質問主意書

第165回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一五号

外国人技能実習生に係る厚生年金保険制度に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十八年十月三十一日

山下 八洲夫   


       参議院議長 扇 千景 殿



   外国人技能実習生に係る厚生年金保険制度に関する質問主意書

 外国人技能実習生(一定の事業主に使用される外国人技能実習制度における出入国管理及び難民認定法別表の「特定活動」の在留資格をもって、より実践的な技術、技能等の修得のための活動を行う者をいう。以下同じ。)は、厚生年金保険の被保険者の対象となるというのが政府の見解である。
 ところが、現在の厚生年金制度には、被用者である外国人技能実習生に給付の見込みが全くないのにもかかわらず、一定の事業者がその掛金を支払うという矛盾点がある。特に、巨大企業の下請を主業務とする中小零細企業において、この不合理な保険料の重課が、低工賃、低賃金という厳しい経済状況に追打ちをかけ、保険倒産の危険を生じさせている。また、外国人技能実習生からも怨嗟の声も高い。
 このような状況は、外国人研修・技能実習制度が、より実践的な技術等の開発途上国等への移転を図り、開発途上国等の経済発展を担う人づくりに協力するとの国策と、労働力不足の解消という二得性を実現するための存在意義にも反するものである。
 そこで、外国人技能実習生への厚生年金保険法適用という不当な制度の改正を求める観点から、以下のとおり質問する。

一 外国人技能実習生の位置付けと基本的権利について

 外国人技能実習生は、平成五年四月五日に労働大臣が定めた「技能実習制度推進事業運営基本方針」(以下「運営基本方針」という。)において、「『技能実習制度』とは、・・・研修期間と技能実習期間からなるものをいう。」と規定されていることから、より実践的技術等の収得のため必要な実習計画を立て、それに基づき同一の事業所で同一の事業の技能実習を行う、いわゆる「技能実習限定労働者」であると言える。
 ところが、平成五年五月二十六日付け「外国人労働者の雇用・労働条件に関する指針の策定について」(以下「本通達」という。)は、外国人技能実習生を、一般の外国人労働者として取り扱うとしている。確かに一般の外国人労働者であれば、日本の労働者と外形的にも実質的にも同一である故に、日本人と同じ権利と義務を課するのは妥当と言える。
 しかし、外国人技能実習生は「特定活動」という在留資格をもって限定付きである上に、平成五年四月五日付け「技能実習制度に係る出入国管理上の取扱いに関する指針」(以下「法務省告示」という。)は、滞在期間について研修活動の期間を合わせて三年以内と定めている。運営基本方針及び法務省告示にかんがみると、転職及び職業選択の自由がない外国人技能実習生を一般の外国人労働者として取扱うとする本通達は、憲法第二十二条に定める「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。」という基本的権利に抵触すると考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

二 外国人技能実習生にかかる厚生年金保険制度に関する質問主意書(第一五四回国会衆質第三〇号)に対する答弁書について

1 政府は、平成十四年三月一日付けの「外国人技能実習生にかかる厚生年金保険制度に関する質問主意書」(第一五四回国会衆質第三〇号)の答弁書(以下「本答弁書」という。)において、「厚生年金保険制度は、被用者の老齢、障害又は死亡について保険給付を行い、」と答弁しているが、厚生年金保険法第一条は、「この法律は、労働者の老齢、障害又は死亡について保険給付を行い、」と規定している。法律の規定した「労働者」とは異なり、「被用者」との答弁は、外国人技能実習生等を同制度の対象に含める拡大解釈であり適法ではないと考える。また、外国人技能実習生は、一般的な労働者、通常の雇用契約者ではなく、いわゆる「技能実習限定労働者」にすぎず、厚生年金保険法に定める被保険者に含めるべきではないとも考える。これらについて、それぞれ政府の見解を示されたい。
2 政府は、本答弁書において、「事業主との間に一定の使用関係が認められれば、被用者の日本国籍の有無にかかわらず、強制的に適用することとしている。」と答弁しているが、「一定の使用関係」とは、具体的にいかなるものか説明されたい。また、「強制的に適用する」との文言でなく、「強制的に適用することとしている」との文言であるのは、原則強制的に適用するがそうでない場合もあるという趣旨か。このような文言とした理由を具体的に説明されたい。

三 厚生年金保険法と外国人技能実習生の関係等について

1 政府内において、累次にわたる厚生年金保険法改正案の立案過程で、外国人技能実習生に関する議論がどのように行われたか、説明されたい。
2 国民年金法等の一部を改正する法律(第一三一回国会成立)は、脱退一時金制度が盛り込まれているものの、その趣旨は永住帰国した中国残留邦人等に対する特例措置であり、外国人技能実習生については想定外であった。中国残留邦人等に対する特例措置が講ぜられている一方で、二年を超えて我が国に在留できない同実習生を、脱退一時金の特例制度があることをもって、厚生年金保険法の被保険者とする理由を明らかにされたい。

四 「厚生年金保険に関する行政評価・監視結果に基づく勧告」について

 総務省は、本年九月十五日、厚生労働省に「厚生年金保険に関する行政評価・監視結果に基づく勧告」を行ったが、その内容を見ると、外国人技能実習生に係る事項は一切触れられていない。その理由を明らかにされたい。また、このことは、外国人技能実習生に係る厚生年金保険制度は問題がないとの認識を示すものであるのか。政府の見解を明らかにされたい。

五 厚生年金保険料と給付金の関係等について

1 二年を超えて我が国に在留できないため、二十五年の老齢基礎年金の資格期間を満たすことのない外国人技能実習生に対して、厚生年金保険料の支払いを一律に義務付けることは、年金財政の均衡(年金制度の給付と負担の関係)を失すると考えるが政府の見解を示されたい。
2 政府は、「外国人技能実習生は、障害厚生年金、遺族厚生年金の支給対象となる」旨を国会において答弁し、その有用性を強調しているが、実際に支給された事例は寡聞にして聞かない。外国人技能実習生に係る遺族年金及び障害年金の給付について、件数、支給金額、納入保険料に対する給付金の支給率等の最近十年間のデータを年度別にそれぞれ明らかにされたい。
3 脱退一時金の支給額は、本人負担額の約四分の三であるが、一定の事業主の負担相当分について全く支給又は返還しない理由を説明されたい。なお、これらにより、外国人技能実習生を厚生年金保険法の被保険者とすることは、外国人技能実習生及び一定の事業主にとって、共に無意味であると考えるが、政府の見解を示されたい。

六 外国人技能実習生の民間保険加入について

 現在、外国人技能実習生は、研修の際に民間保険へ加入し、その保険料を全額事業主が負担し、傷害及び疾病並びに賠償事故等に備えることにより、国の給付以上の保護施策を実行している。
 例えば、岐阜県日中友好研修生受入協同組合連合会の資料によると、外国人技能実習生については、傷害での死亡・後遺障害における保険の最低基準給付額が七百万円、在留期間二十四か月・保険期間二十五か月での保険料最低基準が一万五千九百円となっている。
 このような民間保険の加入により、外国人技能実習生の私的な傷害及び疾病並びに賠償事故等への備えは十分可能であると考えるが、政府の見解を示されたい。

  右質問する。