質問主意書

第168回国会(臨時会)

答弁書


答弁書第八〇号

内閣参質一六八第八〇号
  平成十九年十二月十八日
内閣総理大臣 福田 康夫   


       参議院議長 江田 五月 殿

参議院議員福島みずほ君提出国連の拷問禁止委員会の勧告に対する政府の対応及び入国管理局での収容実態等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員福島みずほ君提出国連の拷問禁止委員会の勧告に対する政府の対応及び入国管理局での収容実態等に関する質問に対する答弁書

一の1の(一)について

 入国管理局の収容施設に収容されている被収容者は、被収容者処遇規則(昭和五十六年法務省令第五十九号)に基づき、自己の処遇に関する入国警備官の措置に不服があるときは、所長等にその旨を申し出ることができ、また、不服の申出について所長等の判定に不服があるときは、法務大臣に対し異議を申し出ることができる制度が整備されており、これにより処遇の適正を図ることが可能であるので、あえて不服の申出に関して独立した審査機関を設ける必要はないと考えている。
 また、入国管理局の収容施設は、退去強制事由に該当する者を退去させるという行政目的実現のために外国人の身柄を一時拘束するための施設であり、刑事施設とは目的・性格が異なるものであるが、入国管理局の収容施設も身柄を拘束する施設であるという点では、刑事施設と共通していることから、法務省としては、刑事施設視察委員会の運用状況等をも参考にし、御指摘のような機関を設けることの是非を含め、検討してまいりたい。

一の1の(二)について

 上陸防止施設は、上陸許可を受けることができなかった外国人が直ちに本邦から出国することができないと認められるときに、出国するまでの間、短期間とどまるための施設であり、入国管理局の収容施設とはその性格を異にしていることから、上陸防止施設を対象として御指摘のような機関を設けることは考えていない。

一の2の(一)について

 平成十九年十月一日現在、入国管理局の収容施設に収容されている外国人は千六百五十三人である。これを収容期間別で見ると、半年未満が千五百三十五人、半年以上一年未満が九十一人、一年以上一年半未満が二十三人、一年半以上二年未満が四人であり、二年以上収容されている者はいない。
 なお、右に述べた収容期間別の人数は、平成十九年十月一日現在で収容されている外国人の当該収容施設における収容期間別の人数であり、お尋ねのように「施設を移された場合は、収容期間を合算して」お示しすることは、その調査に膨大な作業を要することから、困難である。

一の2の(二)について

 出入国管理及び難民認定法(昭和二十六年政令第三百十九号。以下「入管法」という。)において、退去強制令書が発付された者については、速やかに送還しなければならず、直ちに送還することができないときは、送還可能のときまで収容所、収容場等に収容することができる旨が定められている。
 また、長期間にわたって送還できない場合や、収容期間の長短を問わず、年齢、健康状態等にかんがみ人道的配慮を要する場合には、個々のケースに応じ、仮放免制度を弾力的に運用し、一時的に身柄の拘束を解くという措置をとっており、これにより、収容期間の長期化の防止を図ることができると考えているところ、他方、仮に退去強制令書発付後の収容期間の上限を制度的に設けるとなると、逃亡のおそれ、違法な就労等の開始、送還時の身柄の確保の困難化等の種々の問題への対応が難しくなるものと考えている。

二の1について

 退去強制手続における収容は、退去強制事由の有無の審査を円滑に行い、退去強制処分が確定したときには被退去強制者の送還を確実に実施するため、その身柄を確保するとともに、被退去強制者の本邦における在留活動を禁止する目的から行っているものである。
 児童の権利に関する条約(平成六年条約第二号。以下「児童の権利条約」という。)第三条は、公共の利益等を考慮に入れた結果、児童の不利益になるような措置がとられることを必ずしも排除するものではないと解されるので、右のような目的から行う退去強制手続における収容は、同条に違反しないものと考えている。
 一般に、入管法第六十一条の二に規定する「難民である旨の認定」(以下「難民の認定」という。)を受けた児童については、退去強制手続により収容されることはない。児童の権利条約第二十二条は、「適当な保護」及び「適当な措置」をとると規定するにとどまるので、難民の認定を申請した児童について、右に述べた目的から行う収容がなされたとしても、同条に違反するものではないと考えている。
 児童の権利条約第二十八条に規定する「教育についての児童の権利」は絶対的なものではなく、これに対する合理的な制限は許容されると解されており、退去強制手続における収容により、教育を利用する機会等が制限されたとしても、同条に違反するものではないと考えている。
 児童の権利条約第三十七条(b)に規定する「逮捕、抑留又は拘禁」とは、刑罰法規に違反したことを理由として自由をはく奪することを、同条(c)に規定する「自由を奪われたすべての児童」とは、刑罰法規に違反したことを理由として自由をはく奪された児童をそれぞれ指していると解されており、入国管理局の収容施設に児童を収容することは、同条(b)又は(c)に違反するものではないと考えている。
 なお、収容令書又は退去強制令書の執行に際しては、年齢、健康状態等にかんがみ、人道的配慮を要する場合には、仮放免を許可するなど、児童の最善の利益にも十分配慮した運用を行っている。

二の2について

 法務省としては、児童については、一般に可塑性に富むものであって、本邦において日本語による生活環境の中で過した場合にあっても、本国において母国語を解する親の監護・養育を受けることを考慮すれば、時の経過とともに本国における生活環境に慣れることは十分に可能であると考えているところ、児童の年齢等によっては、それが難しい事案もあることもあり、在留特別許可の許否に当たっては、個々の事案ごとに、在留を希望する理由、家族状況、生活状況等のほか、当該児童の言語習得状況も含めた諸般の事情を総合的に勘案して、判断することとしている。

二の3について

 退去強制手続における収容の目的は二の1についてで述べたとおりであり、御指摘のような人権上の問題があるとは考えていない。
 また、児童の権利条約第九条1について、我が国は、「出入国管理法に基づく退去強制の結果として児童が父母から分離される場合に適用されるものではないと解釈するものであることを宣言」していることから、同条に抵触するとの御指摘は当たらない。

二の4及び5並びに三の1から3までについて

 お尋ねについては、調査に膨大な作業を要することから、お答えすることは困難である。

三の4について

 退去強制手続の目的は、被退去強制者を確実かつ迅速に送還することであり、そのため被退去強制者を原則として収容した上で退去強制手続を進めることとしているが、被退去強制者の個々の事情を考慮し、年齢、健康状態その他の理由により人道上配慮を必要とする場合には、妊婦、子供等に限らず、仮放免制度を弾力的に運用し対応しており、御指摘のような「第三者的な判断により収容の執行停止が可能なシステム」を設ける必要はないものと考えている。
 しかしながら、法務省としては、御指摘のような者に対する配慮が必要であることを踏まえて、仮放免の許否に当たっては、これまで以上に被退去強制者の個々の事情を考慮し今後とも適正に対処してまいりたい。

四の1について

 平成十三年以降において講じた、年別及び収容施設別の被収容者に対する主な処遇の改善状況は、次のとおりである。
 平成十三年には、東日本入国管理センター、西日本入国管理センター及び大村入国管理センターにおいて臨床心理士によるカウンセリングの導入、西日本入国管理センターにおいて居室扉を開放することにより多目的ホール等を利用させ収容区画内を自由に行動することを認める開放処遇の時間の延長を行った。
 平成十四年には、東日本入国管理センターにおいて開放処遇時の電話使用の自由化、西日本入国管理センターにおいて戸外運動時間の延長、開放処遇回数の増加及び時間の延長並びに入浴回数の増加、東京入国管理局において被収容者の居室単位による分煙収容、東京入国管理局横浜支局、名古屋入国管理局及び大阪入国管理局神戸支局においてテレビ視聴の自由化を行った。
 平成十五年には、東日本入国管理センターにおいて入浴回数の増加、西日本入国管理センターにおいて開放処遇時間の延長並びに開放処遇時の電話使用、入浴及び洗濯の自由化、大村入国管理センターにおいて開放処遇時の電話使用の自由化、東京入国管理局においてテレビ視聴の自由化、開放処遇の実施、開放処遇時の電話使用、入浴、洗濯及び戸外運動の自由化、被収容者による貴重品保管のための貴重品ロッカーの提供開始並びにテレホンカード及び清涼飲料水の自動販売機の設置、東京入国管理局成田空港支局において被収容者による貴重品保管のための貴重品ロッカーの提供開始、大阪入国管理局関西空港支局及び広島入国管理局においてテレビ視聴の自由化を行った。
 平成十六年には、東日本入国管理センターにおいて被収容者による貴重品保管のための貴重品ロッカーの提供開始、看護師等による被収容者健康相談の実施及びテレホンカードの自動販売機の設置、西日本入国管理センターにおいて被収容者による貴重品保管のための貴重品ロッカーの提供開始、大村入国管理センターにおいて被収容者による貴重品保管のための貴重品ロッカーの提供開始及び清涼飲料水の自動販売機の設置、大阪入国管理局、大阪入国管理局関西空港支局、大阪入国管理局神戸支局及び福岡入国管理局において被収容者による貴重品保管のための貴重品ロッカーの提供開始を行った。
 平成十七年には、東日本入国管理センターにおいて一般面会室の増設、西日本入国管理センターにおいて清涼飲料水及びテレホンカードの自動販売機の設置、名古屋入国管理局において開放処遇の実施、開放処遇時の電話使用、入浴及び洗濯の自由化、テレホンカードの自動販売機の設置並びに被収容者による貴重品保管のための貴重品ロッカーの提供開始を行った。
 平成十八年には、東京入国管理局成田空港支局において電話使用及びテレビ視聴の自由化並びに入浴回数の増加を行った。
 平成十九年には、西日本入国管理センターにおいて常勤医師による定期健康診断の実施、東京入国管理局において看護師による健康カウンセリングの実施、大阪入国管理局において入浴回数の増加を行った。

四の2について

 被収容者処遇規則第二条の二に規定する意見聴取制度については、被収容者から処遇に関する意見を聴取するためすべての収容施設内の適切な場所に施錠可能な意見箱を設置するとともに、各収容施設の実情に応じて、英語、中国語、韓国語、タイ語、スペイン語、ポルトガル語、ベトナム語、ロシア語、フランス語、トルコ語、ペルシャ語又はミャンマー語で意見聴取制度に関する必要な事項を記載した案内文を収容施設内の意見箱の設置場所付近等に掲示したり、居室内に冊子として備え置いたり、被収容者から問い合わせがあった場合に意見聴取制度に係る説明を行うなどして、被収容者に対する周知を図っている。
 収容施設別に見ると、その実情に応じて、大村入国管理センター及び札幌入国管理局では一か国語、広島入国管理局下関出張所では二か国語、大阪入国管理局、大阪入国管理局神戸支局、大阪入国管理局関西空港支局、広島入国管理局、高松入国管理局及び福岡入国管理局鹿児島出張所では三か国語、西日本入国管理センター、東京入国管理局横浜支局、福岡入国管理局及び福岡入国管理局那覇支局では四か国語、東日本入国管理センター、名古屋入国管理局及び名古屋入国管理局中部空港支局では六か国語、仙台入国管理局では八か国語の案内文によりそれぞれ被収容者に周知している。
 なお、東京入国管理局においては、案内文を掲示したり冊子として備え置いたりせず、意見箱に英語で「オピニオン・ボックス」と記載し、被収容者から問い合わせがあった場合はその説明を行っており、東京入国管理局成田空港支局においては、日本語による案内文の掲示をしているところ、早急に外国語による案内文を掲示し又は冊子として備え置くこととしているところである。
 被収容者処遇規則第四十一条の二に規定する不服申出制度については、各収容施設の実情に応じて、英語、中国語、韓国語、タイ語、スペイン語、ポルトガル語、べトナム語、ロシア語、フランス語、トルコ語、ペルシャ語、ミャンマー語又はタガログ語で不服申出制度に関する必要な事項を記載した案内文を収容施設内に掲示したり、居室内に冊子として備え置いたり、被収容者から問い合わせがあった場合は不服申出制度に係る説明を行うなどして、被収容者に対する周知を図っている。
 収容施設別に見ると、その実情に応じて、大村入国管理センターでは二か国語、広島入国管理局及び高松入国管理局では三か国語、仙台入国管理局では八か国語、東京入国管理局成田空港支局では十か国語、西日本入国管理センター、東京入国管理局、大阪入国管理局及び大阪入国管理局神戸支局では十一か国語、東日本入国管理センター、東京入国管理局横浜支局、名古屋入国管理局、福岡入国管理局、大阪入国管理局関西空港支局、名古屋入国管理局中部空港支局、福岡入国管理局那覇支局及び福岡入国管理局鹿児島出張所では十二か国語の案内文によりそれぞれ被収容者に周知している。
 なお、広島入国管理局下関出張所においては、案内文を掲示したり冊子として備え置いたりせず、収容手続を行う際に当該被収容者が使用する言語に応じた案内文を記載した文書を配布しているところである。

四の3について

 入国管理局の収容施設に新たに収容される者については、収容手続の際、その全員に対して健康状態に関する質問をしてその健康状態を把握しており、診療が必要と認められる者に対しては、収容施設又は外部の病院の医師による診療を実施することとしている。
 また、東日本入国管理センターにおいては、被収容者について、身長、体重、体温、血圧及び脈拍測定を行うとともに、看護師等によるアレルギーの有無や既往症等を聴取する健康相談を実施し、その結果、医師が必要と認めた場合には診察を実施している。西日本入国管理センターにおいては、被収容者について、体重、体温並びに四十歳以上の者及び高血圧罹患者に対する血圧測定を行った上で、医師が必要と認めた場合には診察を実施している。大村入国管理センターにおいては、被収容者について、身長、体重、医師の問診並びに四十歳以上の者に対する血圧測定及び胸部レントゲン検査を行い、その結果に応じて必要な診察を実施している。

四の4について

 戒具は、被収容者が逃走するおそれ等があり、かつ、ほかにこれを防止する方法がないと認められる場合に必要最小限度の範囲で使用しており、一般的には、診察中や用便中等、戒具を使用する必要がないと認めたときは、その使用を解除することとしており、そのほかにも、戒具が使用されている被収容者を公衆の目に触れさせないよう心掛けるとともに、手錠カバーを施すなど人権上の配慮に努めているところである。
 また、護送中は、逃走等を未然に防止する観点から、被収容者の行動を監視する必要があるところ、その方法等についても、人権に配慮しているところである。
 なお、東京入国管理局における御指摘のような事案については、現時点において、法務省として承知していない。

四の5について

 入国管理局が使用している「第二種捕じょう」は、被収容者処遇規則第二十条及び別表に定められているとおり、その構造、材質及び形状は、おおむね直径三ミリメートル以上十五ミリメートル以下、長さ六メートル以下の麻又は化学繊維製の縄で、かつ、縄の中芯に金属製ワイヤーを通し、縄の一端に長さ十センチメートル以下の開閉式金具を設けたものであり、護送時に被退去強制者の逃走を防止するなどのために用いられる。
 なお、刑務所、拘置所等の刑事施設においては、刑事施設及び被収容者の処遇に関する規則(平成十八年法務省令第五十七号)第三十八条及び別表第一において、第一種及び第二種の捕縄の制式が定められ、使用されている。