質問主意書

第166回国会(常会)

質問主意書


質問第五二号

新日本製鐵株式会社での思想差別の調査及び是正指導に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十九年六月二十五日

仁比 聡平   


       参議院議長 扇 千景 殿



   新日本製鐵株式会社での思想差別の調査及び是正指導に関する質問主意書

 基本的人権を定める日本国憲法が公布されて六十一年、労働者の思想信条の自由を定める労働基準法が公布されて六十年を経た。しかし、労働現場においては、今日なお、これらの規定がいかされる状況にない。企業による労働者への基本的人権の侵害に対する厳しい判断はこの間、関西電力、中部電力、東京電力、クラボウ、鈴木自動車、石川島播磨重工業など各思想差別事件に対し裁判所や労働委員会が行った判断等が端的に示している。重大な問題はこのような判断が下され、企業はそれを受け入れて是正を約束しても、実際には多くの職場でそれが改められることなく人権侵害、思想差別、性差別が放置されている状況にあることである。こうした状況は、職場における自由と民主主義を侵害し、労働者の安全衛生が軽視されていることと裏腹の関係になっていると言わざるを得ず、重大な事態である。新日本製鐵株式会社(以下「新日鉄」という。)でも「新日鉄広畑の人権侵害・思想差別事件」で二〇〇五年十二月、会社側が和解を受け入れ「一審判決を真摯に受け止め、今後、憲法、法律、基本的人権を尊重し、すべての従業員を公平・公正に処遇することを改めて約束する」と表明し原告側労働者が勝利和解した。これを受けて新日鉄の労働者は、和解内容に基づき広畑製鉄所、名古屋製鉄所、堺製鉄所、八幡製鉄所、新日鉄エンジニアリング、新日鐵化学の各事業所に対し思想差別の是正を求めた。しかし、会社側は事実上和解内容を反故にし、門前払いを含む不遜な対応を続けている。このため二〇〇六年十二月七日、新日鉄八幡、新日鉄エンジニアリング、新日鐵化学各事業所の労働者は北九州西労働基準監督署に対して、実名を明らかにして労働基準法第百四条に基づく申告を行った。その内容は、会社側が共産党員などの職場での行動、労働組合での発言、地域における平和運動の取組状況、裁判傍聴の状況、門前ビラ配布の回数、共産党の選挙運動の状況、家族の職歴などを調査したいわゆる「ブラックリスト」を作成していたことを告発し、思想により資格、昇格、賃金などの差別が行われていることが憲法の理念とこれを具体化した労働基準法に反する行為として是正を求めている。
 北九州西労働基準監督署への申告からは、既に半年以上経過している。今こそ労働基準法に基づく監督権限を有する厚生労働省の行政上の適切かつ厳正な措置が改めて強く求められるところであり、この対応に関し、以下質問する。

一 使用者が従業員の思想信条や日常生活、行動を調査し、「ブラックリスト」として作成し管理すること、しかも労働者本人に断り無く行うことは、労働者へのプライバシーの重大な侵害であるが、我が国においては、このような行為は何ら法令に抵触しないと考えているのか。政府の見解を示されたい。

二 申告した九名の労働者は、申告時に自ら関係資料及び情報を提供し、本年二月にも北九州西労働基準監督署の求めに応じて確認書や資料を提出し説明も行っている。またその席上、会社の言い分を開示された時点で新たな証拠を提出する意志のあることも伝えている。

1 政府は、これまで、会社に対して調査等どのように対応してきたのか、明らかにされたい。
2 政府は、今後どのように対応するつもりなのか、具体的に示されたい。
3 政府は、右申告者に対し回答等をどのようにしているのか、明らかにされたい。

三 新日鉄の労務政策は、各事業所等でバラバラに実施されたのではなく、本社が基準を示しその指揮の下に行われたものであることは「広畑人権裁判」の中で、会社側代理人が労務管理の一貫性を主張してきたことからも明らかである。したがって、新日鉄本社への調査、是正指導等が不可欠であるが、本件に関し本社への調査等を行っているのか、明らかにされたい。また、行っていないのであれば、その理由を明らかにされたい。

四 本件については、三で述べたように各事業所への対応で解決することは到底不可能であり、よってそれぞれの事業所を管轄する労働基準監督署に任せておくべきではない。労働基準法第九十九条第四項に基づき厚生労働省本省が指導的な役割を果たすべきである。そうでなければ本社(人事部)主導の企業犯罪の調査の実を挙げることは不可能であることは、容易に察せられることである。私企業に係る個別具体的な事案に関する事柄に対して、具体的な指導ができなければ法の番人としての役割を果たし得ないと考える。政府は、この点についてどう考え、対応しているのか明らかにされたい。

  右質問する。