質問主意書

第168回国会(臨時会)

質問主意書


質問第八五号

女性が身近な地域で安心して出産できる環境確保に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十九年十二月十二日

円 より子   


       参議院議長 江田 五月 殿



   女性が身近な地域で安心して出産できる環境確保に関する質問主意書

 厚生労働省は、二〇〇六年六月に成立した良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律(いわゆる医療法の一部改正、以下「本改正」という。)の主旨について、医療の安心・信頼の確保であり、患者・国民の立場で、質の高い医療サービスが適切に提供される医療体制のための改革であったとしている。本改正では、安全の確保のために、助産所の開設の条件として、嘱託医に加えて、嘱託医療機関も必要であることを定めている。
 しかし、産科医の不足により、嘱託医を見つけることは大変困難になっている。その上、嘱託医療機関は、産科を有するだけではなく、新生児への診療を行うことができ、しかも入院施設も有する診療所や病院となっており、この条件を満たす施設は、周産期センターを含めごく少数である。この場合、助産師個人で病院長等に嘱託の依頼をすることは、極めて困難と言わざるを得ない。本改正による最も深刻なことは、これら二つの条件を満たさなければ、助産師は開業できず、廃業に追い込まれることと、開業の条件を満たしただけでは、安全を確保できたとは言えないことである。開業の条件と、緊急時の医療機関への搬送を受けてもらうということは、分けて考える必要がある。嘱託医療機関となった周産期センターやその他の連携医療機関に、緊急時の搬送を受けてもらうという確約があって初めて、助産所の安全を確保できることになる。助産所の廃業及び緊急時の搬送の確保は、助産所を出産場所として選択する女性にとっても、また、開業助産師を職業として選択した助産師にとっても、極めて重大な問題である。その結果、これらの改革は、医療サービスの受け手である女性たちの出産の場の選択肢を一層狭めるものになっている。昨今続発している妊産婦のたらい回し事件に見られるように、この嘱託医療機関の問題は、助産所だけでなく出産を取り扱う他の診療所、病院も含めた各地域における周産期医療ネットワーク事業の在り方を再考せざるを得ない時期に来ていることを示している。
 このような観点から、以下質問する。

一 助産所の安全を確保するためには、嘱託医療機関となった周産期センターに、緊急時の搬送を受けてもらうという確約が必要である、つまり、助産所の安全を確保するためには、開業要件を満たすだけでは無理だと考えるが、政府の認識を示されたい。また、国民がどのような出産場所を選択しても、その安全を確保することが国の責任であり、助産所での出産を選択する女性が存在する以上、その安全を確保することは、助産師個人だけではなく、政府にも責任があると考えるが、この点も併せて政府の見解を示されたい。

二 平成十七年十一月二十四日に出された厚生労働省の「医療安全の確保に向けた保健師助産師看護師法等のあり方に関する検討会」(以下「検討会」という。)のまとめでは、助産所の嘱託医師に関する今後の方向性として、「嘱託医師は、産科医とする必要があり、嘱託医師では十分に対応できない場合の後方支援として、連携医療機関を確保するための制度的措置を講じることが必要である」と述べている。この文章の脈絡では、嘱託医療機関は当然産科のある病院という理解であるが、医療法施行規則第十五条の二第三項にあるような小児科や、まして、新生児医療に限定などという内容は、このまとめのどこにも見当たらない。この小児科や新生児医療に限定という内容は、検討会では全く議論されていないが、どのような経緯で盛り込まれることになったのか、明らかにされたい。

三 検討会で嘱託医制度が議論されたとき、大部分の委員がこの制度の存続に反対したにもかかわらず、医師の委員たちの強い要望で、この制度が存続することになった。この存続には、当然産科医の協力が不可欠であり、昨年の本改正時には、日本産婦人科医会が会長名で嘱託医や嘱託医療機関の確保に協力するという文章を残している。ところが、この本改正後、全国各地で、確保に非協力的な動きが起こっている。医師には、診療の要請があった場合、断わることができないという「応召の義務」が医師法第十九条で定められている。医師が嘱託医を断ることは応召の義務違反であり、断ることはできないと思うが、政府の見解と今後の方針を示されたい。

四 このような現状から、このまま連携がうまく行かない場合、助産所の多数が廃業に追い込まれると考えられる。また、出産予定日が来年四月以降の妊産婦は正に「お産難民」となろうとしている。

1 本年三月十三日の参議院厚生労働委員会の質疑応答で、柳澤厚生労働大臣(当時)が、「開業助産所が廃業に追い込まれることがないように、しかるべく対応をしていきたい」と答弁しているほか、本年十月十六日の参議院予算委員会の質疑応答で、舛添厚生労働大臣も同様な趣旨を答弁しており、各都道府県に通達を行ったとも発言しているが、何をどのように通達したのか具体的な対応を明らかにされたい。
2 本年十月三日の全国看護行政担当者説明会で、厚生労働省の医政局看護課が、嘱託医師と嘱託医療機関について、①従前必要とされていた「医師の承諾書及び免許証の写し」ではなく、「助産所が嘱託医を委嘱した旨の書類」を提出すればよいこととしたこと、②出張のみにて業務に従事する助産師に関する取り扱いについては、特段の変更はないこと、③嘱託医療機関の産科又は産婦人科及び小児科は、同一の病院又は診療所でなくても差し支えないものであること、④国公立の医療機関において嘱託医療機関やその他の医療機関の産科医師が嘱託医療を引き受けることは差し支えないものであること、をそれぞれ説明したと聞いている。すべての地方自治体にこれらの内容を周知徹底するために、医政局から各都道府県に通知を出す必要があると思うが、通知を出すか否か明らかにされたい。

五 助産所の嘱託医療機関の条件に該当する、全国にあるすべての周産期センター及び公的二次医療機関が嘱託医療機関となることを義務付けるような法整備が必要だと考えられるが、政府の見解を示されたい。

六 助産所は、医療法に定められている診療所や病院と同格の医療機関であり、また、本改正においては、診療所や病院と同様の厳しい安全管理を要求しているほか、産科医が嘱託医と嘱託医療機関にならないと助産師は開業できない、つまり産科医の許可がないと助産所は開業できないという、実質、産科医が助産所の開業権を握るということになっている。このように医療法において、一方では助産所は診療所と同格としておきながら、他方では傘下に置くという事態になり、医療施設の規模や医療従事者間で不平等な関係が生じた場合に、最も不利益を被るのは妊産婦である。これは、法律内に矛盾を抱えており問題だと考えるが、政府の見解を示されたい。

七 日本の出産環境の現状では、女性たちが安心して身近な地域で妊婦健診を受け、出産の場を確保することは困難である。産科医療においては、第一次、二次、三次医療機関のすみ分けと医療関係者の役割分担、そして医療の質に関する監督制度を取り入れて効果的に行わない限り、出産環境の改善は難しいと考えられる。そのため、助産所だけでなく、診療所、病院を含めて、地域医療連携強化を盛り込む法整備を行うことが必要と考えるが、政府の見解を示されたい。また、閉鎖されている産科棟について、海外で成功しているような助産師主導のバースセンターとして、地域ベースで積極的に整備できるような対策を促進するべきであると考えるが、政府の見解を示されたい。

八 医療安全を実現するためには質の高い医療従事者の人材養成が不可欠である。特に母子保健政策で成功している海外諸国では、助産師の積極的活用を柱に改善を図っている。これら諸国の助産師と比較すると、我が国の現行の助産師教育の期間は短い上に業務範囲が限られている。このような現状について政府の認識を示すとともに、助産師を今後更に活用するための政府の施策を明らかにされたい。

  右質問する。