質問主意書

第166回国会(常会)

答弁書


答弁書第五四号

内閣参質一六六第五四号
  平成十九年七月六日
内閣総理大臣 安倍 晋三   


       参議院議長 扇 千景 殿

参議院議員吉川春子君提出国家公務員の人事評価、標準職務遂行能力、再就職(天下り)規制等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員吉川春子君提出国家公務員の人事評価、標準職務遂行能力、再就職(天下り)規制等に関する質問に対する答弁書

一の1について

 新たに導入することとしている人事評価制度は、任用、給与、分限その他の人事管理の基礎となるものであるが、人事評価制度自体は、職員の執務の状況を的確に把握し、記録することを内容とするものであり、また、人事評価の結果をどのように活用するかという点については、人事評価制度それ自体ではなく、任用、給与、分限等のそれぞれの制度において定められることとなるものであることから、人事評価制度は、勤務条件には該当しないものと考える。

一の2について

 現在、政府においては、「行政改革の重要方針」(平成十七年十二月二十四日閣議決定)等に基づき、人事管理の基盤的ツールとして活用可能なより実効ある新たな人事評価システムの構築に向け、職員の職務遂行能力、勤務実績をできる限り客観的に把握するための新たな人事評価の試行を実施しているところである。第百六十六回国会で成立した国家公務員法等の一部を改正する法律(平成十九年法律第百八号)による改正後の国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号。以下「新法」という。)に規定する人事評価は、「任用、給与、分限その他の人事管理の基礎とするために、職員がその職務を遂行するに当たり発揮した能力及び挙げた業績を把握した上で行われる勤務成績の評価」であり、現在試行を実施している新たな人事評価の目的は、これと異なるものではない。

二の1について

 国の行政組織においては、地方支分部局が本省の所掌事務の一部を分掌するとともに、両者の間における指揮監督関係により事務の統制が図られ、系統的な組織編制となっている。職制上の段階は、このような組織における指揮監督の系統や序列等の階層秩序を表すものであり、本省内部部局と地方支分部局との間の職制上の段階の関係についても、この系統的に編制された国の行政組織全体の中で整理されるものであるため、両者を越える異動がある場合であっても、当該異動については、昇任、降任又は転任のいずれに該当することになるか判断できるものと考える。

二の2について

 新法においては、職員の昇任等について、標準職務遂行能力のみならず、「任命しようとする官職についての適性」を有すると認められる者の中から行われることとされており、当該適性の判断に当たっては、個々の官職ごとに求められる専門的な知識、技術、経験等の有無が考慮されることとなる。したがって、標準職務遂行能力を定めることとしたことが、専門性の向上の障害になるとは考えていない。

二の3について

 職制上の段階の標準的な官職に係る標準職務遂行能力を判断基準として官職に任命された職員の給与については、「職員の給与は、その官職の職務と責任に応じてこれをなす」との職務給の原則に従い、一般職の職員の給与に関する法律(昭和二十五年法律第九十五号)において、級別標準職務表、級別定数等により、職員の職務の級が決定され、職員の職責に応じた給与処遇がなされることとなるものである。職制上の段階及び標準職務遂行能力は、この給与決定と直接関連するものではない。また、標準職務遂行能力は、職員の昇任等に際しての判断基準として定められるものであり、給与上の昇格や昇給とも直接関連するものではない。

二の4について

 一般的に、任命しようとする官職より下位の職制上の段階に属する官職において勤務成績が優秀であれば、上位の職制上の段階に属する官職に係る職務遂行の能力を有する蓋然性が高いと考えられることから、任命権者が、職員について、当該職員の人事評価に基づき、現在任用されている官職より上位の職制上の段階の標準的な官職に係る標準職務遂行能力を有する者と認めることには、一定の合理性があるものと考える。

二の5について

 個々の官職については、系統的な組織編制の下に設置されるものであるため、国家行政組織法、各府省設置法、各府省組織令、各府省組織規則等の組織法令等により組織編制を行う時点でいずれかの職制上の段階に属することとなり、同一の職制上の段階に属する官職群であれば、その職務を遂行する上で発揮することが求められる能力については、共通して一定のものが必要になると考えられるところである。このため、新法においては、職制上の段階の上下の別によって、昇任、降任及び転任を定義し、組織法令等による組織編制の時点で明確になっている職制上の段階を端的に表すものとして、新法においても、職制上の段階の標準的な官職を政令で確認的に定めることとするとともに、当該標準的な官職の職務を遂行する上で発揮することが求められる能力として内閣総理大臣が標準職務遂行能力を定め、これを職員の昇任等に際しての判断基準とすることとしているところであり、これとは別に、職務の複雑、困難、責任の度に応じた法制上の位置付けを設けることは、職階制を廃止するとしたとしても、必要ないと考えている。

三の1について

 採用昇任等基本方針は、職員の採用、昇任、降任及び転任に関する制度の適切かつ効果的な運用を確保するために必要な事項を定めるものであり、また、人事評価制度は、一の1のとおりであるため、それぞれ勤務条件には該当せず、したがって、これらは、国家公務員法第百八条の五第一項に基づく交渉の対象事項ではないと考えている。しかしながら、人事評価制度については、任用、給与、分限その他の人事管理の基礎となるものであるため、当該制度の設計に当たっては、職員団体とも十分に話し合っていきたいと考えている。

三の2について

 国家公務員法第七十八条第四号は、職員の意に反して降任又は免職できる事由の一つとして、官制若しくは定員の改廃又は予算の減少により廃職又は過員を生じた場合を定めているが、公務員の分限免職についての過去の裁判例において、任命権者が被処分者の配置転換が比較的容易であるにもかかわらず、その努力を尽くさずに分限免職処分をした場合には権利の濫用となると判示されているところからも明らかなように、本号に基づく分限免職は公務員の雇用を維持できないやむを得ない事由がある場合に行われるものであることから、当該規定について再検討する必要はないものと考える。

四の1について

 近年摘発されている官製談合等の背景には押し付け的なあっせんがあったであろうと推測している。
 新法においては、押し付け的なあっせんを根絶するため、各府省等による再就職あっせんを全面的に禁止するとともに、民間に就職した職員の出身省庁への働きかけ等も規制することとしており、これらに関する不正行為等に対しては刑罰を導入することとしている。また、外部監視機関による厳格な監視体制も構築することとしている。
 このように、新法はいわゆる「天下り」規制を抜本的に強化するものであり、これらの措置により、いわゆる「天下り」問題は根絶することができると考えている。

四の2について

 新法においては、元職員が有する影響力により公務の公正性が損なわれるおそれと元職員の有する職業選択の自由等とのバランスを考慮し、現行の事前承認制度が離職後二年間の規制としていることも踏まえて、原則として離職後二年間の働きかけを規制することとしたものである。
 「行為規制と期間規制では意味が異なる」の趣旨が明確ではないが、四の1についてで述べたとおり、新法はこれまでの事前承認制度以上に厳しい規制となっており、いわゆる「天下り」問題は根絶することができると考えている。
 また、官民癒着の問題については、新法に加え、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和二十二年法律第五十四号)等による官製談合規制の厳格な運用、公共調達の適正化等の取組を総合的に推進することにより解決すべき事項と考えており、引き続きこれらの取組を進めてまいりたい。

四の3について

 新法においては、予算や権限を背景とした押し付け的あっせんや官製談合に対する国民の強い批判等にかんがみ、行政の適正な遂行の責任を有するとともに、公務員の人事管理について責任を負うべき政府を代表する内閣総理大臣において、職員の退職管理に関する事務を一元的につかさどることとし、その一環である離職後の就職に関する規制の実効性を確保するため、当該規制に係る調査及び当該規制の適用除外に係る承認の権限を内閣総理大臣に付与し、これを内閣府に設置する再就職等監視委員会に委任することとしたものである。
 なお、人事行政の公正の確保に関する人事院の役割には変更がない。