質問主意書

第165回国会(臨時会)

質問主意書


質問第三三号

矢臼別演習場内風蓮川水系のイトウ保全対策に関する再質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十八年十二月十一日

紙 智子   


       参議院議長 扇 千景 殿



   矢臼別演習場内風蓮川水系のイトウ保全対策に関する再質問主意書

 さきに私が提出した「矢臼別演習場内風蓮川水系のイトウ保全対策に関する質問主意書」(第一六五回国会質問第一三号)に対する答弁書(以下「前回答弁書」という。)において、政府は、来春のイトウ調査実施の意向を明らかにし、今後の魚介類保護、土砂流出対策については矢臼別演習場・別寒辺牛川水系土砂流出対策等検討委員会(以下「検討委員会」という。)の検討結果を踏まえると述べた。また、前回答弁書を契機として、風蓮川水系のダム建設の根拠となったのは「昭和五十九年度矢臼別演習場土砂流出対策調査報告書」(昭和六十年三月提出。以下「昭和五十九年度報告書」という。)であるほか、平成十年度には魚道設置に関する判断の資料を得るため「西風蓮川流域第七号砂防ダム魚道施設調査設計委託業務」(平成十一年二月提出)で五か所の魚介類調査を行い、平成十年度以降のダム建設に調査結果を反映していることが明らかとなった。
 これらを踏まえ、来るべきイトウ調査が有意義なものとなるよう、またラムサール登録湿地となった風蓮湖集水域である風蓮川水系上流域の生態系保全が図られるよう緊急に求められる点について、以下質問する。

一 平成十年度「西風蓮川流域第七号砂防ダム魚道施設調査設計委託業務」報告書について

 表記の調査では風蓮川水系の熊川、三郎川、西風蓮川、風蓮川の計五か所を調査し、一か所でイトウの生息を確認している。体長七センチメートルのイトウ(ゼロ歳魚)が確認されたことは、この支流域近くでの繁殖を示唆する重要な情報である。
1 政府は、平成十五年三月十四日の「北海道矢臼別演習場の砂防施設建設によってもたらされるラムサール登録湿地・別寒辺牛(べかんべうし)湿原に生息する絶滅危惧種イトウ(サケ科)の危機及び厚岸湾水産資源への悪影響について、また別海町町道に設置される監視カメラによる住民プライバシー侵害問題等に関する質問に対する答弁書」(内閣衆質一五六第一七号)において、風蓮川水系に設置された十基の砂防施設に関する環境影響評価、工事概要について、「事業の実施に伴う周辺地域の動植物の生息等に及ぼす影響を把握するため調査を行った」としながら「具体的には、陸上植物の生育並びに哺乳類及び鳥類の生息について確認調査」と答えるにとどまっている。平成十年度の魚介類調査結果を答弁書に掲載しなかった理由を明らかにされたい。
2 札幌防衛施設局は、イトウ保護連絡協議会が二〇〇三年、二〇〇四年に要望書を提出し風蓮川水系のイトウ調査などを求めたのに対し、「演習場に係る風連川支流及び知来別川支流については、ダムの建設に当たり環境調査を実施したところ、イトウは確認されなかった」(平成十五年七月三十一日)、「先にお答えしたとおり、風連川支流及び知来別川支流については、環境調査の結果、イトウの生息は確認されておりません」(平成十六年五月十七日)と文書回答している。平成十年度に生息が確認されながら、こうした回答をした理由を明らかにされたい。
3 北海道新聞(二〇〇四年七月三〇日付け)記事「矢臼別演習場近くの風蓮川水系イトウ繁殖確認・保護団体が稚魚捕獲」は、「札幌防衛施設局は稚魚が見つかったことについて『調査位置を含めて事実関係が分からないのでコメントできない』としながら、『(過去の)道の調査では(演習場外の)風蓮川水系でイトウの繁殖は確認されていないと聞いている』と話している」と報じている。このように札幌防衛施設局は平成十年度調査結果の公表を控え続けている。政府は「ダム建設に調査結果を反映している」としているが、平成十一年以降に建設されたダムであっても水量が足りないなどの理由で魚道が設けられていないダムは数か所に上る。平成十一年二月に提出された報告書の公表を控え続けたことが、結果的にこの間の風蓮川水系イトウ個体群の保護対策を遅らせたという点についてどのように認識しているか。政府の見解を示されたい。

二 昭和五十九年度報告書について

 昭和五十九年度報告書「まとめ」では、「演習場内で生産、流出する土砂の粒径は一ミリメートル以下の細粒土砂が主体となっているが、一般的な砂防計画ではこのような細粒土砂は無害な土砂として取り扱い、計画の対象としていない。しかし、本流域では高濃度な濁水の流出は、サケ、マス等の水生生物の生息環境に与える影響が大きいと考えられ、これら細粒土砂の流出抑制に効果が大である砂防ダムの型式の選定も重要な課題である」と記述し、演習場内全域に合計四十九基の砂防ダム設置を提案している。
1 この提案の根拠となった「高濃度な濁水の流出」について、詳しいデータを示されたい。
2 今年一月に提出された検討委員会の調査報告書では、「生産源土砂のほとんどを占めている細粒土砂等については、生産源対策を実施することで対応」とした。これは昭和五十九年度報告書でも指摘した矢臼別演習場で生産、流出する主体である細粒土砂の抑制対策を、砂防ダムから生産源対策に転換したものと考えるが、政府の見解を示されたい。また、今後、演習場内に新たなダム建設を行うことは検討委員会の報告書の方向性とは相容れないと考えるが、政府の見解を示されたい。

三 湿原の保水、環境保全効果について

 今年十月上旬、台風並の低気圧が道東を通過した際、別海町では九日九時までの五十七時間に二百五十三ミリという記録的大雨となった。別海町当局によると、このとき演習場内の既存砂防ダムへの道路はぬかるんで通行不能状態だったため現場に行けず、被害調査ができなかったとのことである。八十年に一度といわれる大雨であったことから増水は著しいものであったと推察される。
1 防衛施設庁は、既存ダム建設地、あるいは予定地の低気圧による影響、被害の調査を行ったか。行ったのであれば、その結果も示されたい。
2 自然保護団体等が十一月十七日に三郎川流域の現地調査を行った際、三郎川第一号ダム上流部の湿原が残された場所では土砂流出はなかったが、ダム下流部の工事に伴って湿原の一部を埋め立て芝を貼った場所からは、芝も土砂も流出していた。十一月十一日から十二日にかけて約五十ミリの降雨があったが、土砂流出はダム工事が行われ土地を改変した場所で起きたとみられる。湿原は長い年月を経て形成されてきた自然の産物であり、湿原そのものが土砂流出を抑制し周辺の自然環境を保全する機能を持つと生態学者が指摘している。これらの谷地坊主が多数密生している豊かな湿原を工事で破壊し、ダムなど構造物を造ることが新たな荒廃地を発生させるという認識はあるか。

四 既存ダムの改良工事について

 トライベツ川ダムは今秋、ダム堤体にスリット(切り欠き)を入れる工事を実施した。これは、検討委員会が、ダム本堤の水通し部にスリットを設けることが「ダム上下流の流水の落差・分断を回復させ、イトウ等の生活環境保全に関する課題を解消できるとともに洪水時の堰上げ効果による土砂流出防止機能を維持していける最良案と考え」て提案したものの具体化である。トライベツ川ダム撤去が、環境に新たな負荷を与えかねないとして採られた次善の策とみられ、今後の土砂流出・生物生息に係わる流域環境モニタリングの継続を前提に実施されたものである。本来、土砂流出防備に効果のないダムは撤去が望ましいが、当面の改良工事は、魚道のないダムや、魚道があっても機能していない場合、ダムを撤去することで環境への負荷がさらに強まるとみられる場合などに、魚介類の生息環境保全に有効と考えられる。
1 札幌防衛施設局が九月に視察した四河川の四基のダムでは、魚道のないダムが二か所、また魚道はあっても水深が浅すぎたり、流速が速すぎるなど構造上の欠陥により機能していないダムがある。その上流部はイトウの良好な産卵場所とみられており、生活史全体を通じて河川上下流を行き来し、孵化した河川上流部の支流にまで遡上し産卵孵化することで世代交代を行うイトウにとって、改良工事は河川上流部での安定的繁殖に寄与すると考えられる。また、四基のうち三基のダムで、サクラマスが遡上を妨げられているのを札幌防衛施設局も確認したことが報じられている。イトウにとってもサクラマスにとっても演習場内は良好な繁殖場所だが、ダムが環境悪化させているのである。これら四基のダムの改良工事を早期に検討すべきと考えるが、政府の見解を示されたい。
2 道東のイトウを守る会の砂防ダム視察では、これまでに十基のダム付近でサクラマスの稚魚や幼魚が採捕されている。これはダム付近での産卵を示唆するものである。サクラマスは北海道漁業にとって非常に重要な種であり、風蓮川水系流域では孵化放流事業を中止し自然繁殖のみに頼っていることから、その繁殖環境保全は漁業資源のためにも重要度を増している。この点について、別海町はイトウ保護連絡協議会への「矢臼別演習場内風蓮川水系の砂防ダム事業に関する要望に対する回答書」で「魚道が設置されていないダムにおいてイトウに限らずサクラマス等のサケ科の繁殖に影響が生じている様であれば生息環境保全に努めていきたい…札幌防衛施設局並びに関係機関との調整が必要」(平成十八年九月十五日)と述べている。政府は別海町とも協議し、検討委員会の検討結果をいかして、これらの改良工事を早急に検討すべきと考えるが、政府の見解を示されたい。

五 三郎川第六号ダムの凍結について

 三郎川第六号ダムは平成十七年度に若干の設計変更により、堤高六メートル、堤体三十三メートル規模となり、今年度から三郎川支流に工事用道路などを着工している。しかしながら、今年十一月の自然保護団体等の現地調査では、取付道路のための樹木伐採が新たな荒廃地を造り出しており、ダム予定地は「支流」という表現も不適切な三十から五十センチメートルの幅と水深の沢であることが明らかになった。そこは「幅三十センチの川なのに…」と報道されるほどダム建設の必要性に疑問を示される場所であった。また、周囲には手付かずの自然の湿地帯が残されており、多数の魚類が発見された。
1 この支流について建設前に生物調査は行ったか。
2 現地調査では多数のヤマメが発見された。漁業資源保護にとっても重要性の高いサクラマスの自然繁殖がダム建設により受ける否定的影響について政府は認識しているのか、見解を示されたい。
3 この支流域及び三郎川流域について土砂流出調査を行っているか。
4 取付道路、建設資材置き場等の工事による土地改変面積、樹木伐採面積、伐採本数及びダム建設により消滅する湿原の面積を明らかにされたい。
5 三郎川下流には取水用堰堤があるが、堰堤上流で地元住民が繁殖期のイトウ親魚を目撃しており、演習場内の支流域を保全することが生息環境保全に重要な役割を持つと考えられる。三郎川第六号ダムは既設の第一号、第七号と同様、水量が少なく魚道は造ることができないため環境への影響は大きなものとならざるを得ない。予定地は極めて自然度の高い環境が残されていることにもかんがみ、ダム建設中止を早急に検討すべきではないか。

六 来春のイトウ調査の対象河川について

 前回答弁書では、来春の調査対象河川を「イトウを発見したとされる場所」としている。
1 札幌防衛施設局は今年九月、専門家、自然保護団体等とともに四河川のダムの現地視察を行っているが、四河川が選ばれた理由を明らかにされたい。
2 専門家等は四河川以外にもイトウの生息の可能性が高い河川があると指摘している。調査は今後の対策の基礎となるものであり、専門家等の知見、情報を幅広く収集し、四河川以外にも調査対象を拡大してできる限り広範囲に調査を行うべきと考えるが、政府の見解を示されたい。

  右質問する。