質問主意書

第168回国会(臨時会)

質問主意書


質問第三四号

独立行政法人産業技術総合研究所と特許特別会計に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十九年十月二十五日

谷 博之   


       参議院議長 江田 五月 殿



   独立行政法人産業技術総合研究所と特許特別会計に関する質問主意書

 経済産業省が所管する独立行政法人産業技術総合研究所(以下「産総研」という。)では、特許法上の特許生物寄託制度に基づき、特許庁の指定を受けて、国の特許特別会計からの支弁により、特許生物寄託センターを設置している。昨年六月、私は、つくば市内の産総研動物実験施設における遺伝子組換え生物のずさんな管理について、「独立行政法人産業技術総合研究所等における動物実験施設に関する質問主意書」(第一六四回国会質問第七九号)を提出し、今後、産総研としてコンプライアンスの徹底に努める旨の答弁を得ているが、今回、産総研及びその前身たる工業技術院は特許特別会計上の会計処理においても国民を欺く行為を行っていた疑いがあるとの告発を新たに受けた。
 一九九九年九月六日、当時の工業技術院は、極低温電界放射型透過電子顕微鏡(以下「TF20」という。)の賃貸借契約をめぐり、会計書類の偽造等により、国の特別会計から不当に約三千万円の支弁を受け、さらに顕微鏡使用記録の改ざんなど隠蔽工作を行ったことについて、二〇〇〇年十月十七日に会計検査院から改善命令を受け、平沼経済産業大臣から関係者に処分も出ている。ところが、今回、私が得た情報によると、それは不正な会計処理の氷山の一角に過ぎないということである。つまりTF20は工業技術院において、そもそも特許生物寄託制度とは無関係の部署での必要性から導入されたにもかかわらず、一般会計での支出要求が通らなかったために、特許特別会計から二億六千五百二十三万円もの不当支出を行ったとの指摘である。言うまでもなく、重要な知的財産の一つである生物特許の保護は我が国の存立に不可欠である。しかし、特許生物の寄託を、これまで長年一手に引き受けてきた産総研の寄託手数料は高額で、寄託者にとって大きな経済的負担になっている。無駄遣いを厳に排し、業務の合理化を通じ寄託手数料の国際調和に努めることが、求められている。
 このような観点から、以下質問する。なお、同様の文言が並ぶ場合であっても、質問項目ごとに答弁されたい。

一 フィリップス・エレクトロン・オプティクス株式会社との随意契約の書類など、私が入手した資料によると、TF20の賃貸借料、消耗品、維持管理費、修理費等として、一九九九年度に五千七百九十六万円、二〇〇〇年度に一億千五百九十二万円、二〇〇一年度に九千百三十五万円と、合計二億六千五百二十三万円が特許特別会計から支出されているようだが、事実かどうか明らかにされたい。

二 前記一が事実とすれば、非常に高額な賃貸借である。果たしてこれらの金額に見合うほど、TF20は特許生物寄託制度のために使われたと政府は認識しているか明らかにされたい。

三 TF20を使用した業務は、二〇〇一年度及び二〇〇二年度の特許生物寄託センター年報に確かに見受けられる。しかし、これは既に指摘した不適切な会計処理の発覚を恐れて、アリバイ的に一時的に特許生物寄託制度のための業務に使用したにすぎず、実際にはTF20は、一九九九年度から二〇〇一年度まで、主として特許生物寄託センターではなく、工業技術院生命工学工業技術研究所(現産総研)内の生物遺伝子資源研究部門という別の部署に設置され、導入当初から特許生物寄託制度とは無関係の業務に主として使用されてきたとの指摘があるが、これは事実かどうか明らかにされたい。

四 TF20は二〇〇二年度に産総研が運営交付金により買い取るまでは、特許生物寄託センターに設置されているべきである。TF20は工業技術院及び産総研において、一九九九年度以降今日に至るまで、どこの部署に常置され、誰が主な管理責任者となっていたのか。また、どれだけの期間、どこの部署で、それぞれどのような用途にどの程度の頻度で使われてきたのか。顕微鏡の使用記録などから、年度ごとに詳細に明らかにされたい。

五 一九九八年十二月二〇日に宮本宏生命工学工業技術研究所企画室長と細野邦昭生命工学工業技術研究所特許微生物寄託センター長の連名かつ捺印された「平成十一年度概算要求の経緯に関するメモ」という文書のコピーが私の手元にある。これによると、「平成十年八月における概算要求の最終段階において、(生命工学工業技術)研究所(全体)として極低温電子顕微鏡の購入費もしくはレンタル料を計上したいという要求から、当面、特許微生物寄託センターで極低温電子顕微鏡を使用する予定はないものの、特許微生物寄託期間事務処理費に含まれる借料及び損料の中に極低温電子顕微鏡の借料を計上することになった。」とのことであるが、これは事実か。事実とすれば、これは広範な分野の知的財産権を保護している特許特別会計に大きな損害を与える不当な支出ではないか。それぞれ明らかにされたい。

六 一九九八年、工業技術院生命工学工業技術研究所が、フィリップス・エレクトロン・オプティクス株式会社との間で、「極低温電界放射型透過型電子顕微鏡(以下「TF30」という。)の開発を一九九九年度より開始し、その開発費約六億円を四年間にわたり生命工学工業技術研究所が支払うものとする。」との覚書の類を取り交した事実について、私が問い合わせたところ、本年十月十九日の時点では書類が見つからないとの回答であったが、当時の大箸所長(前産総研理事)と曽良次長(現産総研副理事長)に本当にその記憶が全くないのかどうか、政府において確認し明らかにされたい。

七 前記六が事実とすれば、単年度主義を理念とする会計法に反し、予算執行職員等の責任に関する法律第三条に反する違法行為ではないか。政府の見解を明らかにされたい。

八 二〇〇一年の秋に、一村信吾現産総研理事は、フィリップス・エレクトロン・オプティクス株式会社が社名変更した日本エフイー・アイ株式会社の担当者から、それまで進めてきたTF30の開発を断念するかどうかの回答を書面で求められていたことを示す証拠を私は入手した。これに対する一村信吾現産総研理事から日本エフイー・アイ株式会社の担当者への回答の内容を、政府としてどのように承知しているか明らかにされたい。また、承知していないのであれば、調査の上その内容を明らかにされたい。

九 産総研は二〇〇二年度にTF20を一千三百九十六万五千円で買い取っているが、これはそれまで三年間の賃貸借料等二億六千五百二十三万円と比較して極めて低価格である。その後、産総研内で多目的に使用するためとの説明だが、TF20は現在においても我が国では有数の高機能な装置であることをかんがみれば、妥当性に欠ける価格差ではないか。政府の認識を明らかにされたい。

十 前記九は、TF20の賃貸借料の形式を取りつつも、実際にはフィリップス・エレクトロン・オプティクス株式会社(現日本エフイー・アイ株式会社)にTF30の開発をさせていたが、会計検査院の指摘等により頓挫したため、TF20を買い取ることで、前記六の覚書の解消を日本エフイー・アイ株式会社と合意したというのが、内幕の真実なのではないか。政府の認識を明らかにされたい。

十一 以上を踏まえると、特許特別会計からTF20の賃貸借料等として支出された二億六千五百二十三万円は、本来の特許生物寄託制度にはほとんど役に立たない不当な支出であり、国の特別会計からの無駄遣いではないか。したがって、当時の関係者は厳しく処分されるべきではないか。それぞれ政府の認識を示されたい。

十二 従来は特許特別会計に組み入れられてきた特許生物の寄託手数料は、独立行政法人化により、直接産総研の収入とすることができるようになったため、特許特別会計から産総研への支出は、これまで国際寄託されてきた分のみとなり、今後漸減し、いずれゼロになると聞いている。これまで特許特別会計に長年蓄積されてきた特許生物の国際寄託手数料の総額はいくらか。また、特許特別会計から産総研に対しこれまでいくら支出されたのか。それぞれ明らかにされたい。

十三 一九九六年度から一九九八年度にかけて整備された生命工学工業技術研究所特許微生物寄託センターB棟の建設費及び施設整備費は、特許特別会計から支出されているが、その総額はいくらか明らかにされたい。

十四 これまで特許特別会計に収められた国際寄託分の手数料収入よりも、産総研に対して特許特別会計から既に支出された額が多いことは事実か明らかにされたい。

十五 前記十四が事実とすれば、その他の知的財産の出願料や特許料を支払ってきた者にとって、徐々に減額されるとはいえ、特別会計からの負担なしに特許生物寄託ができる体制が整っている以上、今後も引き続き特許特別会計から産総研に支出することは、許容できないのではないか。前払いされたから国の責任でという理由であれば、むしろ一般会計から支出するべきではないのか。政府の見解を示されたい。

十六 本年十月十七日に甘利経済産業大臣から、コンプライアンスの徹底のための体制整備等について指示が出され、十九日には第三者調査委員会を産総研内に設置するとの指示が出されているが、これは危険な病原菌の内規違反受託問題だけではなく、ここで指摘した産総研に対する特別会計からの不適切な支出の実態についても対象とし、徹底した調査の上、関係者の処分と、内部でこの問題を提起した者への感謝及び不当な扱いを行ったことに対する謝罪を国家として行うべきではないか。政府の見解を示されたい。

  右質問する。