質問主意書

第165回国会(臨時会)

質問主意書


質問第二八号

教育の基本に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十八年十二月四日

荒井 広幸   


       参議院議長 扇 千景 殿



   教育の基本に関する質問主意書

 今後日本の教育に関し数十年にわたって影響力を持つこととなる重要な法案である教育基本法改正案の審議が本院において行われている。しかしながら、政府案、民主党案ともに重要な視点が欠如していると思われる。次代を担う子どもたちに、よりよい教育環境を提供することは、私たち国会議員の党派を超えた使命であると考える。
 そこで、以下質問する。

一 人生経験豊かな人が教育に携わる必要性について

 今後、教員の大量退職時代を迎えることから、都道府県・指定都市の教育委員会においては、中長期的な視野から計画的な採用・人事を行うことが重要である。質・量両面で優れた教員を確保するためには、社会人経験者の登用促進や、採用選考の受験年齢制限の緩和・撤廃、退職教員を含む教職経験者の積極的な活用等、多様な人材を登用するための一層の改善・工夫を図ることが必要である。
1 今年度の教員採用試験において、年齢制限を完全に撤廃した自治体は七県市に留まる。全国的に年齢制限を撤廃すべく、国として制度的な措置を講ずるか、教育委員会を積極的に指導していく必要があると考えるが、政府の見解を示されたい。
2 学校現場の最高責任者である校長については、平成十二年四月から校長の資格要件が緩和されたところであるが、民間人校長は今年四月現在百二名に留まっている。今後、地域や学校の実情に応じ幅広く人材を確保する観点から、全国的に積極的登用を図る必要があると考えるが、今後の方針を含め、政府の見解を示されたい。

二 教育の寺子屋化について

 明治期の日本が急速に近代化を達成しえた背景として、寺子屋による高水準の教育が庶民の間で広範に定着し、高い教育基盤を社会に与えていたことが指摘できる。地域の多くの人々が、師匠として、あるいは運営資金援助者として寺子屋を支えてきた。このような地域住民による学校への参画は、今後の教育にも必要な視点と考える。
1 各地域で学校を盛り立てていくためには、地域の多様な人材が積極的に学校に関わり、支援するとともに、その経験を子どもたちに伝えることができるような制度的仕組みが必要である。今後の方針を含め、政府の取組方針を示されたい。
2 現在の教育行政は、国と地方の責任分担、地方の中では首長と教育委員会の責任分担が不明確である。また、事件や事故の際、保護者や本人の責任が問われることは希である。このような場合、寺子屋の師匠のように権威を持って指導に当たる学校の責任者としての校長の役割が重要となる。国、地方、首長、教育委員会の責任分担の一層の明確化、保護者や本人の責任を問う体制及び校長の権限の拡大が必要と考えるが、今後の方針を含め、政府の見解を示されたい。

三 作文教育の充実について

 作文は、思考をまとめ、表現する活動として重視すべきである。自分自身や、自分を取り巻く家族、友人等を見つめ、自分の生まれ育ったふるさとや社会、自国について考え、折に触れ見つめ直すことは、アイデンティティー形成の上から必要な作業であり、その手段として自分の言葉で書き表すことは重要なことである。しかし、近年、自分の言葉で主張できない子どもが増えている。この背景には、国語教育の軽視、とりわけ作文教育の軽視が大きな原因であると考えるが、作文教育の充実について、今後の方針を含め、政府の認識を示されたい。

四 学校の成績が人間の評価ではないとの視点の欠如について

 先の履修漏れ問題に明らかなように、受験第一主義、点数主義がはびこっている。子どもをペーパーテストだけで評価するのではなく、多様な面から良い点を見つけてあげて評価することが本人の自信につながり、その可能性を伸ばすことになる。これが教育の基本と考えるが、残念ながら改正案には、この点が欠如している。子どもに自信と希望を与えるよう、多様な評価の視点を教育の基本に据え、明示すべきと考えるが、政府の見解を示されたい。

五 公平な教育の欠如について

 政府案には、教育の機会均等や男女の平等などは盛り込まれているが、公平な教育、すなわち一方に偏らず、公正の観点から全てのものを同じように扱うとの視点がない。多くの子どもが私立中高一貫校に進学する地域がある一方、多くの家庭が就学援助を受けている地域があるなど、所得や地域により、実際に受ける教育の内容に大幅な格差を生じているのが現状である。機械的な平等ではなく、実質的に公平な教育を基本に据え、明示することが正義の実現という点からも必要と考えるが、政府の見解を示されたい。

  右質問する。