質問主意書

第168回国会(臨時会)

質問主意書


質問第八〇号

国連の拷問禁止委員会の勧告に対する政府の対応及び入国管理局での収容実態等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十九年十二月十日

福島 みずほ   


       参議院議長 江田 五月 殿



   国連の拷問禁止委員会の勧告に対する政府の対応及び入国管理局での収容実態等に関する質問主意書

 国際化の進展とともに、海外からの移住者は色々な形で増加しており、入国管理行政の人権に配慮した適正な対応が求められてきている。また、一九九八年十一月の国連の規約人権委員会の総括所見や、本年五月の国連の拷問禁止委員会(以下「拷問禁止委員会」という。)の総括所見でも日本の入国管理手続や入国管理局の収容施設(以下「入管施設」という。)の処遇について懸念や勧告が出されるなど、国際人権機関から注目を集めている。
 一方、ここ数年、法務省入国管理局もこうした懸念や勧告を受けて、人権に配慮したいくつかの改善を試みるなど、人権に配慮した運用を模索してきているとも見受けられる。そこで、国際的にも更に信頼ある日本の入国管理行政を構築するために、以下の点につき質問する。

一 拷問禁止委員会の勧告について

 日本も加入している拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取り扱い又は、刑罰に関する条約に基づき、本年五月九日と十日にジュネーブで、拷問禁止委員会が同条約の実施状況に関する第一回日本政府報告書の審査を行った。本年五月二十一日に同委員会は総括所見を公表し、日本の入国管理行政について懸念を表明し、勧告を行った。
1 拷問禁止委員会は、総括所見第十四項で、入管施設内における「多数の暴行の疑い、送還時の拘束具の違法使用、虐待、性的いやがらせ、適切な医療へのアクセス欠如といった上陸防止施設及び入国管理局の収容センターでの処遇」について懸念を表明している。さらに、同項で「入国管理収容センター及び上陸防止施設を独立して監視するメカニズムの欠如、特に被収容者が入国管理局職員による暴行容疑について申立てできる独立した機関の欠如」への懸念を表明し、「処遇に関する不服申立を審査する独立した機関の設置」を勧告している。こうした機関の設置については、一九九八年十一月の国連の自由権規約委員会の日本政府に対する勧告でも指摘されてきた事柄である。現在法務省内部で、この「独立した第三者機関」の設置について、「刑事拘禁施設」とともに、設置の方向で検討を行っていると聞いている。
(一) 「独立した第三者機関」の設置について、弁護士会やNGOといった国民の意見を聞く場を設ける予定はあるか明らかにされたい。
(二) 「独立した第三者機関」の監視対象に、上陸防止施設も入っているか明らかにされたい。また、入っていない場合は、その理由を示されたい。
2 日本の入管施設の無期限・長期にわたる強制収容に関して、拷問禁止委員会は「特に弱い立場にある人々が送還を待つ間の収容期間に上限を設置すべき」との勧告をしているように、入管施設での無期限・長期収容が課題となっている。
(一) 本年十月一日時点において、入管施設に収容されている外国人の人数を示されたい。また、このうち収容期間が、半年未満、半年以上一年未満、一年以上一年半未満、二年以上別の内訳を明らかにするとともに、二年以上収容されている場合は、その具体的な期間、国籍別の人数、施設名をそれぞれ示されたい。なお施設を移された場合は、収容期間を合算して示されたい。
(二) 無期限・長期収容による心身の健康被害を避けるために、現状では仮放免制度の弾力的な運用を行っていると察するが、より根本的には、退去強制命令発布後の収容期間の上限を制度的に設ける必要があると考えるが、この点につき、現在の検討状況を明らかにされたい。

二 未成年者の収容と退去強制について

 児童の権利に関する条約(以下「子どもの権利条約」という。)第三条(子どもの最善の利益)を考慮し、保護者が出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)違反に問われた場合、日本の学校にて就学中の未成年者については、本人及びその養育親の退去強制を見合わせ、在留特別許可を与えるなどの方策を、法務省はケースによっては、とっていると認識している。しかし、小学校に在籍をしている者及びその養育親に「在留特別許可」が認められることはまれであり、二〇〇一年以降では、入管法違反者の摘発が強化されている。
 そこで、未成年者のいる家族の収容と退去強制について、以下の点を明らかにする必要がある。
1 日本には、未成年者を入管施設へ収容することを制限する法律はない。また、学齢期の子どもの収容を避ける取扱いを明記した法律もない。日本の入国管理行政は「全件収容主義」をとっており、入管法上の違法状態にある場合、収容されることが、法律上の建前であると、政府は主張している。これは、子どもの権利条約第三条(子どもの最善の利益)、第二十二条(難民の子どもの保護・援助)、第二十八条(教育への権利)、第三十七条(死刑・拷問等の禁止、自由を奪われた子どもの適正な取り扱い)(b)及び(c)の各号の違反になると考えるが、政府の見解を示されたい。
2 子どもの言語習得、特に学習言語の習得には小学校時代が最も重要な時期であり、この時期に退去強制を執行することは、差し控えるべきとの言語教育の専門家の指摘もあるが、この点について政府の見解を示されたい。
3 親の入管施設への収容に伴い、未成年者が親から分離され、児童相談所へ保護されることや親戚などへ預けられる場合があるほか、父親のみを収容し、母親と子どもについては仮放免を認めている場合も少なくない。未成年者のいる家族を収容の対象とすること及び家族を分離して収容すること自体に人権上の問題があると考えるが、政府の認識を示されたい。また、これは、子どもの権利条約第九条(親からの分離禁止と分離のための手続)に抵触すると考えるが、政府の認識を示されたい。
4 未成年である被収容者に関して、収容された人数を年齢区分別(六歳未満、六歳から十二歳未満、十二歳から十五歳未満、十五歳から十八歳未満)、男女別、国籍別、収容期間別に、二〇〇五年と二〇〇六年の年別ごとに、それぞれ示されたい。また、施設を移された場合には、収容期間を合算して示されたい。
 さらに、親の入管施設への収容に伴い、未成年者の児童相談所を始めとする児童保護施設への入所状況及び、保護期間を二〇〇五年と二〇〇六年につき年別、年齢区分別(六歳未満、六歳から十二歳未満、十二歳から十五歳未満、十五歳から十八歳未満)、男女別、国籍別に、それぞれ示されたい。
5 未成年者で退去強制令書執行後、退去強制手続をとった未成年者の状況について、年齢区分別(六歳未満、六歳から十二歳未満、十二歳から十五歳未満、十五歳から十八歳未満)、男女別、国籍別に、二〇〇五年と二〇〇六年の年別ごとに示されたい。また、そのうち、実際に退去強制を執行した人数をそれぞれ示されたい。

三 妊婦、高齢者等の収容について

 妊婦、高齢者等の収容実態について明らかにする必要がある。
1 入管法違反者で収容の対象になっている者のうち、妊娠中であること、高齢者であること、病気があること、心身に障害があることを理由にして仮放免の措置をとった者の件数を、二〇〇五年と二〇〇六年の年別ごとに、それぞれ示されたい。
2 妊婦である被収容者について妊娠期間別、収容中の流産、堕胎件数について、二〇〇五年と二〇〇六年の年別に、それぞれ明らかにされたい。また、収容中又は一時執行停止中に、出産した者の人数を二〇〇五年と二〇〇六年の年別ごとに、それぞれ明らかにされたい。
3 六十歳以上の高齢である被収容者について、収容施設別、年齢別(六十歳から六十五歳未満、六十五歳から七十歳未満、七十歳から七十五歳未満、七十五歳から八十歳未満、八十歳以上)に、その人数を二〇〇五年と二〇〇六年の年別ごとに、それぞれ明らかにされたい。
4 乳幼児、妊婦、高齢者、心身に障害を持つ者、病者など、収容に適さない入管法違反者の収容を避けるためには、現行の仮放免制度だけではなく、第三者的な判断により収容の執行停止が可能なシステムを作る必要があると考えるが、政府の認識を示されたい。

四 被収容者処遇規則について

 二〇〇一年十一月に入管法に基づく被収容者処遇規則(以下「処遇規則」という。)の一部が手直しされ、被収容者の処遇に関していくつかの改善がなされ、第二条の二「意見の聴取」や、第四十一条「被収容者の申出」、第四十一条の二「不服の申出」、第四十一条の三「異議の申出」などの処遇改善にかかる制度が導入された。また、二〇〇三年には戒具についての変更がなされている。
1 二〇〇一年に導入された処遇改善にかかる制度に関して、収容施設の処遇の改善が行われた点を二〇〇一年以来、年別ごとにかつ収容施設別に示されたい。
2 被収容者からは、「処遇に関して意見を入れるポストが収容エリアにあり、そこに紙に書いて入れるシステムになっている」と聞いているが、このことについて、二〇〇六年に東京入国管理局に収容されていた被収容者は、「ポストは共有エリアに置いてあるが、英語で案内が書かれていたので私には読めなかった」、「エリアに出られるのは、一日に二時間だけ。この間に電話をかけたり洗濯したりシャワーを浴びたりせねばならず、不服を申し立てることはできなかった」、「不服の申出については、職員から何の説明もなかった。外から面会に来てくれた人に教わって、初めてそれが何のためにあるのか知ることができた」、と指摘している。かかる処遇改善にかかる制度の被収容者に対する周知徹底はどのようになされているか、収容施設ごとにそれぞれ示されたい。
3 処遇規則第八条(健康診断)に関し、二〇〇六年に東京入国管理局に収容された者へ入所時に健康状態についての質問はなされていないとも聞く。各収容施設ごとに、入所時の被収容者の健康状態の把握方法をそれぞれ明らかにされたい。
4 二〇〇六年に東京入国管理局に収容されたある女性被収容者によれば、「外部の病院に行くときは腰縄と手錠付きだった。どこにも逃げない、手錠を外してほしい、と頼んでも、外してくれなかった。診察中はおろか、病院でトイレに入っているときも手錠と腰縄が付いたままで、さらにはトイレの個室の中に警備官が一人付いて入ってきた。これでは用が足せないので、出て行ってほしいとお願いしても、三十分かかってようやく用が足せるまで、そのままの状態だった」という。このような戒具の使用は人道上問題があると考えるが、政府の認識を示されたい。
5 二〇〇三年に入管施設で使用されていた皮手錠が廃止され、「第二種捕じょう」が導入されている。この形状等を写真や図画などで明らかにするとともに、使用目的、使用方法を示されたい。また、「第二種捕じょう」が刑務所や拘置所では使用されず、入国管理局だけで使われている理由を示されたい。

  右質問する。