質問主意書

第165回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一三号

矢臼別演習場内風蓮川水系のイトウ保全対策に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十八年十月三十日

紙 智子   


       参議院議長 扇 千景 殿



   矢臼別演習場内風蓮川水系のイトウ保全対策に関する質問主意書

 陸上自衛隊矢臼別演習場内(以下「演習場内」という。)の風蓮川水系で今年、自然保護団体、専門家によって絶滅危惧種イトウの生息、繁殖が確認されている。我が国のイトウは本州では既に絶滅し、北海道でも比較的大きな個体群は宗谷、根室・釧路地方などわずか六個体群とされ、成熟した雌親魚数は北海道全体でも千尾を少し超える程度と推定されている。環境省レッドリストでは絶滅危惧種1B類に指定され、今年五月には国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで最も生存が危ぶまれるCRレベル(絶滅危惧種1A類)に登録された。
 一方、風蓮川水系では昭和五十年代から土砂流出防止ダムの建設が進められたことから、イトウの遡上、産卵を妨げ、生息環境を大きく悪化させたと言われている。下流域の風蓮湖・春国岱は昨年、ラムサール条約湿地に登録されたが、風蓮川水系のイトウ個体群は絶滅寸前であり、その保全対策は急務であることから、現在、風蓮川水系に設置されている十四基のダムのイトウへの影響を調査把握するとともに、建設中二基、計画一基を含めたダムの抜本的見直し等早急な対応が求められる。
 そこで、以下質問する。

一 イトウの生息状況の早急な調査について

 今年、専門家が演習場内風蓮川水系の中でイトウの繁殖の可能性のある九基のダムを調査し、このうち三基で産卵・孵化を確認した。
1 防衛施設庁は、これまで「演習場内風蓮川水系ではイトウの生息は確認していない」としている。しかし、こうした重要な調査結果にかんがみ、早急に風蓮川水系におけるイトウの生息状況・産卵・孵化等の調査、ダムの影響調査を行うべきではないか。政府の認識を示されたい。
2 かつて防衛施設庁は、演習場内別寒辺牛川水系トライベツダム建設前にイトウの生息を確認したにもかかわらずダムの影響を過小評価して建設を強行し、その後、自然保護団体、専門家の指摘によって調査検討をやり直し、ダム計画見直しに至った経緯がある。そうした経緯を重く受け止め、調査時期、調査方法、調査主体など、最も適切な対応ができるよう、イトウの生息状況・産卵・孵化等の調査、ダムの影響調査に、専門家、自然保護団体の意見、経験を反映させる手立てを採るべきではないか。政府の認識を示されたい。
3 1、2を踏まえ、生息調査結果が出るまで、建設中のダムは工事を凍結すべきではないか。政府の認識を示されたい。

二 早急な土砂発生源対策について

 学識経験者及び地域に精通する有識者等から成る矢臼別演習場・別寒辺牛川水系土砂流出対策等検討委員会(以下「検討委員会」という。)が今年一月に提出した最終調査報告書(以下「最終報告書」という。)においては、川を濁らせる生産源土砂のほとんどを占めている「浮遊砂」「ウォッシュロード」という微小な土壌成分は、水中で沈殿しにくくダムで食い止めることが困難だとして、水辺環境保全を前提とした土砂流出対策、植栽などを提起している。また、演習場内で頻繁に繰り返される演習が荒地を増大させ、これが凍結・融解、降雨によって表面侵食を起こし土砂の発生・流出要因となっているとも最終報告書では指摘している。最も根本的な発生源対策は、陸上自衛隊各方面隊、米国海兵隊による年間約二百五十日から三百日に及ぶ実弾射撃訓練等を減らすことだが、当面、検討委員会が提起した土砂流出対策を急ぐ必要がある。
1 演習場内別寒辺牛川水系における土砂の発生源対策事業の予算規模、事業計画、モニタリング等対策の現状をそれぞれ明らかにされたい。
2 風蓮川水系における土砂流出防止対策として、風蓮川水系は別寒辺牛川水系と同様の地質であることから、別寒辺牛川水系と同様の措置が効果的であり、早急に対策に着手すべきであると考える。風蓮川水系における土砂流出防止対策をどのように講ずるのか明らかにされたい。

三 既存のダムの調査について

 演習場内の実弾演習による土砂流出が川下にある風蓮湖でのシジミの減少を引き起こしたため、風蓮川水系の砂防ダムの建設が進められてきた。
1 既存の十四基及び建設中の二基のダムについて、建設前に土砂の発生・流出量の調査を行っているか、それぞれ明らかにされたい。また、行っているのであれば、調査結果の概要を示されたい。
2 既存の十四基及び建設中の二基のダムの設置場所について、その選定理由及び上流域に演習場が存在するか否か、それぞれ明らかにされたい。
3 防衛施設庁は二〇〇四年度に風蓮川水系の三か所のダム堆砂量調査を行っているが、風蓮川残流域第三号ダム、風蓮川残流域第六号ダム、白鳥川第四号ダムが調査対象に選ばれた理由をそれぞれ明らかにされたい。
4 3の調査結果についてそれぞれ明らかにされたい。また、その調査結果についてどのように評価しているか説明されたい。
5 風蓮川水系の他のダムに関し、堆砂量調査など土砂流出防止効果の調査の必要性について政府の認識を示されたい。

四 ダムの建設中止と既存ダムの抜本的見直しについて

 検討委員会によるダム撤去を視野に入れた検討の結果、トライベツダムについては撤去することが新たに環境に負荷を与えるなどとして、撤去は見送られた。この結論は、一度建設されたダムの撤去がいかに困難であるかを示している。
 また、イトウは生活史が十年以上と長く、河川流域全体を利用して生活する稀少種であることから、その保全には技術的にもコスト面でも流域全体にわたる河川環境の保全による個体群の育成保全が不可欠であり、生活史全般にわたる上流から下流までの生活環境の保全とそれらをつなぐ河道の確保が必要と専門家は指摘している。
1 トライベツダムの前例にかんがみ、現在計画中の一基については慎重に対処し、イトウの生息状況、イトウへの影響、ダムの土砂流出防止効果等の調査を実施し、その結果を十分踏まえるべきであり、各種調査を行うまでは、ダムの建設を凍結すべきではないか。政府の認識を示されたい。
2 風蓮川水系の既存ダムについても、撤去を含め抜本的に見直すべきではないか。政府の認識を示されたい。

五 風蓮川水系ダム調査検討委員会の設置について

 別寒辺牛川水系については、検討委員会が設置され、専門家による調査検討が行われた。風蓮川水系についても同様に、各種調査を科学的に検討する第三者機関を設置し、公開の議論、追跡調査も含め対応できるようにすべきではないか。政府の認識を示されたい。

  右質問する。