質問主意書

第166回国会(常会)

質問主意書


質問第六四号

我が国の環境政策における予防原則と第三十四回主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)に向けた我が国主導による具体的な国際的環境保護施策の確立等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十九年七月四日

加藤 修一   


       参議院議長 扇 千景 殿



   我が国の環境政策における予防原則と第三十四回主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)に向けた我が国主導による具体的な国際的環境保護施策の確立等に関する質問主意書

 世界の各地で水銀による環境汚染が発生し、多くの犠牲者を生んでいる。米科学アカデミー報告では、子どもの注意力、話す力、描画力などが水銀の影響を受け、毎年六万人の子どもが脳障害のリスクを負うことが指摘されている。また、免疫が未発達の段階における脳への障害が懸念されている。発達障害者との関係性についても議論が多く、欧米の政府機関、日本の独立行政法人産業技術総合研究所、独立行政法人国立環境研究所などにおいても研究されるようになっている。欧州諸国やカナダなどは水銀規制に積極的で、環境計画(UNEP)は二〇〇一年から水銀汚染対策の活動を本格化しており、欧州連合(EU)は、水銀やカドミウムなど六物質の電気製品への使用を二〇〇六年七月から制限する指令「RoHS(ローズ)」を施行している。

一 水銀汚染の防止を図る国際条約づくりについて

 このような中で世界的に関心が高まっている水銀汚染の防止を図る必要性から国際条約づくりに向けた交渉が進められており、スイスやノルウェーなど五カ国は、法的拘束力を持つ条約の制定を考えているところである。現在議論になっている条約の中枢的な中身は、水銀の一次生産廃止、水銀の輸出禁止、二〇二〇年までに水銀使用量や排出量の削減などである。大気中への水銀排出量が多い米国や中国などは拘束力のある条約については否定的であるが、日本は、第一に世界最悪の有機水銀中毒とされる水俣病を経験し、実効的な「水銀規制国際条約づくり」に当たっては、情報の共有化など、また法的拘束力を持つ条約の制定を積極的に進めること、第二に化学物質管理の国際的議論の中で水銀以外の金属、特に重金属対策に関する議論を具体的に行うこと、第三に免疫の弱い小児等に関する大規模なコホート的な疫学的環境保健調査を行い、実態を明らかにすること、第四に化学物質過敏症、有機リン中毒、農薬中毒など子どもの周りの環境リスクが高まっていることを鑑みて予防的取組の視点から子どもの脆弱性に配慮した「子ども環境リスク削減法(仮)」の法制化を行うこと、このような国際的な先進的取組こそが「美しい日本」の内実を強化することになり、チャイルドファースト社会、究極的には子どもの生育環境の保全にもなることから少子社会へ貢献しうるものと期待できる。これらについて、政府の見解を示されたい。

二 「子ども環境リスク」と省庁間連携について

 日本国内においても環境保健等の視点から化学物質の子どもへの影響に関する取組がなされているところであるが、予防的な取組方法については、私は、二〇〇二年五月二十三日に「我が国における『予防原則』の確立と化学物質対策等への適用に関する質問主意書」(第一五四回国会質問第二五号)及び二〇〇三年七月二十八日に「我が国の環境政策における『予防原則』の適用に関する質問主意書」(第一五六回国会質問第五一号)の二つの主意書を提出したところであるが、必ずしも十分な答弁ではないと認識している。当時と状況も大きく変化し、予防原則への位置付けも良い方向になりつつあると判断している。当時の質問の意義を踏まえて、以下、政府の見解を示されたい。
1 私は二〇〇六年二月の環境委員会で、予防原則の発動要件について各省連携して研究調査するよう要望し、対応するとの答弁であった。その後、関係省庁間でも検討されていると聞いているが、これまでどの様な成果が得られ、その結果を踏まえ今後どのように対応することとしているのか、アクション・プランを示されたい。
2 化学物質の子どもへの影響の問題について、政府はどのような取組を省庁で行っているのか。また、その成果について、関係省庁と情報を共有するなどの連携した取組を図っていくべきと考えるが、政府の見解を示されたい。
3 二〇〇六年二月、国際科学物質管理会議(ICCM)において採択された「国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM)」の国際会議おいて、子どもの環境におけるリスクの増大が強く指摘されており、化学物質汚染対策、特に大人に比べて脆弱な小児と化学物質についての調査は非常に重要である。小児と化学物質対策に関し「SAICM」の意図を十分反映すべき「第三次環境基本計画」であったが、不十分である。さらに踏み込むべきであったのではないかと考えるが、今後の取組の改善についてどのように取り組んでいくのか、政府の見解を示されたい。

三 環境計画(UNEP)の組織改革-「環境国連」化の道とアジアへの設置-について

 国連機関の環境機能の強化について、「現代に生きる人間の自然観、生命観、価値観を根本から変革することによって、破滅へと進む人類の未来を、必ずや変えることができる」。IPCCの第三作業部会報告は、このようなことを示唆しているのではないか。気候安全保障の確立は、人類の総力戦であり、国際機関についても改革を行い効率性が求められている。特に地球環境関係機関については、機敏に行うべきである。EUでは現行の国連環境計画について、従来の組織を統合的、かつ強力な「環境国連」的な機能をもつ組織へと改革を考えており、二〇〇六年のIPU総会においても「IPU地球環境決議二〇〇六」において合意がなされている。すなわち今後、国連環境計画(UNEP)の一層の強化、特にUNEPのもつ科学的知見の集積・分析、多国間環境条約の調整等の機能の強化の重要性が指摘されているところであるが、その強化については、一九七六年のハビタット(人間居住センター)等の成果を踏まえてより効果的な国連の専門機関(UNEO)化の視点から行うべきである。そのためには既存の多国間環境条約の整理統合を含め、合理化・効率化が必要であり、より本質的には、国連組織内のスクラップアンドビルドを念頭に行い、改編によるメリットは何か、費用対効果や財政的インプリケーションも含めて検討する必要があると言われている。より本質的には人間と自然との調和という観点ばかりでなく国と国、特に「北」と「南」との調和、すなわち南北問題の解決に向けて、WIN-WINの解をどう導くかがカギである。
1 問題はどこに創設するのかである。特に地球環境問題は、アジアが世界経済の成長センターになっていること、中国などの環境汚染の諸問題は深刻であることから先の検討課題を前提にアジアにこそ創設し、地球環境対策にかかる諸資源(人、ノウハウ、情報、資金など)を集中させ効果的に対応するべきであると考えるが、政府の見解を示されたい。
2 環境破壊の深刻な中国の現状は、中国一国の問題にとどまらず今や国境を越えた大気環境汚染や海洋汚染の拡散へと多国間に被害拡大が予測されている。そこでかねてより公明党が主張している基金について、戦略的互恵関係にある日中両国は、中国の環境保全機能の向上のためにも実効的な「日中環境基金」の創設を行い、具体的な環境政策を機敏に行うべきであるが、政府の見解を示されたい。

四 環境外交インフラの強化・拡充について

 気候変動は地球規模的問題であり、環境技術的専門知識等が織りなす複雑系である。人類益を目指しつつもこれだけに終始するものではなく各国の国益がぶつかり合う「経済戦争」の面もあり複雑であり、日本の環境外交のイニシャティブの発揮のために機敏なノウハウ、情報通信技術、人材等を含めた環境外交インフラを今まで以上に格段に強化・拡充すべきであるが、政府の見解を示されたい。

五 黄砂等による「新しい複合汚染問題」について

 NOx・PM問題とともに今後懸念されるのは黄砂現象による健康被害である。近年、中国において急速に広がりつつある過放牧や森林減少、土地の劣化、砂漠化といった人為的影響により、黄砂現象の発生の頻度と被害が拡大化している。黄砂で問題なのは、日本に到達する黄砂は北京に到達する黄砂よりも粒子が細かく極微細な砂塵であること、さらに、偏西風に乗って飛来する時、中国の農業地域、工業地帯を通過し、農薬の混じった土壌や人為起源の大気汚染物質を取り込んで飛来していることである。
1 これらの規制化に向けて「砂漠防止条約」の視点から対応ができないのか、できなければ条約改正を含めて国際社会での検討を進めるべきと考えるが、政府の見解を示されたい。
2 二〇〇五年四月十五日から十六日には鳥取県衛生環境研究所の観測で、黄砂を含む大気中から通常平均値の十三倍のマンガン、二十二倍のヒ素、七倍のクロム、三倍のニッケルなど八種類の重金属が検出されたと新聞に報道された(二〇〇六年六月十八日付け読売新聞)。韓国では、二〇〇二年三月の黄砂大飛来の時に四千九百四十九校の幼稚園、小中学校、高等学校が休校し、百二便の航空機が欠航し、病院では呼吸器科、皮膚科、眼科に通院する患者が急増したと報告されている。日本においても、黄砂発生の時期に半導体の工場で不良品率の増加やフィルターの目詰まりが発生し、同様の被害が認識されているとの報告がある。政府は、全国九箇所で黄砂の実態解明調査を実施しているが、黄砂による浮遊粒子状物質は、我が国にどの程度の頻度で飛来しているのか、その粒子の物理的性状(粒子分布、粒子の形状、表面構造等)や化学的性状(化学組成、鉱物組成、吸着・付着した農薬等の大気汚染物質等)について、政府の認識を示されたい。
3 黄砂の及ぼす健康被害について、中国の医療専門家は砂塵の中の微小粒子が肺の組織に入り免疫力の弱い人が影響を受けやすく、空気中の砂塵の増加にともなって、胸部感染、心血管疾病、心筋梗塞、高血圧及び脳卒中が増えていると指摘している。また韓国では、六十五歳以上の高齢者の死亡率が黄砂現象期間中に増加し、特に心臓血管系疾患及び気管支疾患が原因の死亡率が高くなったとの疫学調査の報告がなされ、呼吸器系及び循環器系疾患の入院や眼科、循環器、呼吸器の通院が大きく増加したとの報告がある。これらについての政府の見解を示されたい。
4 日本では、マウスを使った病理学的な影響を調べた研究報告がなされているだけで、疫学的調査はなされていない。第一に、今後、NOx・PM等の大気汚染物質との複合汚染を含めた健康被害に対する疫学的調査研究に着手すべきである。第二に、特に免疫が弱い環境弱者である乳幼児への影響について疫学的調査研究を行うべきである。第三に、そもそも単一物質による環境汚染に関するリスク分析は、確立しているが、複合汚染に関するリスク分析の在り方は、未確立である。総合的なリスク分析の方法論の確立を目指して調査研究すべきである。これについても今まで委員会において質疑している。どの段階まで進展しているのか。以上三点について、政府の見解を示されたい。
5 風上国と風下国との関係において、九州や新潟などで二十一世紀に入って以降光化学スモッグ発生の警告が頻繁化している。また中国は先に記述したように年間六百トン前後の水銀を大気中に排出している。また発展途上国のDDTなどの使用による化学物質のグラスホッパー現象の影響も見逃すことはできない。さらに東南アジアで発生するヘイズも大気汚染である。越前クラゲの大量発生による漁業被害など海洋の汚染も急速に進んでいる。原因を日本の観測技術で明確にすることである。大気汚染防止や海洋汚染防止などのための原因の特定のための調査研究を行うことを始め、国際的な大気環境基準や海洋環境基準などを含め、機敏に対応を進め、特に乳幼児への悪影響を大変懸念されていることから機敏に進めることである。国連海洋法条約が存在するが、どのように規制されているのか、以上を踏まえて、規制に向けた新しい議定書作成を含めた国際条約の不足分に対応する「国際的な海洋汚染等情報ネットワーク(仮)」の形成を提案・推進すべきと思うが、政府の見解を示されたい。
6 右記の黄砂等についても酸性雨等の越境大気汚染の防止対策を義務付けるとともに、酸性雨等の被害影響の状況の監視・評価、原因物質の排出削減対策、国際協力の実施、モニタリングの実施、情報交換の推進などを定めたアジア・太平洋版の長距離越境大気汚染条約の締結を進めるべきである。政府の見解を示されたい。

六 海岸環境整備のための「海岸線環境整備アクション・プラン(仮)」について

 我が国の海岸線は三万キロメートルを超えて世界第六位、国民一人当たりでは世界最長である。その海岸は千葉県、茨城県など白砂青松の砂浜は海岸侵食が進行し見るも無残な光景である。海辺を守ってきた動植物も次から次へと死滅し、生物多様性の確保が懸念されている。全国の海岸が、大なり小なりこのような状況と考えられる。地球温暖化による海面上昇、強力な台風の発生などとの関係が無いと言い切れない。九十九里浜の一女性のサーファーの陳情を受けて、この現実を重く見て党内に「海岸環境保全整備プロジェクトチーム(座長・加藤修一)」を設置し、千葉県館山市において関係二十一市町村自治体、住民からなるビーチ環境サミットの開催による地域意見の集約を行ってきた。次いで海洋基本法成立過程においても、サーファー等住民の意見、署名を反映させて海岸環境の保全などを第二十五条に挿入できた。いささかの強調が許されれば、海岸線の二百メートル、三百メートルの後退は排他的経済水域にも影響を与えかねない。また「骨太の方針二〇〇七」にも災害対策を含めた海岸整備に関する文言が記述されたところである。この六月二十二日にも更なる署名に基づいてサーファーの代表が安倍内閣総理大臣に直接申し入れを行ったところである。改めて、国土形成、地球温暖化による海水面上昇対策など、海岸近辺の街づくり、国民に開放される憩いの場所としての海辺の利便性の向上など海岸整備の拡充が積極的、かつ計画的に進められるためにも日本全国の海岸実態調査を実施するとともに「海岸線環境整備アクション・プラン(仮)」の策定を行うべきである。政府の見解を示されたい。

七 日本主導による「国際気候変動災害保険機構(仮)」創設の提案について

 気候変動による大災害など世界各地に被害が出ており、世界最大規模の再保険会社のミュンヘン再保険は、二〇四〇年には一兆ドルの被害試算額を予測している。また英国経済顧問ニコラス・スタンのレビューによれば、最悪のケースでは、世界のGDPの二十パーセントの被害が想定され、最大の被害想定は、第一次世界大戦、第二次世界大戦、世界恐慌の総合計の経済損失に匹敵するとまで指摘している。二〇〇五年八月のハリケーン・カトリーナの大災害は、連邦政府に多大な出費を強い、かつ幾多の保険会社を倒産に追いやったほどのことである。災害や減災対策のインフラ整備等に巨額な資金が必要になることは明白である。
1 二〇〇八年の日本サミットには、二〇〇五年に策定された「グレンイーグルス行動計画」の進捗状況が検討され、地球温暖化への適応政策を含む先進国の協力と負担が議論される。負担について先進国のODA等が従来から議論されているが、先進国の途上国への資金負担にも限界があり、我が国にとっても財政再建への大きな圧迫になり得る。そこでインフラ整備については、事業効果がVFM指標で検証できるPFI(プライベート・ファイナンス・イニシャティブ)などの民間活力をも生かす対策を提案すべきである。政府の見解を示されたい。
2 災害の復旧・復興対策の事前準備である。「備えあれば憂いなし」である。日本では、気候異変に対する保険サービスとして、冷夏・猛暑保険や低温・日照保険などの「天候デリバティブ」が商品化され、アメリカには、穀物生産保険がある。途上国では、農業に被害があれば、防災インフラが不十分なこと、未整備なことやこのような保険の仕組みが無いことからひとたび災害が発生した場合の影響は深刻である。天候デリバティブ等を途上国においても使用することができれば、異常気象による被害からの早期回復を図ることができる。またカトリーナのように被害規模が拡大することが十分想定できることから国際社会において、支えあう多重の保険制度の構築が必要である。この場合、保険料の負担をいかに抑えるかであるが、そのためには保険の料率などの算定に関する①基本的なデータ収集整備と分析力、②国際再保険の活用、さらに③災害保険の証券化などの金融工学の応用と公的資金の協力によって、強力な投資家を呼び込める大規模災害債権、即ちカタストロフィ・ボンド(CATBOND)などの活用に基づく仕組みを検討することが必要になる。まずは、東アジア地域を念頭におき、日本の地球シミュレータや気象衛星などを含めた科学技術、情報技術、金融工学等を駆使して、被災地の復旧・復興に向けて国際的に支え合う仕組み、すなわち「国際気候変動災害保険機構(仮)」の創設を日本主導で検討・提案すべきであると考えるが、政府の見解を示されたい。

八 国際的な動き「資金調達メカニズム」の検討委員会の設置と構築案の提示について

 世界の地球温暖化対策に要する年間資金総額は、スターン・レビューによれば世界のGDP(二〇〇五年推計で約四十四兆ドル)の一パーセント、約四千四百億ドルと膨大である。またIPCCの第四次評価報告の第三作業部会の報告に対応するためには、従来のODA(二〇〇六年、世界総額千四十億ドル)では不十分である。しかし先進国の一員である日本はいかなる手段によって地球温暖化の適応政策等に必要な一パーセント等に貢献できるかを求められている。国際的、統合的な資金調達メカニズムが必要である。
1 ハイリゲンダムサミットでは、ヘッジファンド問題についても取り上げられた。経済のグローバリゼーションの中でも、最も大きな力を持っているのが、株式や為替の取引にかかわるヘッジファンドである。この活動は大きく、為替取引額の増大が示しており、一九七〇年代初期には一日に百八十億ドルだった為替取引額は、一九九〇年代中期には一日に一・三兆ドルになり、全世界の年間商品輸出額約五・三兆ドルと比較すると膨大な取引量である。さらに二〇〇〇年代には、それぞれ一日二兆ドル、年間十兆ドルに増加した。この金融取引によって一九九七年のアジア通貨危機のように、投機的な為替取引が一国の通貨を暴落させ、経済を破壊するという事態さえ起きるようになったことは記憶に新しい。日本経済もドイツと同様に少なからず悪影響を受けてきたところである。近年、「欧米の巨大金融機関が、ヘッジファンドを通じてリスクビジネスにかかわり過ぎる」と、ファンドの背後の出資者は外部から見えないなどの指摘やヘッジファンドと協調するには、その動きを監視する国際的な仕組みが不可欠との指摘が多くある。したがって、ヘッジファンドは、抑制的な行動を行うように自主的ガイドラインを含めて規制措置を行うべきである。このような事態を引き起こすヘッジファンドの行動と情報公開などの自主的なガイドラインづくり、さらに監視する国際的仕組みの構築に対する基本的認識について、政府の見解を示されたい。
2 先のような事態から短期的、投機的な為替取引は一定の抑制的仕組みが必要との国際的議論が起こっていることに注目し、為替取引にごく低率の税を課すことにより、金融市場の不安定性を減少させることが必要である。ここでは「通貨取引税」の検討を提案する。これに関してはトービン税の国際的な導入を目指すカナダ国会やEU議会などの動きを、十分調査研究することであるが、まず国際課税である「通貨取引税」、及び国際連帯税の最近の動向に関する政府の認識を示されたい。
3 世界の通貨取引は年間五百兆ドルに達しており、そのほとんどが投機的な短期資金である。低い課税率、例えば〇・〇五パーセントを考えると年間二千五百億ドルになる。課税措置は世界市場を混乱させる短期的、投機的取引の抑制にもなるばかりか、地球温暖化対策の資金調達のメカニズムの創設に十分役立つことからも一石二鳥と捉えることができる。このような国際課税については、多くの議論が積み重ねられてきた。日本は、極めて慎重な姿勢に終始しているが、人道的競争の時代への展開が見え始めた時代にあっては、今までの課題を積極的に検討・乗り越えて、積極的な行動を示すべきである。
(一) 今までの国会等における政府の考えを検討すると、日本政府は、課税に際して投機的な資本移動とその他の取引と区別できないとしているが、必ずしも区別して課税を考えることは無いと考えられる。為替取引は、スポット取引、オプション、通貨スワップ、先物取引、先渡し契約、為替デリバティブなどがあるが、課税は広く、全体に薄くすべきである。したがって区別しないことが前提である。このように認識できるが、政府の見解を示されたい。
(二) 日本政府は、導入効果・課税効果が、疑問であるとしているが、今日地球的規模問題の発生に対応して多くの資金調達のメカニズムの構築が求められることに鑑み、低率の〇・〇五パーセントであったとしても年間二千五百億ドルになる資金源は魅力的である。これは世界のODAの二倍に相当し、ODA財源が逼迫している我が国にあって、世界に貢献できることから導入効果・課税効果は十分あると認識できるが、政府の見解を示されたい。
(三) 日本政府は、現実的な執行の困難性やグローバルな執行が難しいといった実務上の問題点を挙げているが、現在の完全に電子化された通貨市場においては、徴税の技術的障壁はないに等しい。二〇〇二年に創設された多通貨同時決済機構(CLS銀行)の出現は、さらに容易になってきている。世界の銀行部門の主導で創設したCLS銀行はすべての決済を同時に集中的に実行することにより、大量の外国為替取引の安全性を担保する新しいシステムである。為替取引の特定と税の徴収にとって、実際的であり、可能な、かつ便利な機関となっている。CLSは、外為取引の二通貨の決済の同時履行を連続的に保証する仕組みである。したがって、オフショア取引もデリバティブも捕捉可能になったことからもグローバルな執行が難しいことではない、と認識できるが、政府の見解を示されたい。
(四) 日本政府は、課税の根拠が薄弱であるとしているが、我が国の消費税を含めて各国の付加価値税制度を考えた場合、国際的な通貨取引市場は世界で最も利益を上げているところであり、しかも課税の対象外になっているところであり、課税根拠が薄い分野ではない。しかも国際社会の考え方は変わり始めて課税への動きが急である。日本は課税列車の最後尾に飛び乗るべきでない、と認識できるが、政府の見解を示されたい。
(五) 日本政府は、タックス・ヘブンの存在によって市場に歪みが生ずるのではないかと考えているが、多通貨同時決済機構(CLS銀行)の出現は大きい。現在、為替取引のほとんどは電子取引で行われている。脱税へのリスクも極めて小さい。法定システムにすれば治外法権的なオフショア金融センターもタックス・ヘブンも特定国に参加せざるを得なくなるので市場の歪みというよりは、逆に是正させることになるのではないか、と認識できるが、政府の見解を示されたい。
4 既に国際社会における現況は、政治的意思さえあれば実行可能だという認識は、次第に広まってきている。例えば、フランス議会は二〇〇一年十一月に通貨取引税(CCT)導入法案を可決した。但し、実施にはEU加盟国全員の合意をもってという条件がついている。ドイツでは、二〇〇二年二月、政府が「CCTは実現可能である」という研究報告書を発表した。スパン報告書とも呼ばれているが、世界の為替市場でG7が占める比率は既に八十パーセントから九十パーセントにのぼっているのでG7がCCTを導入すれば十分だと指摘している。二〇〇六年の革新的な開発資金源に関するパリ閣僚会議は、「開発資金のための連帯税に関するリーディング・グループ」を設置し、三十八ヶ国が参加に署名したが、日本は、このグループメンバーに入っていない。日本の立場は、憂慮するところであり以上のことを十分鑑み、日本はただちに積極的な検討を開始し提案すべきである。政府の見解を示されたい。
5 国連の推計によれば、世界の貧困をなくす基礎的社会的支出に必要な金額は年間四百億ドル、二〇一〇年には、五百二十億ドル不足となる一方、世界の最貧四十一カ国の累積債務総額は一九九八年で千六百九十億ドル、二〇〇二年には千七百億ドル(四十二カ国)という貧困国が存在し、気候変動の深刻化によっては、多くの被害が想定される。この状態ではMDGs(ミレニアム開発目標)の達成は、現実的に不可能である。このようなことからも最近、フランス政府が航空料金に課税し貧困撲滅資金を調達していることは、特筆に値する。注目しなければならない。この新たな航空券税は、二〇〇六年七月からスタートし、二十年間でおよそ百億ユーロ(約一・三兆円)の新たな開発資金が調達できる見込みとされており、その資金の受け皿としてIDPF(国際医薬品購入ファシリティー)であるUNITAID(ユニットエイド)が発足し、資金はHIV・エイズ、結核、マラリアといった世界的な感染症対策にあてられる。これは、旧宗主国の責任もあるかも知れないが、先進国の国際貢献への積極姿勢であり、国際連帯税の第一歩であり、人道的競争(共創)の時代精神の萌芽であると捉えている。今後、世界各国へ拡大されるべきである。このようなフランスの取組に対する政府の見解を示されたい。
6 フランスは航空券税を導入するにあたって、ODAの対GNI比〇・七パーセント目標を二〇一二年に達成するというコミットメントをした上で、各国にこの目標の達成を呼びかけ、補助的な開発資金の財源として、航空券税の導入を提起した。フランスの取組に関してこれらは、今後の地球温暖化対策の国際的推進の資金調達メカニズムの創設に十分参考になると思われる。また英国の国際金融ファシリティ創設の提案や航空・船舶燃料への課税など多くの議論が見られる。日本政府は、国連開発計画(UNDP)が提案している国際公共財として途上国の貧困対策や持続可能な開発のための資金調達のメカニズムに関する検討委員会を立ち上げるなど積極的に進めることである。言うまでもなく、これらの資金メカニズムは単なる開発に対する資金源としないことである。世界的な再配分メカニズムの初期段階と考えることも重要である。経済・金融グローバリゼーションが世界的不均衡を増大させていることから抑制的、規制的対応が議論されている今日、ヘッジファンドや多国籍企業はグローバリゼーションの受益者として課税と環境税にかかわるべきである。またかつて国連人間環境会議の際に「貧困こそ最大の環境汚染ではないか」との声が発展途上国から発せられたが、的を得た発言であり、これを敷衍すると人道的、かつ環境的視点に十分対応した資金調達のメカニズムをつくることである。
 この考え方を踏まえて、日本は人道と環境に対応した人道・環境税、すなわちクール・アース・タックス(CET)を検討し、二〇〇八年G8日本サミットにおいて、例えば「国際的資金調達メカニズム・ニッポン・イニシャティブ(仮)-美しい星の人道・環境税(クールアースタックス(CET))」を提案すべきである。以上についての政府の認識、検討委員会の設置、提案に対する政府の積極的な見解を示されたい。

  右質問する。