質問主意書

第166回国会(常会)

質問主意書


質問第三二号

外国人技能実習生に係る厚生年金保険制度に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十九年五月七日

山下 八洲夫   


       参議院議長 扇 千景 殿



   外国人技能実習生に係る厚生年金保険制度に関する質問主意書

 私は、さきに外国人技能実習生に係る厚生年金保険制度に関する再質問主意書(第一六五回国会質問第三八号)(以下「再質問主意書」という。)を提出し、去る平成十八年十二月二十日にその答弁書(以下「再答弁書」という。)を受領した。しかし、その内容は、質問に対してすべてを網羅した答弁とはなっていない。よって、改めて不十分な点に関して明らかにするとともに、明確で国民に分かりやすい答弁を求める観点から、以下質問する。

一 政府は、再答弁書「一について」において、「日本国籍の有無にかかわらず強制的に適用されるものであり、外国人技能実習生についても、厚生年金保険法に定める被保険者の要件に該当する場合には、厚生年金保険の被保険者となるものであり、同法第九条はこの趣旨を規定している。」との趣旨を述べており、厚生年金保険法(以下「本法」という。)第九条の形式的な文言解釈を答弁するにとどまっている。

1 就業期間や転職の自由がない等の点で在留外国人一般と異なる重大な制約に服する外国人技能実習生は、一般論として日本国民と同等の社会生活を営んでいない。加えて、老齢厚生年金の受給の見込みがない外国人技能実習生にとって、本法の被保険者に含まれることは利益にならない。すなわち、本法第九条は、形式的に外国人技能実習生が在留外国人に該当したとしても、必ずしも被保険者に含めることまで要求するものではないと言える。政府は、本法第九条の解釈につき、形式的な文言解釈から脱却し、同条の趣旨に基づく実質的な解釈をするべきである。このように実質的に解釈した上で行政裁量権に基づき外国人技能実習生を被保険者から除外することは可能であると考えるが、政府の見解を示されたい。
2 私は、中国の研修協力機構から、外国人技能実習生については、本法の強制適用をしないことに賛成である旨の文書を受けている。このことからしても、外国人技能実習生について、本法の適用除外を図ることは、国民及び当該外国人技能実習生等の理解も得られると考えるが、政府の見解を示されたい。
3 ILO条約第百二号条約(以下「本条約」という。)第六十八条第二項は、「拠出制の社会保障制度においては、当該部の義務を受諾した他の加盟国の国民である保護対象者は、その部に関して自国民と同一の権利を有する。」と規定されている。近隣諸国等との友好関係をより一層図る上からも、本条約を批准していない中国、アメリカ合衆国等の外国人技能実習生を含めた他の国の国民についても、同規定の精神はいかされるべきである。つまり、未批准国の国民たる外国人技能実習生にも、拠出制の厚生年金保険法の適用に当たっては、本条約第六十八条第二項の趣旨を準用し、厚生年金保険法の適用除外をすることが国際友好上あってしかるべきと考えるが、政府の見解を示されたい。

二 再答弁書「三の1について」においては、「お尋ねの「これまでの政府の見解」の内容が必ずしも明らかではなく、お答えすることは困難である。」と答弁を回避しているが、私が、再質問主意書で言うところの「これまでの政府の見解」とは、厚生労働省年金局数理課公表「厚生年金・国民年金 平成一六年財政再計算結果」で示されている「国民の老後の生活設計の柱である公的年金制度」及び「公的年金制度は、国民全体の連帯による世代間扶養の仕組みによって終身にわたる確実な所得保障を行うものであり、長期的な展望と計画性を持って健全な財政運営を行う必要がある」ことを指している。

1 「国民全体の連帯による世代間扶養の仕組み」の中には、外国人技能実習生も含まれるのか、政府の見解を示されたい。また、外国人技能実習生は、障害厚生年金、遺族厚生年金の支給対象ではあるが、実際に支給された事例は寡聞にして聞かないところ、政府は、このような外国人技能実習生についても「相互扶助の理念」が妥当すると解するのか、政府の見解を示されたい。
2 平成十八年十一月十日付け答弁書(内閣参質一六五第一五号)(以下「第一回答弁書」という。)「五の1」の答弁は、公的年金制度が国民全体の連帯による世代間扶養の仕組みであるとの基本的考えが、「国民」ではなく「何人」へと変遷したのか、政府の見解を明確に示されたい。

三 再答弁書「三の2について」においては、「被保険者の要件に該当する限り個人の事情にかかわらず被保険者とするものであり」と答弁しているが、外国人技能実習生は、「特定活動」という在留資格で、かつ平成五年四月五日付け「技能実習制度に係る出入国管理上の取扱いに関する指針」(以下「法務省告示」という。)で滞在期間について研修活動の期間を合わせて三年以内と定められている者である。このような外国人技能実習生の立場は、法務省告示等に基づく事情であって個人の事情ではないと考えるが、政府の認識及び答弁内容の趣旨を明確に示されたい。

四 再答弁書「四の1及び2について」においては、「遺族厚生年金の保険給付に関する事項の記録については、外国人であるか日本国民であるか及び外国人技能実習生であるか否かを区別して管理はしていない。外国人技能実習生であるか否かは給付や負担に直接関係するものではないことから、厚生年金保険制度に関する議論を行う上で必ずしも必要なことと考えていない。」との趣旨の答弁をしているが、日本国民と外国人技能実習生と比較した場合、特に給付に関して根本的な違いがある。しかるに、外国人技能実習生であるか否かは、給付と負担の関係(年金財政の均衡)を検証する際に直接関係するものである。

1 第一回答弁書「五の1について」で答弁のあった厚生年金保険制度又は社会保障制度についての議論は、外国人技能実習生のように老齢年金の給付が全くないという異質的対象者を区分した給付と負担の関係データなくして十分な議論が行えないと考えるが、政府の見解を示されたい。
2 遺族年金等の保険給付に関する事項の記録は、外国人と日本国民、さらには外国人技能実習生であるか否かについて区別できるよう管理システムを改めるべきであると考えるが、政府の見解を示されたい。

五 再答弁書「五の1について」においては、「厚生年金保険制度における脱退一時金については、当該外国人労働者本人の立場に配慮して例外的に支給するものであり、政府部内における検討を経て、その支給額の算定に当たっては被用者の保険料負担相当分についてのみを勘案することとしたものである。」との趣旨を答弁している。

1 国民への説明責任を果たす観点から、脱退一時金に関する政府部内における検討状況等について明らかにされたい。
2 脱退一時金の支給額について、被用者の保険料負担の全額でない理由を具体的に示されたい。

六 外国人技能実習生には国民全体の連帯による世代間扶養はあり得ない。したがって、事業主が被用者のために厚生年金保険料の二分の一を拠出するということは合理的理由に欠けるものである。また、脱退時には、当然にして当該負担分について、被用者、事業者にかかわらず掛金の全額を返還すべきであると考える。このようなことから、外国人技能実習生については、厚生年金保険の適用除外が最も合理的であると考えるが、政府の見解を示されたい。

  右質問する。