質問主意書

第168回国会(臨時会)

答弁書


答弁書第一〇七号

内閣参質一六八第一〇七号
  平成二十年一月十五日
内閣総理大臣 福田 康夫   


       参議院議長 江田 五月 殿

参議院議員川田龍平君提出治験・臨床研究における被験者保護と適正な研究の推進に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員川田龍平君提出治験・臨床研究における被験者保護と適正な研究の推進に関する質問に対する答弁書

一について

 御指摘の報告書において指摘されている「臨床研究における健康保険の併用」については、現在、厚生労働省の関係部局において、国内未承認の薬物・機械器具を用いた先進的な医療技術による診療と保険診療との併用について検討を行っているところである。
 また、「被験者への補償を可能にする被験者保護制度の確立」については、平成十九年八月から開催している厚生科学審議会科学技術部会臨床研究の倫理指針に関する専門委員会(以下「専門委員会」という。)において、被験者への補償を含め、臨床研究による健康被害の救済の在り方について検討が行われているところである。
 さらに、臨床研究全体に関するICH-GCPへの準拠を原則とした法律に基づいた実施基準の策定については、平成十九年九月に開催された専門委員会において、有識者からの意見聴取を行ったところであり、引き続き、専門委員会において検討を行うこととしている。

二の1について

 御指摘の上申書については、臨床試験における被験者保護法制定の必要性を上申しているものと承知しているが、厚生労働省の「治験のあり方に関する検討会」、「未承認薬使用問題検討会議」、「先進医療専門家会議」等並びに文部科学省の「生命倫理・安全部会」、「特定胚及びヒトES細胞研究専門委員会」及び「人クローン胚研究利用作業部会」は、臨床試験における被験者保護の在り方について検討を行うことを目的としていないため、これらの委員会等において、御指摘の上申書についての検討は行っていない。
 厚生労働省としては、臨床研究に関する倫理指針(平成十六年厚生労働省告示第四百五十九号。以下「倫理指針」という。)において、倫理指針について、必要に応じ、又は平成二十年七月三十日を目途としてその全般に関して検討を加えた上で、見直しを行うものとされていることから、御指摘の上申書において上申されている臨床試験における被験者保護法制定の必要性についても倫理指針の見直しの際に検討を行うこととしていたものである。

二の2について

 政府としては、御指摘の裁判において、薬事法(昭和三十五年法律第百四十五号)上の同意取得義務がないことから被験者からのインフォームドコンセントは必要ないと主張したわけではなく、当該裁判に係る事案における治療法は、一般診療として行われたものであって、ランダム化比較試験に該当せず、その実施に当たっての説明義務も一般的な診療契約上の説明義務と同様に考えるべきである旨を主張したものであり、この主張は、市民的及び政治的権利に関する国際規約(昭和五十四年条約第七号)第七条の規定の趣旨に反するものではないと理解している。

三の1について

 厚生労働省としては、御指摘の神戸市の事例については、倫理指針の内容の妥当性に疑義を生じさせるものではなく、当該事例の発生により、倫理指針の見直しを行う必要性があるとは認識していないことから、専門委員会の具体的な検討の対象とはしていない。今後、専門委員会において必要があると認められる場合には、検討を行うものと考えている。

三の2について

 御指摘の全国調査については、専門委員会の開催に先立って実施した意見募集において、当該調査に係る意見提出があったことを踏まえ、平成十九年八月に開催された専門委員会において、当該調査の内容について議論がなされている。当該調査については、引き続き、必要に応じて、専門委員会において検討を行うこととしている。

三の3について

 厚生労働省においては、倫理指針の改正の検討に資するため、御指摘の五病院に対する予備調査を実施したところであるが、倫理指針の遵守状況に関する調査については、できるだけ多くの病院の協力を得ながら継続してまいりたい。また、当該調査に応ずるか否かについては、対象病院の任意によることとしているが、今後、できるだけ多くの病院について調査を行うための方策について検討を行ってまいりたい。

三の4について

 倫理指針は、過去の非倫理的な人体実験の反省に基づき、医学研究の倫理規範として、世界医師会において取りまとめられた「ヘルシンキ宣言」及び医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(平成九年厚生省令第二十八号)等を踏まえて制定されているものである。倫理指針の遵守状況については、できるだけ多くの病院の協力を得ながら継続して調査を行い、その結果については、本年夏に倫理指針の改正について結論を出すこととしている専門委員会の議論に活用してまいりたい。

四の1について

 御指摘の医薬品を用いる臨床試験を規制する法律が必要であるとの意見については、臨床研究を法的規制の対象とすることにより、患者のニーズに柔軟に対応した研究の円滑な推進に支障が生じる恐れもあること等から、薬事法を始めとする関係法との整理も含め、慎重に検討すべきものと認識している。

四の2について

 御指摘の厚生労働省医政局研究開発振興課による回答は、米国、英国及びフランスに関する調査結果に基づき、これら三か国のうち、臨床研究に対する包括的な規制を行う法律が存在するのはフランスのみであることを述べたものである。御指摘のその他の国における状況については、引き続き、情報収集に努めてまいりたい。

五について

 お尋ねの「両大臣の合意の論拠となった判断」の意味するところが明らかでないため、これについてお示しすることは困難であるが、御指摘の合意においては「患者の選択肢を可能な限り拡大する観点から、個別の医療技術ごとに実施医療機関について審査を行った上で、国内未承認の薬物・機械器具を用いた先進的な医療技術に関する保険診療との併用を認める枠組みを創設することにより、新たな条件整備を行う」こととされており、現在、これに基づき、厚生労働省の関係部局において、国内未承認の薬物・機械器具を用いた先進的な医療技術による診療と保険診療との併用について、患者の選択肢の拡大と患者の保護に十分留意しつつ、安全性、有効性等が確保されるよう検討を行っているところである。