、同委員会が統一的かつ第一義的な窓口となるべきものと考えるが、これに対する政府の見解を示されたい。

四 厚生労働省が現在検討中の「医療事故(安全)調査委員会」(仮称)による「調査報告書」の作成にあたっては、客観性、公正性を貫くべく、事案の直接の当事者を関与させることなく、医療の専門家による調査・分析を行った後に、それを基にして、法曹界、患者・遺族の立場の代表者等が参加し、議論する中で取りまとめていくべきものと考えるが、これに対する政府の見解を示されたい。

五 厚生労働省が現在検討中の「医療事故(安全)調査委員会」(仮称)が捜査機関に通知を行うべきとする場合の要件については、常にリスクに直面しながら、最善の努力を傾注することが求められている医療従事者の立場に十分配慮し、慎重な検討の下に限定的な規定とすべきものと考えるが、これに対する政府の見解を示されたい。

六 厚生労働省が現在検討中の「医療事故(安全)調査委員会」(仮称)を公的に創設する場合には、そもそも医療、医療従事者を監督する立場にある厚生労働省の下に置くのではなく、他の公的機関の下に置き、中立性を担保すべきものと考えるが、これに対する政府の見解を示されたい。

七 厚生労働省が現在検討中の「医療事故(安全)調査委員会」(仮称)など新制度の創設は、国民と医療従事者等に極めて大きな影響を及ぼすものであり、かつ、制度の運営において医療従事者の積極的な協力なしには成り立たないものであることに鑑み、関係者の意見を十分聴取した上で進めるべきであり、拙速な制度化・立法化は厳に慎むべきものと考えるが、これに対する政府の見解を示されたい。

  右質問する。