質問主意書

第166回国会(常会)

答弁書


答弁書第四八号

内閣参質一六六第四八号
  平成十九年六月二十六日
内閣総理大臣 安倍 晋三   


       参議院議長 扇 千景 殿

参議院議員福島みずほ君提出京都議定書の目標達成に向けた政府の認識等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員福島みずほ君提出京都議定書の目標達成に向けた政府の認識等に関する質問に対する答弁書

一について

 社団法人日本経済団体連合会(以下「経団連」という。)の環境自主行動計画など事業者による地球温暖化対策のための自主行動計画(以下「自主行動計画」という。)については、産業界自らが自主的な目標の確実な達成に向けて取り組むとともに、政府はその透明性・信頼性・目標達成の蓋然性が向上されるよう、関係審議会等において定期的にフォローアップを行っているところである。このように、政府及び産業界の関係者がそれぞれの役割において自主行動計画の目標が確実に達成されるよう努めているところである。
 また、目標を引き上げる業種や関係審議会等におけるフォローアップに参加する業種が増加し、各業種が自主的に創意工夫しながら対策を強化しているなど、産業界は自主行動計画に基づく取組を強化してきており、その取組の効果も着実に上がってきている中で、自主行動計画を政府との協定とするなどの義務的措置とすることは、現時点では考えていない。

二について

 京都議定書目標達成計画(平成十七年四月二十八日閣議決定。以下「目標達成計画」という。)上の自主行動計画による削減効果は、御指摘の三十五業種全体の目標ではなく、当該三十五業種のうち製造業二十八業種の個別の目標が達成された場合を前提に算定したものであるため、政府としては、経団連の当該三十五業種全体の目標と個別の業種の目標との関係及び御指摘の三十五業種全体の目標達成の可能性についてお答えする立場にない。なお、経団連においては、自主行動計画の目標について、京都議定書の第一約束期間に当たる五年間の平均として達成すべく取り組んでいるところであり、また、二千五年度における二酸化炭素の排出量は千九百九十年度比で〇・六パーセント減少となり、二千十年度は千九百九十年度比で二・二パーセント下回ることになると発表しているものと承知している。

三について

 自主行動計画の目標及び内容については、産業界の自主性にゆだねられるべきものであることから、経団連及び個別の業種が自主的にそれぞれの実状等に即して策定したものであり、また、各業種の自主行動計画の目標達成状況については、二千五年度実績において、御指摘の三十五業種のうち十九業種が自主行動計画の目標を達成している一方、十六業種は目標をいまだ達成していないものと承知している。これらを踏まえれば、一概に「経団連の産業・エネルギー転換部門三十五業種全体の目標はその水準が高くなく、各業界の目標も多くは余裕をもって達成可能であり、まだまだ削減できる余地が大いにある」との評価を行うことは困難であると考えている。なお、目標を達成している業種については、より高い目標の設定に取り組むことが強く期待されるところであり、政府として、関係審議会等におけるフォローアップを通じて目標の引上げを促す一方、目標をいまだ達成していない業種については、今後の対策内容とその効果を可能な限り定量的・具体的に示すことを求めていくことにより、目標達成の蓋然性の向上を図ってまいりたい。
 御指摘の経済的手法が具体的にどのようなものを指すのか必ずしも明らかではないが、経済的なインセンティブを用いたいわゆる経済的手法は、市場メカニズムを前提とし、経済的インセンティブの付与を介して各主体の経済合理性に沿った排出抑制等の行動を誘導するものであり、地球温暖化対策の経済的支援策としての有効性も期待されているところである。その活用に際しては、あらゆる政策手法を総動員してそれらの特徴をいかしながらこれらを有機的に組み合わせるというポリシーミックスの考え方に沿って効果の最大化を図りつつ、国民負担や行財政コストを極力小さくすることが重要であると考えている。とりわけ、財政的支援に当たっては、費用対効果に配慮し、予算の効率的な活用等に努めてまいりたい。

四及び五について

 石炭は他の化石燃料に比べ供給安定性が高く、経済性にも優れており、エネルギー安定供給の観点から、今後とも不可欠なエネルギーと位置付けられ、特に電力供給においては重要な役割を果たしている。
 他方、石炭は他の化石燃料に比べ、燃焼過程における単位熱量当たりの二酸化炭素の排出量が大きいため、環境への適合を図る観点から、政府としては、石炭ガス化複合発電等の高効率発電システムの確立や老朽石炭火力発電の天然ガス化転換費用の補助等の支援を行っている。また、これらに加え、供給安定性に優れ、発電過程で二酸化炭素を排出することがなく地球温暖化対策に資するという特性を有する原子力発電の推進を図っているところであり、現在建設中の北海道電力株式会社泊発電所三号機及び中国電力株式会社島根原子力発電所三号機の二基が着実に稼働するよう、電気事業者の取組のフォローアップを行ってまいりたい。
 御指摘の「石炭課税の強化」や「炭素税(二酸化炭素排出量当たりの税)の導入」といった税制上の措置については、その効果、経済への影響など幅広い観点から検討する必要があると考える。特に、「炭素税」については、国民に広く負担を求めることになるため、地球温暖化対策全体の中での具体的な位置付け、その効果、国民経済や産業の国際競争力に与える影響、諸外国における取組の現状などを踏まえて、国民や事業者などの理解と協力を得るように努めながら、真摯に総合的な検討を進めていくべき課題であると考える。
 御指摘の「発電量当たりの二酸化炭素排出原単位に上限を設ける規制」の導入については、他の手法との比較やその効果、産業活動や国民経済に与える影響等の幅広い論点について、総合的に検討していくべき課題である。

六及び七について

 原子力設備利用率向上のための取組としては、既に多くの原子炉で導入が進んでいる定格熱出力一定運転に加えて、安全の確保を大前提として、原子炉の運転中に待機状態で停止しているポンプ等の予備機等の点検・補修を行うことなどの電気事業者による様々な取組を想定しているところであり、政府としては、今後とも、こうした原子力設備利用率の向上に向けた電気事業者による取組のフォローアップ等を行ってまいりたい。

八の1について

 電気事業連合会が自主行動計画の目標達成のために京都メカニズムを活用して取得することが必要となるクレジットの具体的な量については、将来の実績に基づき算定されるものであるため、現時点では明らかではなく、当該クレジットの調達の可否については、現時点ではお答えすることはできない。

八の2について

 電気事業連合会の自主行動計画においては、二酸化炭素排出原単位は、実際の二酸化炭素排出量から京都メカニズムを活用して取得した目標達成のために必要なクレジットの量を差し引いたものを、販売電力量で除したものになると承知している。
 電気事業連合会は、その自主行動計画において、京都メカニズムを活用したクレジットの取得も含めた二酸化炭素排出原単位を目標指標としており、その算出方法も明確である。また、目標達成計画においては、電気事業連合会の自主行動計画の目標について、京都メカニズムの活用によるクレジットの取得を含めて二酸化炭素排出原単位を改善していくこととされている。したがって、御指摘の「様々な混乱」が生じるとは考えていない。

九について

 駐停車時にエンジン作動が停止する機能を有する自動車(以下「アイドリングストップ自動車」という。)については、バッテリー等への負担などの技術的な課題により商品化が遅れていたものの、経済産業省の調査によれば、最近の出荷台数は二千五年度の二千百十一台から二千六年度の九千十八台へと約四倍程度に増加しているところであり、今後とも、積極的にアイドリングストップ自動車の普及促進を図ってまいりたい。
 御指摘の「テレワーク等情報通信を活用した交通代替の推進」については、国土交通省の調査によれば、情報通信技術を活用した、場所と時間にとらわれない柔軟な働き方(以下「テレワーク」という。)を週八時間以上する人の就業者人口に占める割合は、二千二年の六・一パーセントから二千五年の十・四パーセントへと着実に増加しているところであり、今後とも「テレワーク人口倍増アクションプラン」(平成十九年五月二十九日テレワーク推進に関する関係省庁連絡会議決定、IT戦略本部了承)を着実に実施するなどにより、より一層のテレワークの普及推進を図ってまいりたい。

十について

 運輸関係業界の自主行動計画については、千九百九十八年度に運輸関係業界により「地球温暖化防止ボランタリープラン」が策定されて以降、国土交通省は、おおむね毎年度、同プランの実施状況等のフォローアップを実施し、その結果を公表している。
 建設関係業界の自主行動計画については、毎年度、建設関係業界自らがフォローアップを実施し、その結果を公表している。
 今後については、二千八年度より京都議定書の第一約束期間が始まることを踏まえ、自主行動計画のより的確な評価を行うため、交通政策審議会及び社会資本整備審議会において、毎年、公開でフォローアップを行う予定である。

十一について

 警察庁、経済産業省、国土交通省及び環境省で構成されるエコドライブ普及連絡会が作成した「エコドライブ十のすすめ」で記載されている「やさしい発進」、「加減速の少ない運転」及び「早めのアクセルオフ」の各取組を励行することにより、十五パーセント程度燃費が改善されると認識している。
 御指摘の「経済的な動機付けなどの施策」については、その意味するところが明らかでなく、お答えすることは困難である。

十二について

 目標達成計画においては、二千平方メートル以上の新築建築物(住宅を除く。以下同じ。)に係る省エネルギー基準(エネルギーの使用の合理化に関する法律(昭和五十四年法律第四十九号。以下「省エネルギー法」という。)第七十三条第一項に規定する判断の基準をいう。以下同じ。)の二千六年度における達成率を八割、新築住宅に係る省エネルギー基準の二千八年度における達成率を五割とする対策評価指標を設定しているところであるが、国土交通省の推計によると、二千平方メートル以上の新築建築物に係る省エネルギー基準の二千四年度における達成率は七十四パーセントであり、また、新築住宅に係る省エネルギー基準の二千五年度における達成率は三十パーセントとなっており、省エネルギー性能の高い建築物及び住宅の普及は進んでいるものと考えている。今後とも、建築物及び住宅の省エネルギー性能の一層の向上を図ってまいりたい。

十三について

 御指摘の「省エネ基準を義務化」の意味するところが必ずしも明らかではないが、既に、省エネルギー法第七十五条においては、省エネルギー法第七十三条第一項に規定する特定建築物の新築等を行おうとする者は、建築物に係るエネルギーの使用の合理化に関する措置について、所管行政庁(省エネルギー法第七十四条第一項に規定する所管行政庁をいう。以下同じ。)に届け出なければならないこととされているとともに、所管行政庁は、届出に係る事項が省エネルギー基準に照らして著しく不十分であると認めるときは、当該届出をした者に対し、当該届出に係る事項を変更すべき旨を指示することができるほか、正当な理由がなくてその指示に従わなかったときは、その旨を公表することができることとされている。

十四について

 政府としては、再生可能エネルギーの導入促進に向け、財政支援措置や電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法(平成十四年法律第六十二号)による措置を講じているところであるが、同法第三条第一項の規定に基づき定められた新エネルギー等電気の利用の目標量は、二千十年度までに百二十二億キロワット時、二千十四年度までに百六十億キロワット時とされており、二千五年度の発電実績である約五十六億キロワット時と比較して、二千十年度の目標量は二倍強、二千十四年度の目標量は三倍弱となっている。
 また、我が国の太陽光発電の導入量は二千五年度に前年度比約三十万キロワット増の約百四十二万キロワット、風力発電の導入量は二千五年度に前年度比約十五万キロワット増の約百八万キロワットと、着実に増加しており、二千六年における世界の太陽電池の生産量に占める日本企業の生産量の割合は約四割となっている。
 こうしたことから、再生可能エネルギーの導入に係る政府の政策が不十分であるとは考えておらず、また、国際競争力の低下につながりかねない状況にあるとは考えていない。

十五について

 本年五月二十九日に行われた地球温暖化対策推進本部による目標達成計画の進捗状況の点検によれば、目標達成計画に示された対策・施策の中には、目標達成計画策定時から更に進展し、又は具体化されているものも見られ、我が国の地球温暖化対策は前進しているといえるものの、現状では、総合的に見れば、対策が十分に進捗しているとはいえず、対策の進捗は極めて厳しい状況にあること等を踏まえれば、抜本的な対応を早急に検討する必要があると考えている。
 したがって、例えば二酸化炭素排出量が大幅に増加している家庭部門や公的サービスを含む業務部門などの各部門等について、過去の進捗が目標達成計画策定時の見込みと比べ十分とはいえない対策の加速化を図り、また、更なる削減の可能性が見込める対策については、その一層の強化を図るために、削減効果の確実な措置について早急に検討を進め、実施する必要があると考えている。
 本年度に行う目標達成計画の定量的な評価・見直しにおいては、このような認識を踏まえ、必要な対策・施策の追加・強化を適切に行い、本年度中に目標達成計画を改定し、京都議定書上の削減約束の達成に確実を期してまいりたい。
 なお、本年五月二十九日に公表された我が国の二千五年度の温室効果ガス排出量は、基準年比七・八パーセント増となっている。