質問主意書

第168回国会(臨時会)

質問主意書


質問第六四号

病腎移植に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十九年十一月二十二日

石井 一   


       参議院議長 江田 五月 殿



   病腎移植に関する質問主意書

 病腎移植は、がんなどで摘出された、本来は捨てられるべき腎臓を修復した上で、腎不全などで苦しむ別の患者に移植する手法である。万波医師らが日本で行ったこの手法は海外で評価されているが、日本では評価されず、本年七月厚生労働省から原則禁止の運用指針が出されたところである。
 そこで、原則禁止の通達が出されるまでの検討内容、経緯について、以下質問する。

一 病腎移植問題に関しては、宇和島徳洲会、市立宇和島病院、呉共済病院、香川労災病院、相川委員会の五つの調査委員会が組織されている。この調査委員会での調査の結果、最終的に判明した病腎移植は十五年間に四十二例であった。これほど大規模な事案であればすべての症例を総合的に判断し、統計的な妥当性を持たせるために、横断的な調査委員会のシステムが必要であった。しかし、「十五年間に四十二例」という事実が判明しても「カルテ保存義務のある過去五年間の事例を調査する」という昨年十一月時点で立てられた基本方針を変更しなかったのはなぜか、明らかにされたい。

二 五つの調査委員会のうち三つがそれぞれ異なる調査報告を行い、二つが最終報告をまとめていない状況で、厚生労働省が病腎移植原則禁止の通達を出した理由を明らかにされたい。

三 厚生労働省は、「臓器の移植に関する法律の運用に関する指針」の一部改正に関する意見募集の結果について、「関係学会声明や病腎移植を実施した各病院の調査委員会報告等において指摘された問題点を基に、これらの問題に対応するための措置を検討し、厚生科学審議会疾病対策部会臓器移植委員会の審議を経て、行政手続法の定める手続きに従い、運用指針の改正を行う」としている。しかし、病腎移植の妥当性の根拠となる関係学会声明では、例えば病腎移植の「生着率」と「生存率」が挙げられているが、日本移植学会の幹部である高原史郎大阪大学教授は、生着率と生存率の数値が低い市立宇和島病院の症例二十五のみを解析した。なぜ厚生労働省は、四十二症例すべての統計的なデータに基づいた判断をしなかったのか、明らかにされたい。

四 「臓器の移植に関する法律の運用に関する指針」の一部改正に関する意見募集の結果については、がんに冒された臓器(以下「担がん臓器」という。)移植の転移率が高い論拠として、「Transplantation 2002;74:358」、「Ann Transplant 1997;2:7」、「Ann Transplant 2004;9:53」という海外の論文を挙げている。しかし、実は担がん臓器の移植におけるがんの転移は極めて少ないとの論旨を、反対の視点から部分的、意図的に誤って引用しているなどの問題がある。さらに、他の論文も著しくデータの古いもので、最新の医学的根拠としてはあまりにも不適切ということを厚生労働省は認識しているのか、明らかにされたい。
 また、以上のような論文のねつ造的解釈、誤った引用があまりにも目に余り、これでは全く誤った情報を流布することにより、国民をあらぬ方向に誘導しようとしているのではないかと考えるが、政府の認識を明らかにされたい。

五 厚生労働省は独自に病腎移植に関する最新の海外論文及び海外での症例報告などを検証したのか、あるいは関係学会に再調査を依頼したのか明らかにされたい。

六 厚生労働省が病腎移植を原則禁止としながら臨床研究の道を残したのはどのような根拠によるものか、明らかにされたい。

七 圧倒的なドナー不足、献腎不足、担がん臓器の増加などの中で、具体的な臨床研究の道筋をどのように考えているのか、政府の見解を明らかにされたい。

八 患者の治療の選択権に関しては、厚生労働省としては、病腎移植においてどのような条件下で認めるつもりか明らかにされたい。

  右質問する。