質問主意書

第168回国会(臨時会)

答弁書


答弁書第五三号

内閣参質一六八第五三号
  平成十九年十一月二十日

内閣総理大臣臨時代理           
国務大臣 町村 信孝   


       参議院議長 江田 五月 殿

参議院議員紙智子君提出「先住民族の権利に関する国連宣言」採択を受けた政府対応に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員紙智子君提出「先住民族の権利に関する国連宣言」採択を受けた政府対応に関する質問に対する答弁書

一の1について

 「先住民族の権利に関する国際連合宣言」(以下「宣言」という。)について、我が国は、長年にわたる議論を踏まえ、初めて国際連合(以下「国連」という。)が先住民族の権利に関して採択した宣言であるという点で重要な意義を有するものと考えている。我が国は、宣言は人権の保護に資するものと考え賛成票を投じたが、各国の政府に与える効果について一概にお答えすることは困難である。

一の2について

 「先住民族」については、現在のところ国際的に確立した定義がなく、宣言においても、「先住民族」の定義についての記述はないことから、我が国として宣言にいう「先住民族」に該当する民族がどの民族を指すのかは明らかではないと認識している。

二の1について

 御指摘の条約に「アイノ人」、「土人」といった記載があることは承知しているが、明治政府がアイヌの人々は「先住民族」であると考えていたのかに関する資料は確認されておらず、お尋ねについてお答えすることは困難である。

二の2について

 アイヌの人々が御指摘の条約の第二条(ロ)にいう「本土ノ非自立土民ニ属シ又ハ之ニ類似スル労働者」に該当すると判断されていたのかについては、同条約の締結当時の経緯が明らかではなく、お尋ねにお答えすることは困難である。また、御指摘の報告書がいかなる経緯によって作成されたのかについては、当時の報告書作成過程に関する資料が確認されておらず、お答えすることは困難である。

二の3について

 御指摘の報告書がいかなる経緯によって作成されたのかについては、当時の報告書作成過程に関する資料が確認されておらず、お答えすることは困難であるが、政府としてはアイヌの人々が、アイヌ語や独自の風俗習慣を始めとする固有の文化を発展させてきた民族であり、いわゆる和人との関係において、日本列島北部周辺、取り分け北海道に先住していたことについては、歴史的事実として認識している。
 なお、「先住民族」の定義をめぐる現状が一の2についてで述べたような状況にあることから、我が国としてアイヌの人々が「先住民族」に該当するかについて、お答えすることは困難である。

二の4について

 国連においては千九百九十二年当時だけでなく現在においても「先住民族」の確立した定義はなく、国連においていかなる民族が「先住民族」であるかについて決定が行われたことがあるとは承知していない。

二の5について

 国連の国際人権条約に関連する委員会が我が国の政府報告に対して提示した最終見解において、アイヌの人々への言及があることは承知している。個人資格の専門家によるこうした委員会からの見解はいずれも法的拘束力を有するものではないが、その内容等を十分に検討した上で、政府として適切に対処していきたいと考えている。

二の6について

 政府の「先住民族」に対する認識は一の2についてでお答えしたとおりである。

三について

 御指摘の他国の現状については承知している。政府としては、宣言の採択を受けて、今後各国の法制度を含め、宣言に関する諸外国の動向の把握に努めていく考えである。

四及び五について

 アイヌの人々の生活水準は、北海道が実施してきた「北海道ウタリ生活実態調査」によれば、着実に向上しつつあるものの、なお一般道民との格差は是正されたとはいえない状況にあると認識しており、政府は、北海道が進めている「アイヌの人たちの生活向上に関する推進方策」が円滑に推進されるために必要な協力を行うとともに、アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律(平成九年法律第五十二号)に基づき、国土交通省及び文部科学省においてアイヌ文化振興等に関する施策を推進しているところであり、政府としては、このような施策への協力又は施策の推進を着実に実施していくことが肝要と考えている。
 また、政府の「先住民族」に対する認識は一の2についてでお答えしたとおりである。
 こうしたことから、お尋ねの「機関」を設置することは考えていない。