質問主意書

第165回国会(臨時会)

質問主意書


質問第三八号

外国人技能実習生に係る厚生年金保険制度に関する再質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十八年十二月十三日

山下 八洲夫   


       参議院議長 扇 千景 殿



   外国人技能実習生に係る厚生年金保険制度に関する再質問主意書

 私は、外国人技能実習生に係る厚生年金保険制度に関する質問主意書(第一六五回国会質問第一五号)(以下「前回質問主意書」という。)を提出し、去る十一月十日にその答弁書(以下「前回答弁書」という。)を受領した。しかし、前回答弁書の内容について、趣旨等を確認するとともに、詳細で分かりやすい答弁を更に求める観点から、再度、以下の質問をする。

一 前回答弁書「二の1について」では、「厚生年金保険制度は、事業主との間に一定の使用関係が認められれば、被用者の日本国籍の有無にかかわらず強制的に適用されるものであり、外国人技能実習生についても、同法に定める被保険者の要件に該当する場合には、厚生年金保険の被保険者となるものである。」との見解を示している。
 最高裁は、平成元年三月二日最高裁判所第一小法廷判決(いわゆる「塩見訴訟」)において、「社会保障上の施策において在留外国人をどのように処遇するかについては、…その政治的判断によりこれを決定できる…。」、「したがって、…支給対象者から在留外国人を除外することは、立法府の裁量の範囲に属する事項と見るべきである。」旨判示している。これは、在留外国人への社会福祉給付に関する広汎な立法裁量を認めたものであり、当該判決に従えば、在留外国人たる外国人技能実習生に関して、社会保障関連の法律の対象に含めるか、又は対象から除外するかについては、立法府に広汎な裁量権が付与されていると言える。
 厚生年金保険法第九条においては、被保険者の要件として、「適用事業所に使用される七十歳未満の者」を要求するにとどまっており、日本国籍の保有を要求しておらず、被保険者に在留外国人一般を含めたとも言える。しかし、外国人技能実習生は、就業期間や転職の自由がない等の点で在留外国人一般と異なる重大な制約に服し、日本国民と異ならない社会生活を営んでいるとは言えない。加えて、老齢厚生年金(拠出年金)の受給の見込みがなく、厚生年金保険法の被保険者に含めることは利益となるとは言えない。したがって、同条は外国人技能実習生を被保険者に含めない趣旨であると考える。
 そこで、法の執行機関たる行政機関においては、同条の趣旨を勘案し、外国人技能実習生に対して、同法を適用しない運用を行うべきであり、かかる運用については国民の理解も得られると考えるが、政府の見解を示されたい。

二 前回答弁書「三の1について」では、「政府内において外国人技能実習生に係る年金を論点として議論したことはない」と答弁しているが、他方では、「外国人技能実習制度の導入も一つの契機として、平成六年に脱退一時金制度を創設したところである」と答弁している。これらの答弁は相反するのではないかと考えるが、政府の見解を示されたい。

三 前回答弁書「五の1について」では、「厚生年金保険制度は、社会連帯と相互扶助の理念に基づき、…滞在期間の短い外国人労働者についても、…被保険者とし、…年金制度の給付と負担の関係についても、このような考え方を踏まえて議論を行うべきものと考える。」と答弁している。

1 厚生労働省年金局数理課公表の「厚生年金・国民年金 平成一六年財政再計算結果」では、公的年金制度について、「国民の老後の生活設計の柱である公的年金制度については、」と表現し、加えて、「公的年金制度は、国民全体の連帯による世代間扶養の仕組みによって終身にわたる確実な所得保障を行うものであり、長期的な展望と計画性を持って健全な財政運営を行う必要がある」と説明している。
 つまり、前回答弁書「五の1について」での答弁は、これまでの政府の見解を変えるものであると理解してよいか、政府の見解を示されたい。
2 厚生年金保険法の運用においては、老齢厚生年金、障害厚生年金・障害手当金及び遺族厚生年金の保険給付のうち、実際には、老齢厚生年金が給付の大部分を占めると言われているため、厚生年金保険制度の根幹は、老齢厚生年金に関する保険料徴収及び保険給付にあると言える。
 しかしながら、滞在期間が限られた外国人技能実習生が老齢厚生年金の受給資格(同法第四十二条第二号)を満たすことはなく、外国人技能実習生は保険料を支払っても老齢厚生年金を受給できない。したがって、外国人技能実習生に対して同法を適用しても「相互扶助の理念」を実現することは困難であり、「このような考え方を踏まえて議論を行う」とすると、外国人技能実習生に厚生年金保険料の負担を要求することは適当でないと考えるが、この点について政府の見解を示されたい。

四 前回答弁書「五の2について」では、「お尋ねのデータについては有していない」との答弁をしている。

1 公的年金制度に関する政策を評価し、国民に対する説明責任を全うすること及び前回答弁書「五の1について」において政府が示した年金制度の給付と負担の関係についての議論を行う上においても、外国人技能実習生に係る遺族厚生年金及び障害厚生年金・障害手当金の給付について、件数、支給金額、納入保険料に対する給付金の支給率等の最近十年間の年度別のデータの作成及び検証は必要不可欠であると考えるが、政府の見解を示されたい。
2 政府は、遺族厚生年金及び障害厚生年金・障害手当金の給付事実に関する記録について、具体的にどのような分類方法に基づいて記録を管理しているか明らかにされたい。また、その際に外国人と日本国民を区別した分類を設けているか、給付先として外国人技能実習生という分類を設けているか、それぞれ明らかにされたい。

五 前回答弁書「五の3について」では、厚生年金保険制度における脱退一時金について、事業主の保険料負担相当分について勘案することまではしないこととしたものである旨、また、厚生年金保険については、事業主にとっても、その結果として事業の円滑な実施に寄与する面があると考えられる旨の答弁をそれぞれしている。

1 この答弁は、厚生年金保険制度における脱退一時金に関し、事業主の保険料負担相当分を勘案することについての議論は行ったが必要ではないとの結論に至ったということなのか。また、議論が行われたのであれば、その日時、会議の名称、構成員、議論の内容について具体的に明らかにされたい。
2 不合理な厚生年金保険料の重課によって、外国人技能実習生を受け入れている下請を主業務とする中小零細企業の大多数は経営が圧迫されている。こうした実情を無視して、政府が、厚生年金保険は事業者にとって事業の円滑な実施に寄与する面があるとの認識を示した背景には、政府の審議会等が、我が国有数の大手企業の関係者及び大学教授等を中心として構成されているため、いわゆる地場産業を中心とした下請中小零細企業の実情等が的確に反映されていないことがあると考える。
 このような実情にかんがみ、政府は、下請中小零細企業振興の観点から、審議会等委員に下請中小零細企業関係者を更に登用する等、下請中小零細企業の実情等が的確に反映されるための施策を講ずるべきではないか。政府の見解を示されたい。

  右質問する。